第13話 覚醒の雷
「父さん!母さん!」
1階の居間に降りた雷太が見たのは荷物をまとめていた両親の姿だった。
「何だ大声出して。」
「いや、だって行かなきゃ…。」
「行かなきゃって、私たちが行くのは避難所よ。聞こえたでしょ、さっきの音。バードマンとインセクターがこの近くで戦っているのよ。」
「そうじゃなくてさ。俺は行かなきゃいけないんだ、そこに。」
2人の作業の手が止まった。
「裕太…、そこって…。」
「母さん、俺は人間じゃないんだ。俺はバードマン…本当の名前は島袋雷太。あそこで戦っているのは俺の仲間。俺だけ逃げるわけにいかないんだ…。今まで隠していて、ごめん…なさい…。」
「わかっていたさ。」
そう言ったのは『裕太』の父だった。
「人類の生存圏の拡大…そのために官民一体で取り組んだバードマンやインセクターの研究に我が財閥もスポンサーとして一時期資金援助をしていたことがあった。お前が家の庭に倒れていた時の剣を見てすぐわかったよ。よりによって『第1世代』にこんな形で会うとはね。」
「父さん…そこまで知っていたの?」
「ああ…お前を『裕太』として育ててきたのは私の罪滅ぼしだ。人類の可能性だと思って投資した結果、こうして多くの人間を戦場に送り込む手助けをしてしまったんだからな。だから裕太、謝るのは私の方なんだ。本当にすまなかった。」
父は深々と頭を下げた。自分の隠し事なんか比にならないぐらいの情報量だったため、理解は追いついていなかった。ただ雷太は一つ思っていたことを両親に話始めた。
「父さん、顔を…上げて。」
父はゆっくりと雷太の顔をうかがうように自らの顔を上げた。
「正直驚いた。でも、どんな事実があったってここで過ごした時間は本当に幸せだった。だから俺は行くよ。人間と俺たちがが本当に一緒に過ごせるように。」
「どうしても…行くのか。」
「…ああ。」
揺るぎのないまなざしを見て父は書斎に何かを取りに行き、持ってくるとそれを雷太の胸に軽く当てた。
「お前がそうしたいなら、行ってきなさい。ただ最後に言わせてくれ。何があってもここはお前の帰る場所だ。私たちにとってずっとお前は『裕太』だ。」
「ありがとう。父さん、母さん。」
雷太は受け取った剣を静かに抜き、雷光剣士オウルに変身した。
「…行ってきます。」
そう言ってベランダの窓から戦場に羽ばたいていった。母は泣き崩れ、父はじっと飛んで行った方向を見つめ動かなかった。
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クロウはイーグルたちと合流した。群れから外れていたクロウに失跡した。
「遅かったじゃないか、烏丸!」
「…呼びに行った。」
「呼びに…ってまさか!」
「…後は奴しだいだ。」
スワローも敵陣をかき分けクロウに寄った。
「忘れ物、渡しに行ったんだな?」
「…ああ、忘れた。」
「おいおい…。いや、忘れ物を取りに来たのはあっちかもな。」
クロウがスワローと同じ方向を見ると、1つの閃光がこちらに向かってくるようだった。
「うおおおおおおおお!」
彼は電気を放ちながら1体、また1体とインセクターを切り落としていった。
「まさか、こいつ…『第1世代』最後の一人か…。」
インセクターたちの動揺をよそに、剣士は高々と名乗りをあげた。
「雷光剣士!オウル!」
興奮が高まっていたオウルは息が少し上がっていた。
「来たか…。」
「鷲尾、椿、白鳥…お待たせ。」
「いいんですか。ここに戻ってきて。」
「ああ…。俺には帰る場所がある…それを守るんだ。」
「君の守るもの、僕にも守らせてください。」
「もちろんさ白鳥。」
あの臆病な『裕太』はどこにもいなかった。多勢に無勢の中、最後の剣士にバードマンたちは希望を見出した。
「怯むな!撃て!撃て!」
「高電磁フィーーーーールド!」
高電磁フィールドとは、敵のエネルギー系武器を瞬時に電気分解することによってダメージを軽減する雷光剣士オウルが使用するバリアである。
「それで終わりか?今度はこちらからだ!雷光剣!サンダーショット!」
雷(いかづち)の閃光は次々と蛍型インセクター・ファイアフライの体を次々と貫いた。
「く、くそ!くそおおおおお!」
地上からファイアフライの放つ光弾を防ぎながら地上に降りたオウルは最後の一撃を放った。
「雷光剣!電光石火!」
「ぎゃあああああああああ!」
インセクターたちは一瞬で痺れてその場で倒れた。残った敵兵も引き上げていった。上空で敵を鎮圧したイーグルたちがオウルに駆け寄った。
「…みんな、ただいま。」
「お前…。」
「鷲尾、何も言わなくていい。俺はバードマンでしかいられないし、バードマンでいたい。」
「どういうことだ。」
「俺の育ての父は財閥のトップでバードマンの研究で資金援助していた。」
「何…?」
「父さんはすごく悔いていた。でも、きっとそれは平和への投資だったんじゃないかと思う。」
「…。」
「…だから俺は戦う。父さんの願いと、今まで育ててくれた母さんの愛情に応えたいから。今度は本当の俺として、あの人たちと家族になりたい。そして、すべての種族が同じ空の下で生きていく…そんな世界を創りたいんだ。君と同じだ。」
「…おかえり。」
「…ただいま。」
2人は握手を交わした。そこに烏丸が横やりを入れた。
「忘れ物、確かに渡したぞ。」
「これは学生証…。さっき渡してくれよ~。」
激闘が終わった戦場で一瞬の緩和が生まれた。
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