第15話 ベルゼブブ襲来

 バードマンを模した戦士・オーストは圧倒的なパワーを武器に大剣を振り回していた。


「大地剣!うおおおおおおおお!」


 その戦い方は斬るというよりも『ぶっ飛ばす』や『潰す』といった動詞が当てはまるものだった。また飛べない分、圧倒的な脚力で跳んで次から次とハエ叩きのように落としていった。


「くそっ…!なんだアイツは…。」

「我々には、隊長が…隊長機がある。このままではすまさん!」


 もちろんバードマンたちも押していたことからインセクター・フライの軍勢は漫画の雑魚キャラのような捨て台詞を吐いて撤退していった。


「よし…。」


 敵がいなくなったのを見てオーストは右腕にある変身アイテムのようなもののスイッチを押して変身を解いた。大柄な男はオーストの豪快なイメージそのもので変身前の素顔には大きな驚きはなかったものの、バードマンたちは誰も剣を鞘に納めなかった。


「おいおい、あんたたちには人間の顔ってもんがないのか。」

「我々バードマンは剣が外気に触れている間は変身を解くことができない。」

「そうかい。まあいいや。俺は立川大地。あんたたちの仲間になりに来た。」


 バードマンたちは耳を疑った。ホーク・飛鷹灯夜の幼馴染の天野あすかは人間でありながら一緒に行動している。しかし共に戦うとなればまた別の話だ。


「あんた、この戦いに人間が加勢するのがどういうことかわかってんのか?」

「そうですよ。安易な戦争への介入は戦禍を広げるだけです。あなた一人のために多くの人間が…大事な家族の血が流れるんですよ…!」


 スワローに続き彼を止めようとしたスワンの言葉は実感のこもったとても重いものだった。立川が背を向けると男女2人と子どもが彼に向ってきた。


「兄ちゃん!お疲れ…ってこの人たちがあの。」

「そう。バードマンの皆様だ。」

「はじめまして。妹の立川千鶴です。」

「同じく弟の立川陽太です。これは末っ子の立川うい。」

「こんちは。」

「見ての通り俺たちは4きょうだいだ。」


 立川の厳つい顔も少し緩んだ。


「き、君は家族を戦いに巻き込んでいるのか。」


 オウルがそう聞くと立川は緩んだ顔を少し締めた。


「俺たちの両親はあの時のあんたたちの戦いに巻き込まれて死んだ。きょうだいを学校に行かせるために俺は高校を辞めてアーマーを使う傭兵になった。装甲戦士はそこらのバイトより収入はあったさ…。でも気が付いたら戦争に巻き込まれたはずの俺がいつしか、戦争に加担していた。だから傭兵を辞めて、俺たちで戦いを終わらせるための戦いを始めた…。」


 全員が固まった。


「別にあんたたちもインセクターの野郎も恨みはない。俺たちは戦争『そのもの』を憎んでいる。戦争を起こしたすべての奴らを…!」


 風の音だけ聞こえる中、イーグルは切り裂くようにいつもの問いかけをした。


「お前は…この空の下に守りたいものがあるのか。」


 立川はきょうだいの方を一瞬向いて、イーグルたちを見た。


「あいつらの可能性…かな。千鶴と陽太は奨学金借りながら高専でそれぞれ機械工学と情報工学を学んでいる。俺のために、戦争の道具をつくるためにな…。本当ならあいつらが学んでいることをもっと別なこと…誰かを生かすために使ってほしいんだ。だから終わらせるんだ…。あんたたちと一緒にな。」


 イーグルはその話を聞き、剣を収めようとしたその時だった。黒い影がものすごいスピードで飛ぶ音がその場にいる全員の耳をつんざいた。黒い影は大きな竜巻のようになり、バードマンたちを囲んだ。立川がふと振り返るとバンの近くにいたきょうだいの姿はなかった。それと同時にホークのそばにいたあすかの姿もなかった。それらに気づいたとき、すでにうるさい飛行音も突風もやんでいた。


 辺りは大量のインセクターのフライとモスキートに囲まれていた。そしてその上空には立川のきょうだい、そしてあすかがとらわれていた。


「千鶴、陽太、うい!」

「あ、あすかああああああああ!」

「フン、人間の分際でわれらの戦いに割って入るとは実に愚かだ。」


 その声の主の手があすかの下あごに触れると、ホークは感情を爆発させた。


「貴様!貴様は何者だ!その汚らしい手で、あすかに触れるな!」

「俺はインセクター第3番隊・双翅(そうし)部隊隊長、南風原(はえばる)隼人。この人間たちの命が惜しければ変身を解除し我々に命を捧げろ。少しでも抵抗しようものなら男は上空から突き落とし、女たちはわが部隊のフライの栄養素とさせてもらう。」


 ホークは言うまでもなく敵を殺しにかかる勢いだったが大事な家族の人命がかかっては簡単に動けない。


「兄ちゃん、こんな奴らの話なんて聞かないで!」

「そうだよ!兄ちゃんたちが死んだら誰が人間を守るのさ!」

「大兄ちゃん!やっちまえ!」

「うるさいぞ!おとなしくしろ!」

「千鶴、陽太、うい…くそっ!」


 立川が自らを差し出そうとしたとき、あすかを抱えてるモスキートが苦しみだした。


「隊長助けてください!この女、妙に熱いんです。ダメだ!燃える!うわああああああ!」

「あすか?」

「インセクター・モスキート…危険因子係数49.7。センソウインシト判断、消去…ショウキョ…。」

「うわあああああああ!」


 あすかの体から光のようなものが発せられモスキートの体は灰も残らないほどに燃え尽きた。元に戻ると意識の失ったあすかの体はまっすぐ地上に向かっていった。


「あ、あすか!」


 ホークはすぐ飛び出しにあすかの体をキャッチした。他のインセクターが呆気に取られているすきにクロウ、スワロー、スワンの3人が1体ずつ立川きょうだいを捕まえていたインセクターを切り落としそれぞれを助けた。


「千鶴、陽太、うい…よかった、よかった…。」


 立川は泣きながら3人を抱擁し、それからすぐに戦士の顔に戻った。


「いいか、おまえら。あすかって子と一緒に逃げろ。できるだけ遠くにだ。」

「わかった、兄ちゃん!絶対帰ってきてよ!」

「当たり前だ!」


 バンが走り去っていくのを見て立川は敵の隊長を睨みつけながらオーストに変身した。


「さて…この落とし前、どうつけてくれるんだ?」

「フン…人質解放できたぐらいでいい気になるな。俺はこの部隊全戦力を挙げてお前たちを殺しに来た。それに俺にはこの力がある…変身!」


 南風原が叫ぶとハエでありながらもどこか禍々しい意匠の戦士に変身した。


「俺はこの隊長機ベルゼブブがある。お前たちなど敵ではない!」


 第3番隊の総攻撃と隊長機の未知なる力を前に、イーグルたち6人のバードマンとオーストの互いの存亡をかけた戦いが始まった。


 

 


 

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