第17話 虫王会議

 『翼のレジスタンス』による宣戦布告は日本中に大きな波紋を呼んだ。数日のうちに動画の再生数は伸びていき、バードマンでありながらバードマンに属さない彼らに対してある者は世界の変革への期待を、またある者は世界の均衡が崩れる不安と恐怖を感じていた。


 この事態に翼のレジスタンスに駆逐対象とされたインセクターは各部隊長が一堂に会した。インセクターには総司令官のような立場の者は存在せず、部隊の運営や各種決議は各大隊長による合議制によってのみ行われる。これを『虫王会議』と言う。


「まずは自由のために戦い、命を落とした第3番隊隊長・南風原隼人に黙とう。」


 第1番隊・甲虫部隊の隊長、甲本誠の発声により隊長全員が南風原を偲んだ。ただ、目を開くとそんな悲しみがもとよりなかったかのように会議は始められた。


「先の大戦以来、隊長格が死んだ。あの『翼のレジスタンス』とやら、完全にターゲットは俺たちだ。奴らは速やかに叩かねばならん。」


 甲本が危機をあらわにすると隊長の反応は様々であった。 


「南風原は策を立てず隊長機の力を過信しすぎた。兵の配置を間違えず1人ずつ追い込めば勝てるさ。我らの毒ガスと破壊音波があればね。」

「言ってくれるね。僕らの毒針と完璧なフォーメーションをもってすれば一気に殲滅できる。」


 第5番隊・半翅(はんし)部隊隊長の亀梨風磨と第4番隊・膜翅(まくし)部隊隊長の蜂須賀裕三が互いに自信を覗かせると唯一交戦経験を持つ第7番隊・蜻蛉(せいれい)部隊隊長、秋津飛龍が割って入った。


「待て。奴らの狙いが俺たちだということを忘れたのか。お前たちは自分のために部下の命を散らせというのか?それにバードマン本隊との戦いもあるのに戦場を増やせば非戦闘要員…お前たちや部下の家族まで被害が及ぶかもしれないんだぞ。」

「でもたったの7人だ。策をもって確実に刺して落とす。」

「秋津…戦力が少ないから消耗させたくない気持ちは分かるが奴らはリジェクションの無い完全な戦士、奴らは一人でも戦局をひっくり返す力がある。本当の脅威になる前に隊の力を持って倒すのがベターだと思うがね。」


 彼らが言い合う様子を黙ってみていた第6番隊・直翅部隊隊長、田端猛がひとつ疑問をぶつけた。


「戦力が映像に映っていたやつらだけとは限らない。3番隊の生存者に話を聞いたが奴らに同行していた少女が放熱をしたらしい。」

「田端、まじめなお前にしては奇妙なことを言うじゃないか。」

「からかうなよ。もしかしたら俺たちの相手はバードマンだけじゃないってことだからな。」

「田端の言うとおりだ。奴らの戦力を把握するためにもっと多くの情報を俺たちは集めなければならない。死んだ仲間たちのためにも確実にこの戦いに勝利し、俺たちの権利を、自由をつかみ取るために!」


 それを聞くと全員、三々五々に散っていった。最後に会議室を出た第2番隊・鱗翅(りんし)部隊隊長、蝶野かずはが余熱を早く冷ますように独り、セリフを投げ捨てた。


「今日さ~会議ってやる意味あったの?」


----------


 町ではゴキブリ型インセクター・コックローチとシロアリ型インセクター・ターマイトが暴虐の限りを尽くしていた。そんな白と黒が織りなす絶望を七色の剣士が希望に塗り替えるかのように現れた。


「うおおおおおおお!ラリアットおおおおお!」


 勢いよく突っ込んだのは『翼のレジスタンス』の自称切り込み隊長、オースト。


「まったく、剣使えよ、剣を。緑深剣!木葉隠れ!」

「月光剣!クレッセントブーメラン!」

「雷光剣!雷撃照射!」

「流水剣!アクアドラグーン!」


 スワロー、クロウ、オウル、スワンは固有のアビリティを活かした戦いを披露した。


「ホーク!剣を合わせろ!太陽剣!」

「は、はい!炎凰剣!」

「ファイアープロミネンス!」

「キシャーーーー!」


 紅蓮の炎は燃え盛った。炎の中でコックローチの一人が問うた。


「なぜだ…なぜお前らはそこまで…」

「勘違いするな。俺達は自由を脅かすものすべてを斬るだけだ。種の根絶やしではない。二度と俺たちの前に現れるな…。」

「忘れるなよ…。お前たちがつかんだ自由の中で、悲しむ奴がいることを。お前たちの言う平和に多くの血が流れたことを…。」


 残ったコックローチやターマイトはすべて敗走していった。炎も流水剣によってすべて沈下されていた。


「お前たちこそ…人を殺しておいて。」

「だが、事実だ。咎は受けるさ。」


 ホークのインセクターに対するマグマのような感情は、イーグルにすぐにかぶせられた。


「…もう、この部隊は再編成はできませんね。」

「ただこんなゲリラ戦だけやっても意味はない。隊長機をすべて倒す。そこは変わらない。」


 大きな戦いの傷跡は残ったものの、人間の犠牲者も出さずイーグルたちもいずこへ消えた。立つ鳥は後を濁さないのだ。




 

  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る