第27話 はぐれインセクター・マンティス

 オーストは言葉が出なかった。傭兵時代の戦友だった鎌田切人が今、あすかの首に鎌をかけているのだ。


「おい!貴様!その汚らしいもので、あすかに触れるな!殺すぞ!」

「フッ。そういうのだよ。」


 ホークは非常に激しい言葉を断つ続けに放った。それだけあすかは大きい存在であることを察していた鎌田は不敵な笑みをこぼした。


「貴様、何が狙いだ。」

「トリガーを引くんだよ。」

「トリガー…だと。」

「そうだ。戦争因子を上げていくためには俺たちテロリストがうってつけなんだよ。」

「テロリストだと…。」

「我ら…『シザーズ13』。変身。」


 そう言うとカマキリ型インセクター・マンティスに変身した。周りの鎖鎌の男たちも同じ姿となっていた。


「鎌田…お前、インセクターだったのか。」

「ああ、お前と離れてから遺伝子改造をしたさ。戦力増強のために。」

「戦力…増強だと…?」

「ああ。俺にはこれしかないからな。」


 マンティスに変身した鎌田は自分の鎌をじっくり見ながら言った。


「そこの黒いお前には、わかるんじゃないのか。」

「何だと…。」

「直観だがな…お前の目、戦争しかしらない目をしている。」

「そうだな…。だが今は違う。俺は自分を見つけるためにこの戦いを終わらせる。」


 マンティス鎌田は舌打ちをした。


「鎌田…お前、何で」

「何でテロリストに?どうして頼らなかった?とでもいうつもりか?思い上がるなよ…立川。貴様にはわかるまい。帰る場所があり、戦い以外の道を見出せたお前にはな!幼少期から親の顔も知らない俺は兵士として育てられ戦いの中で生きることを義務付けられた。つまり平和な世界ってやつが俺たち兵士を殺すんだ。挙句の果てにインセクターの中でも居場所がない。俺は絶望したよ。だから、こんな世の中はすべて滅ぼす。」


 一息おいてマンティス鎌田が問うた。


「立川…戦争の根源はなんだ?」

「…。」


 考える間を置くこともなくマンティスは答えた。


「憎しみだよ。」

「何…。」

「あいつは許せない、殺す。よくもやったな、殺す。殺す殺す殺す。そうやって憎しみが争いを広げる。だから憎しみの器であるこいつの中の戦争因子を上げる。そしてバードマンとインセクターの戦場に赴き、すべて葬る。人間のエゴとともにな。」

「鎌田…武装を解除して投降しろ。」

「やはりバカだなあ。そんなことしてどうなる。ベーシックは俺たちを人間としては見ていないからな。殺処分になるのが関の山だ。」


 もうオーストは言葉を出せなかった。語彙力がないからではない。どこにも『穴』が見当たらないと感じたのだ。


「フッ…やれ。」


 周辺にいたマンティスたちが一斉に跳びかかってきた。ホークとクロウはとっさに体が動いた。2人が振りかざした剣は彼らの銅を割いた。


「体が…そう動いた。」

「鎌田…もう1度言う。武装解除しろ。お前では俺たちに勝てない。」

「俺を…見くびるな!」


 マンティス鎌田は首に鎌をかけていたあすかを突き放し、オーストに鎖鎌を投げた。鎌は見事に大地剣に絡みついた。マンティス鎌田が引っ張ると大地剣はオーストの手を離れた。


「勝った!死ねええええええ!」

「どりゃあああああああああ!」


 切りかかってきたところをほんの一瞬の隙をついてオーストのキックが鎌田の腹部にもろに当たった。


「ぐああああああ!」


 マンティス鎌田は思いっきり吹っ飛んで倒れるとそのまま動かなかった。オーストは変身を解き立川の姿に戻るとそのまま鎌田の元へ駆け寄った。鎌田は息はあるが仰向けになったまま動こうとしなかった。


「はあ…はあ…。俺の…負けだ。」

「もういいだろ…鎌田。投降しろ。」

「本当に…それしか言わないんだな。」

「お前、人は殺したのか。」

「……。」


 後ろから烏丸と灯夜がやってきた。


「ここに来るまでに調べたが『シザーズ13』なる組織の活動実態はない。」

「あんた…まさかこのためだけに。」

「フッ…さあな。」


 仰向けのままいつものように鼻で笑った。


「戦争因子157…排除…排除…。」


 その時一筋の光が鎌田の身体を貫いた。鎌田の身体は一瞬で蒸発して消えた。立川には鎌田が最期に何か勝ち誇ったような、成し遂げたようなそんな顔をしているように見えた。


「あ…私…私…。」

「あすか!」


 『排除』を終えるとあすかは元の姿に戻り、力を無くしたように倒れた。彼女は『破壊天使』の存在により近づいてしまった。


 帰還前に立川は小さな墓標を立てた。


「鎌田、お前の勝ちだよ。」


 それだけ言い残し、一同はハイエースでこの場を後にした。

 

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