第25話 守るための戦い

「ねえ灯夜、私ね…。」


 『天使の奪還』の一件以来、灯夜とあすかは単なる家族みたいなものの関係を超えて結ばれた。灯夜の今まで以上の支えもあり、あすかは少しずつ笑顔を取り戻した。いつか自分が無差別破壊兵器になるかもしれない、その恐怖を抱えながらも自分の出自にも、少しずつ向き合おうとしていた。


「私…自分が何者なのか知りたい。」

「あ、あすかはあすかじゃないか。何を知る必要があるんだ。」

「そうじゃなくて。私はどうして生まれて、そしてあの町にたどり着いたか…。私がどうしていけばいいか」

「あの町って…あそこは俺たちを追い出した奴らの町だ…。そんなところに行かせられない。それに、またあすかが戦いに触れるようなことがあれば…。」

「そうならないための、俺たちじゃねえか。」


 2人に割って入ったのは意外にも立川だった。後ろから顔をのぞかせるように烏丸もいた。


「あすかにも、知る権利っつうもんがあるだろ。」

「でも、今更…。」

「会っても話してもくれないってか。行ってみなきゃわからねえだろうよ。それに行けば、プログラムの停止方法がわかるかもしれない。」

「立川さん…。」

「ありがとう、灯夜。私、灯夜がいたから決心が着いたの。それに、もう守られるだけなんて嫌だから…。」

「あすか…。」

「彼女がそうしたいと言った。連れて行ってやれ。」


 烏丸が顔をのぞかせながら言った。


「まさか烏丸に説得されるなんてな。わかったよ、みんなも協力してほしい。」

「当然。」

「みんな…ありがとう。」


 こうして立川、烏丸、灯夜、あすかの4人で「天使のルーツ」を探る旅に出た。この旨を鷲尾に告げたら以外にも何も言わずに了承した。認めた、と言うよりそこに意識が行ってないような、そんな感じだった。近藤との一件があったからだろうと推測するのは難しくなかった。

 立川が運転しているハイエースは土のにおいがした。椿が畑から野菜や肉といった食材の運搬に利用するからだ。


「椿さんの野菜や肉がなかったら俺たち死んでますよ。」

「それに…あの人の料理を囲んでるときは笑顔になれた。」

「ああ、あいつはそんな日常を忘れさせたくなんだ。それに俺たちも…な。」


 立川はバックミラー越しにあすかを見た。


「だからよ…あすか、見ててくれよ。俺たちは争うんじゃない。守るために戦うからよ。」

「うん…。」

「ちょっと立川さん、あすかが戦いを見るのはまずいですよ!」

「それにその戦いの意味が分からない。」

「お前たちはよお…。まず烏丸。いつも鷲尾が言ってるだろ…この空の下で守りたいものはって。」

「俺にはない。戦いしか知らない。」

「だったら人を知れ、世界を知れ。そして見つけてみせろよ。その戦いの先にあるやつってのよ…。灯夜、お前はあるだろ。」

「俺は…あすかを…。」

「お前は違う意味で重症だ。」

「何でですか!」

「お前はあすかにこだわりすぎだ。」

「だって…。」

「平和な世界ができたらどうする?全部が全部あすかについていくつもりか?」

「それは…。」

「いつまでもあすかは破壊兵器じゃねえんだぞ。あすかの命だけじゃない。あすかの未来、あすかの見たい世界全部守れよ…。」

「立川さん…。」

「いいか、この戦いの先を考えることを忘れるな…。俺たちはその平和な未来を守ってるんだぞ。」


 そう言いながら立川は大きめの駐車場を見つけると突然ハイエースを停めた。


「おい、烏丸、灯夜、やるぞ。守る戦いってやつをな。」


 両サイドは黒い車に挟まれていた。ハイエースはたちまち鎖鎌を持った男たちに囲まれた。


「まずい!剣を抜かないと」

「待て!相手がインセクターやバードマンとは限らねえ!」

「じゃあどうしたら。」

「俺が相手になる。お前たちはあすかを連れて建物に逃げろ!警察を呼んでもらえ!」

「いや立川さん守るために戦うって!」

「殴るだけが戦いじゃねえ!お前の戦いは、逃げることだ!」


 立川はそう言って車を降りると鎖鎌の男たちに次から次と飛び掛かった。烏丸も加勢した。しかし鎖鎌が次から次に投げられ距離を詰められない。刃が立川の左頬をかすめた。首をはねられるのも時間の問題か、そんな時だった。細長い男が鎖鎌の男の首根っこをつかんでぶん投げると他の男に構える暇も与えず1人、また1人と蹴散らした。鎖鎌軍団はずいぶん粘着質な行動をとった割にはあっさりと去っていった。蹴散らした男の姿を見て立川は思わず叫んだ。


「鎌田!」




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