第20話 天使の奪還
「何が因子だ。てめえは俺たちを常に監視できる立場にいるはずだ。」
「フッ、我々だってどこにでも監視カメラをつけてるわけじゃないんだよ。それに因子は人間でいうダウジングマシーンみたいなものだ。ここにいる彼らだってそれによって惹かれあってるんだからね。」
立川は啖呵を切ったものの不知火は事も無げにかわした。鷲尾は淡々と質問を始めた。あふれ出そうな怒りのマグマを必死に抑えながら。
「ここに来た目的は。」
「話が早いね。君たちが探している少女の居場所を部下が見つけた。」
「…何故それを俺たちに教える。」
「我々としても『天使』が今覚醒されると困るからね。」
「天使…覚醒…貴様、あすかについて何か知っているのか。」
「貴様…か。つれないなあ。かつて『家族』だった間柄じゃないか。」
「余計なことを言うな…さっさと答えろ!」
鷲尾は剣を不知火の喉元に突き立てた。イーグルとなったその体を白鳥と椿が制止した。
「鷲尾…今は落ち着いてください。」
そう言った白鳥の手は震えていた。鷲尾はゆっくりと剣を鞘に納めた。
「…あれは文明破壊システム。行き過ぎた文明を終わらせる装置さ。」
「装置…?あすかは人造人間とでもいうのか。」
「『あれ』は戦争を引き起こす因子と判断したものを自分の意思とは無関係に破壊するらしい。詳しいことは私も知らないがね。とにかく、『あれ』が起動しないためには争いの因子を近づけず、無益な殺生はしないことだ。」
「…。」
「情報量が多くて何も言えないかな。やるべきことは一つ、速やかに『天使』を奪還し隊長のみを倒せ。」
「もとよりそのつもりだ。」
「座標は送った。」
「ならもう話すことはない。消えろ。」
不知火は不敵な笑みをこぼして消えた。鷲尾は啖呵を切ったものの、取り返した後のことを考えると固まってしまった。わかっていたのだ。不知火はこうなることを。
「…ねえ、行かないの?」
きっと千鶴が言葉を発しなければこの沈黙、いや膠着は何分続いただろうか。
「だって…だってさ…昨日も一緒に鍋作って、人狼ゲームやってさ…今日からいきなり人間じゃないから、もう戻れないなんて…おかしいよ。鷲尾さん、助けに行かないなんて…ないよね。」
千鶴は必至に鷲尾をゆすって、その場で崩れるように地面にへたり込んだ。
「あすかちゃんって『天使』なんだよね…。きっとかわいいんだろうなあ。」
「何だ陽太。お前あすかが好きなのか。」
「そんなんじゃないよ。あの子には灯夜君がいるからね。でも、仲間を取り返したい気持ちは同じだよ。」
「ういも助けに行くのだ!」
「ういはお留守番だ。」
立川きょうだいの思いは剣士たちが飛び立つには十分すぎた。
「鷲尾…もう気持ちは決まってるんでしょ?」
「兵器とか、システムとか、それ以前にあすかは意思を持って俺たちの前にいるよ。俺たちは、『人間』の自由を守るために戦う。それが翼のレジスタンスだからね。」
「…千鶴、灯夜に通信を入れてくれ。」
千鶴の顔に太陽のような明るさが戻った。
「これより、天野あすかの救出を敢行する!」
----------
ホーク、スワロー、クロウはクジャクとの戦闘中に千鶴からの通信を受けた。
「コンセントレーション!よそ見してんじゃあないわよ!レインボー!フェザー!ビットぉー!」
極彩色の羽とクジャクの剣が行く手を阻む。緑森剣士スワローはスピードを生かした戦法で木から木へ幹を蹴りながらフェザービットをかく乱した。
「何時ぞやかはあんたに救われたわね…それが命取りになるわよ!」
「こいつ…コンディション100パーセントだとこうなのか!」
そしてクジャク本体と月光剣士クロウがつばぜり合いの状態になった。
「烏丸!アンタはアタシを殺して何を手に入れたの!」
「俺は…!」
「何も言えないじゃない!結局アンタは戦うことしかできないの!立場が変わっただけの殺人マシーンなのよ!」
「それでも!俺は!」
クロウが少し、クジャクを押し返した。
「業を背負っても、お前らのような争いの権化を倒す!俺のような子どもが二度と生まれないために!」
「言うように…なったわね!」
「飛鷹灯夜!お前は行け!」
「烏丸!」
「烏丸の言うとおりだ!お前はここで戦うのには向いてない。だから…お前が行ってあすかを救ってこい!」
「させないわよ!」
クジャクのフェザービットが一斉にホークを狙った。
「くっ…どけよ!俺は行かなきゃいけなんだ!あすかを守るために!」
その時だった。ホークの身体は炎に包まれた。その火の粉がフェザービットを1つ、また1つと落としていった。
「何が起こったというの?」
戸惑うクジャクに火の鳥と化したホークは剣を向けた。
「行くぞ火の鳥!ヒートブレイズ!」
ホークを纏った炎は火の鳥となってクジャクに飛んで行った。
「ぎゃあああああ!」
とっさにかわしたクジャクだったが右半身をかすめた。
「なんて威力なの…。まあ、今日はこの辺にしてあげる。あんた、結構やばいわよ。」
そう言い残しクジャクは去って行った。スワローとクロウがホークのもとに集まった。
「さてと、俺たちの『天使』を助けに行きますか。」
「…。」
「はい。」
スワローとクロウは黙ってうなずき、ホークは静かに力を込めた返事をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます