第22話 烈風剣士の憂鬱

「ぐほっ…ぐはあ…」


 今日はいつにもなく不知火のリジェクションは強く出ていた。不知火が苦しみの果てに薬に手を伸ばしたとき、ドアを2回ノックする音が聞こえた。


「近藤です。」

「入ってくれ。」


 近藤がドアを開けた瞬間、胸を押さえている不知火が視線上に入った。


「あ、すいません…。」

「構わんさ。」

「まさか…リジェクションですか。」

「ああ…今日は特にひどくてね…。」

「人間と他の動物の遺伝子を無理矢理融合したことによる互いの細胞の拒絶…。」

「ああ…これも人間のいきすぎた科学技術の発展の副産物だよ。そうして『消費期限切れ』我々は捨てられていくのさ。君たちは人間にとって最高傑作の一つだ。それを利用して我々バードマンの、次の時代の担い手となってくれたまえ。」

「隊長…。」

「すまない。今の話は忘れてくれ。報告があるんだろ?」


 不知火の話し方が兄のような柔らかさから、隊長の直線的な厳かさに一瞬で切り替わった。


「はっ。インセクターの第6番隊が翼のレジスタンスによって壊滅させられたとのことです。」

「そうか…。『天使』は。」

「『発光』したそうです。」

「徐々に天使の力も覚醒しつつあるな。早急に始末せねばな。」

「すいません。俺が…。」

「気にするな。あれは君一人でどうなることではない。」

「そうですが…。」


 そういって何か出かかった近藤は右奥歯を少しかみしめた。


「近藤よ。」

「はっ。」

「……君はこの空の下に守りたいものはあるか。」

「バードマンの自由と名誉、そして恒久の平和です。だからあなたについてきました。」

「そうか。」

「でも時々わからなくなります。」

「どういうことかな。」

「俺はバードマンが人間に作られた存在であることを知り、戦争を誘発した人類からこの力を持って戦力と戦意を奪うために管理下に置いたあなたの考えには賛同しているつもりです。」

「それで…何がわからないのかな。」

「鷲尾です。すべての人類の自由を守るなんて言って、インセクターだけじゃなく俺たちとも戦い始めて、天使も匿って…あいつの絵空事でどれだけ世界が狂ったか…みんなもそうだ!椿も白鳥も雷太も!全員に過ちに気付かせて連れ戻すんだ…絶対だ…。」


 徐々に独り言のようになった近藤の話し方に、さすがの不知火も少し困惑していたが近藤はそんなことに気づかず詰め寄った。


「言ってくださいよ不知火さん!あなたは正しいって!教えてください!人間を管理し、インセクターと天使を排除し、鷲尾たちに俺の正しさを証明した先に何があるのか…。」


 2、3秒ほど天井を仰いだ不知火は一言放った。


「世界征服…かな。」

「え…。」

「戦いを終わらせるには一方を滅ぼすか、戦力・戦意を完全に奪うしかない。それが完全に成功したとき、われわれは世界征服をしたことになる。おそらくそんな私を討つのは鷲尾だ。」

「鷲尾が…。」

「君はどんな形であれ鷲尾を超えたいんだろう。ただもう普通の幸せは求められなくなるよ。支配者になっても、それを討ち取る英雄になってもね…。」

「それでも…。」


 そういって何か出かかった近藤は再び右奥歯を少しかみしめた。


「ついてきたまえ。」


 不知火は近藤を武器庫に連れて行った。入ると奥の方に真新しい剣が埃をかぶって眠っていた。


「これは…。」

「『疾風剣』だ。君にやろう。」

「お、俺が…どうして。」

「君は『風』を司る剣士だからな。バードマンの原点である風を最後まで守り抜いたのは君だけだ。」

「隊長…。」


 そのとき、不知火のコマンダーが突如なり始めた。


「私だ。勤務時間はもう終わったんじゃないのか。」

『すみません。インセクターの第5番隊が破壊活動を始めた模様です。場所はポイント0836。』

「わかった。すぐに実働部隊を動かす。」


 不知火はスイッチを切った。


「聞いたな。すぐに向かってくれ。この2つの剣で…君を阻むすべてを断ち切れ。」

「はっ!」


 武器庫を出ると烈風剣を抜きコンドルになった。


「俺は…烈風剣士コンドル!そして…。」


 もう1つの剣、疾風剣を抜いた。


「この2本の剣と双翼で、平和と俺たちの尊厳を守る!」


 そう誓ったコンドルはデッキから飛び立った。信じた先の未来に向かって。

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