第11話 逃げたい翼

「最後の1人?」

「ああ、『第1世代』のな。」

「それが、何でここに?」

「因子の導き…かもな。」

「またそれか。」


 そう言って鷲尾と灯夜が入り込んだのはベーシックヒューマンにとって学術機関、研究機関の最高峰の1つである聖翔(せいしょう)大学のキャンパス内に入っていた。キャンパスライフを謳歌する学生たちを見て灯夜は浮かない表情をした。


「…どうした。」

「俺…本当は高校出たら大学行こうと思ってて、いやここじゃないんですけど。ただ、バードマンだって分かってから全部変わっちゃいましたよ。」

「学校か…。」

「すいません、そういうつもりじゃ。」

「いや、構わないさ。バードマンは高い能力を持つ。それゆえに自ら『鳥籠』へ入っていった。その中で生み出された俺たち『第1世代』は国語、数学の一般知識からバードマンとしての生き方や戦い方を教育機関の中で徹底的に詰め込まれた。」

「教育機関…。」

「ああ…。俺たちはインセクターと戦う兵器として教育された。好きなことを学び、好きな道に進むことは許されなかった…。もし奴が今、それができているなら会わないほうが正解かもしれない。」

「迷っているんですか?だってもしバードマンだってバレたら…。」

「わかっている。しかし…。」


 そんな鷲尾の迷いを消し去ったのは戦いであった。最悪の状況で2人の予感が当たってしまった。


「こんなところまで…灯夜、剣を抜け!」

「はい!」


 2人はそれぞれイーグルとホークに変身し、インセクターに切りかかろうとしたその時だった。ホークは腰を抜かした黒淵メガネの大学生を見つけた。彼の怯え方は未知の生物を見た時のそれとは違うように見えた。


「大丈夫ですか?」

「なんでだよ…。俺は、もう『終わった』つもりだったのに…。」

「え…?」


 人間の前で元の姿に戻るのを忘れていたホークであったがそれに気づかなかったのはこのメガネ学生の発言のせいだろう。


「灯夜!くっ…!」


 あすかは戦いの光景が視界に入るとたちまち頭を痛めた。そのあすかに名前を呼ばれてようやく我に返ったホークは慌てて剣を収めて人間の姿に戻った。


「あすか…と、とにかくこの人を安全な所へ。一緒に離れるんだ。」

「ええ。」


 あすかに連れられたメガネ学生は逃げる中、こんなことを聞いた。


「あなたは…あのバードマンの仲間ですか?」

「あ…その…。」

「いや、なんでもない…です…。」


 終始、この学生はバードマンについて、インセクターについて何か知っているようだったが結局何も語られることはなかった。


 一方、イーグルは独りインセクターと戦っていた。秩序を持ったハチ型インセクターの群れに物量と組織だった戦法により当代きってのエースもさすがに少し押されていた。


「まだかよ、灯夜…。」

「月光剣、満月回転斬り!」

「キシャーーーー!」


 横回転で敵陣に入り込んだクロウが敵を斬り落とした。


「緑森剣!木の葉落とし!」

「流水剣!アクアドラグーン!」


 スワローとスワンも加勢し、一気に反撃ムードになった。


「戦えるか…白鳥。」

「ええ、鷲尾。今の僕には哀れみも気遣いも不要です。でも…。」

「何だ?」

「暴走したら止めてください。」

「ふっ…。」


 4人は迫るインセクターを1人、また1人と斬り落とした。敵勢力は7割近く削られたところで撤退し、4人は結局戦わなかった灯夜のもとへ降り立った。そこには灯夜のほかにあすかと、一緒に逃げたメガネ学生がいた。鷲尾は戦いに来なかった灯夜をとがめることをすっかり忘れていた。


「鷲尾さん、その…。」

「灯夜、あすか…。その男は…。」


 鷲尾が、白鳥が椿がメガネ学生に目をやると彼はすぐに目をそらした。こういう動作は基本的に気まずい間柄ではないとやらないものだ。


「雷太…島袋雷太だな?」

「違います、違います!お…僕は、違います。」


 同様は明らかだった。そのままおそらく家がある方向に走り去っていった。何か定期入れのようなものを落としたが、気づかずに走り去った。烏丸はそれをそっと拾って鷲尾に渡した。


「ふむ…。」

「鷲尾さん。あの人何者なんですか。」

「奴は…俺たちの中で最も弱く、そして最も強い存在だ。」

「え…。」


 それから、鷲尾から5人目の『第1世代』こと島袋雷太について語られたのであった。






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