第18話 天使の行方
「不知火隊長、どうやら『天使』が力の一端を使ったそうです。」
「見たよ。まだ、鷲尾たちは気づいていないみたいだね。」
不知火は不敵な笑みを浮かべると部下に近藤を呼ぶよう命じた。近藤は来るとすぐさまあすかが放熱した映像を見せた。
「これは…。」
「噂の『天使』だよ。あれを駆除しろ。」
「『あれ』を『駆除』って…あくまでも人間の姿をしてます。力だけを奪う方向にはできないでしょうか。」
「気持ちはわかる。だが、あれを放っておくといずれすべてを滅ぼす。まったく…人間というのはこうも我々を社会から排除したがる。それにインセクターも黙っちゃいない。つらい仕事だが…やってくれるね?」
「あなたが、そういうなら…。」
自分を少しでも納得させるべく大きく深呼吸した近藤は静かに部屋を去った。
「彼はまじめだからできないわよ。」
「…お前か。」
「やっぱり『第1世代』は特別?妬けちゃうわね。」
「お前にもいつか出てもらうさ。新しいからだが馴染めばね。」
「とっても気持ちいいわよ。リジェクションのない体…。今度こそ斬って、斬って、斬りまくるわよ。烏丸。」
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灯夜とあすかは拠点から少し離れたスーパーに買い出しに来ていた。第3番隊であすかが『放熱』をしたあの日以来、外出は一同の誰もが反対したが彼女のレジスタンスの役に立ちたいという思いが強く、バードマンを必ず誰か1人同伴することを条件に外出を認めることとした。
「こうやって2人で外出るのも久しぶりだな。」
「うん…。」
「よくじいちゃんにおつかい頼まれてさ。」
「うん…。」
「ごめん。辛いこと思い出させた。俺も、思い出しちゃった。」
7秒、沈黙が続いた。あんなに一緒だった2人なのに、自分たちの身の回りのことがあまりにも変わりすぎて本来の互いの距離感を見失ってしまった。
「なあ、あすか。」
「なあに?」
「その…体はさ、大丈夫なの?」
「うん…。」
さらに4秒、沈黙が続いた。
「ねえ、灯夜。」
「何?」
「私…さ…。」
灯夜はあすかが何か絞り出すのを待った。あすかは声を震わせながら話した。
「時々自分が分からなくなる…。この間みたいなことがあって…。私が何者なのかわからない…もしかしたら人間じゃないのかもって…。」
灯夜は言葉が出なかった。あすかは自分の理解を超えた何かを背負っているのではないか。それを支えられるのか。唯一の家族である自分が彼女の希望の灯になれるのか。そもそも今なんて言えばいいのか。
そんな少年少女の葛藤のノイズはバイク音がすぐにかき消した。バイクは全部で6台。あっという間に2人を囲んだ。
「くっ…こいつら、インセクターか?」
あすかがいること、自分の炎の属性、1対6となった状況。これらを総合的に考えるとあすかを抱えて逃げることが妥当な状況だった。しかし、灯夜は『戦う』ことを選んだ。逃げるためには6人の追っ手が『いなくなる』のがベストと考えたからだ。灯夜は剣を抜き炎凰剣士ホークに姿を変えた。それに呼応するかのようにライダーたちはインセクター・ホッパーに変身した。
「あれ…翼のレジスタンスか?」
「嘘?こんなところで戦闘?」
そんな街の声はホークには一つも聞こえなかった。
「炎凰剣!」
ホークは自らの剣を振り回すもののホッパーの跳躍力で悉く剣技を回避された。
「当たらない!せめて炎が使えれば…。」
市街地での戦禍を大きくするわけにいかず、ただ敵を1人ずつ倒すすべもなく攻めあぐねいていたところを自分の45°斜め上から弾丸のように蹴りかかってきた。
「ホッパーーーキック!」
「ぐあああ!」
ホークの身体は思い切り地面にたたきつけられた。そのキックの戦士こそ第6番隊・直翅部隊隊長、田端猛であった。
「あ…ああ…。」
怯えるあすかを見ると田端はぼそぼそつぶやきだした。
「これがあの放熱した少女…彼女は何者なんだ。とても特別な力があるように思えん。どうみてもベーシックヒューマンの少女だ。調べる必要がある…。」
「やめろ!あすかに触るな!」
「安心しろ。殺しはせん。」
そういうと田端はあすかを抱えて戦線を離脱しようとした。
「灯夜!とうやーーー!」
「あすかーーーー!待てお前ら!あすかを返せ!」
ホークはすぐさま追いかけようとするもホッパーたちの妨害に遭う。
「離せ!離せ!うおおおおお!」
そのとき、彼の怒りの炎は実態となって表れた。紅蓮の炎がホークの身体を覆い、たちまちホッパーたちを燃やし始めた。
「ギ…ギギ…。」
ホークを囲んだホッパーはすでに燃えカスとなっていた。ただ田端は炎の向こうにあすかを連れ去って逃げた。
「あすか…あすか…。」
狼狽えながらも燃え続けるホークのもとにようやっとバードマンたちが駆け付けた。
「ホークが…燃えてる?スワン!」
「流水剣!アクアドラグーン」
ホークは無事『沈下』された。
「あすかは、あすかはどこに!」
イーグルが詰め寄るとホークは弱々しく答えた。
「あすかはさらわれました。バッタに…。」
今のホークには力も、闘志も残されていなかった。あすかの影はもうなく、辺りは灰と黒い煙が残るのみだった。
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