第21話 業火

 第6番隊・直翅部隊隊長、田端猛は捉えたあすかを移送しインセクター科学陣に徹底的に調べさせた。その科学陣があすかが人間の身体ではないことを明かすのにはそんなに時間がかからなかった。


「隊長。彼女は人間兵器であると同時に大容量の情報端末です。」

「情報端末?」

「ええ。彼女はその情報の中から『戦争』を引き起こすものを選定して破壊活動を自動的に行うようにシステムが作られています。」

「自動的に…このままいけば我々も。」

「ええ。こちらが扱える代物じゃありませんよ。一番安全なのは、メモリを消去して普通の女の子としてどこか争いのない世界に送り込むしかないですね。」

「それはできないな。消去したところでまたデータは蓄積される。それに…争いのない世界なんてどこにもないさ。」

「では…どうするおつもりで?」

「消去じゃなくて『書き換え』を行う。我々に敵対するバードマン共と戦争を引き起こすベーシックヒューマンを滅ぼすようにプログラムを書き換えるんだ。」

「隊長!それはいわゆる『脳改造』じゃないですか。人体実験が公になった今でも禁忌とされているはず…!」

「わかっている。でも誰かが業を背負わねばならない。争いをなくすためにはどちらか一方を滅ぼすしかないのだ。俺たちの…自由のために!」

「…。」


 自らの種の防衛のため、意を決した田端はあすかのいる部屋に入った。


「…あなたは?」


 あすかがおびえながら訪ねると、かえって怪しさが際立つような優しさで話し始めた。


「うちの隊の者が手荒な真似をしてすまなかった。私はインセクター第6番隊・直翅部隊隊長、田端猛。君を悠久の平和へと導く予定の者だ。」

「悠久の…平和?」

「ああ。そのために君の力を借りたい。」

「私の…私は…知らない。あなたたちには…協力…できない!」

「そう言うと思ったよ。でもね、君には特別な力がある。君は争いを終えるために『造られた』んだ。」

「造られた…わからない。」

「わからなくていい…苦しまなくていい…その力は君の意識の外にある。ちょっとアップデートさせてもらうよ。」

「いやああああああああああああ。」

「くっ…ホッパー!」


 田端は配下のホッパーたちを呼んだ。彼らは一斉にあすかを取り押さえようとしたその時だった。


「インセクター・ホッパー…危険因子係数79.2。センソウインシト判断、消去…ショウキョ…。」


 そういった瞬間、4方向に放たれた光が瞬く間にホッパーたちの体を貫き、ホッパーは塵も残さず一瞬で消えた。


「センソウインシ。ショウキョ、ショウキョ、ショウキョ…。」


 そう言いながら謎の光を放つと、部屋にある装置を次々と爆破した。


「これが、『天使』の力の一端…このままでは。」


 田端は逃げた。無我夢中で逃げた。後方からの爆音に耳も傾けず情けない姿で息せきかけて走り、躓いた。その先には炎凰剣士・ホークがいた。


「あ…あ…。」


 田端の頭をホークが踏みつけた。


「お前…あすかに何をした。」

「お…俺は…俺は…。」


 田端は踏みつけられて我に返った。自分の蓄積された劣等感と反骨心を思い出した。ただ出てくる言葉は完全な逆恨みだった。


「お前たちさえ…お前たちさえいなければ…。消えろ…空から見下すお前たちは…消えろ!キングホッパーーーーーーーー!」


 田端はトノサマバッタ型の隊長機・キングホッパーに変身した。


「緑森剣・落葉!」

「当たらん!」

「月光剣!スピンスラッシュ『満月』!」

「当たらん!!貴様らは『飛べる』かもしれないが、俺も『跳ぶ』ことができる。この跳躍力をしてかわすことなど造作もない。」


 剣士たちは飛び跳ねるキングホッパーに攻撃を当てることができない。キングホッパーは地上にいたホークを捕まえ上に大きく回転させるように投げ上げた。


「ホッパー!きりもみサイクロン!」


 ホークは空中で錐揉み回転しながらそこから発生した竜巻に巻き込まれた。


「このままでは空中で身動きが取れない…。だが…俺は!あすかを!守る!」


 意を決したホークは炎を身にまとった。その炎は熱風を巻き起こした。


「うおおおおおおおお!」

「これは…。」

「灯夜が自分の属性をここまで…末恐ろしい奴だ。」

「な、なんだこれは。あれが…炎の剣士の力か。」


 スワローとクロウも驚くしかなかった。嵐の中で燃え盛るホークはその炎をキングホッパーに向けた。


「ヒートブレイズ!サイクロン!」

「だめだ!逃げられない!うおおおおおおおおおおああおあおおあああ!」


 キングホッパーの体は一瞬にして炎に包まれた。


「馬鹿な…俺が…こんな奴に…俺は…インセクターの自由を…うわあああああ!」

「人の自由奪った奴が、自由を語るな。」

「くそおおおおおおおおおおお!」


 断末魔の残響と炎だけが残った。ホークはそのままあすかを探し飛び去った。


「あすか!あすかあああ!」

「と…灯夜!」

「あすか!あすか!」


 燃え盛る炎の中、2人は抱き合った。


「灯夜!私…私ね…。」

「大丈夫だ。大丈夫だから。俺があすかを守る。あすかを陥れる奴も、自由を脅かす奴も…俺がすべてを燃やし尽くす業火になる。」

「センソウインシとハンダン…。」

「…え?」


 思わずホークはあすかから離れ、剣を収めて飛鷹灯夜に戻った。我に返ったあすかは泣きじゃくって話した。


「あ…ごめんなさい。でも、来ないで…。私…全部壊す『天使』らしいの。このままでは灯夜を…殺してしまうかもしれない。」

「なんだっていいよ。あすかはあすかだ。俺だって…だから絶対に離さない。」


 2人は再び抱き合った。辺りの炎はやはりスワンのアクアドラグーンによって沈下された。さすがの彼も今回は骨が折れる思いだったようだ。


「灯夜…あすか…。」


 合流したイーグル・鷲尾輝星は抱き合う2人を様々な思いを頭で回しながら遠目で見ていた。

 

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