第10話 禍を呼ぶ翼
「い、いやあああああ!」
あすかはこう悲鳴をあげた後、うずくまった。
「こんな…ひどすぎる。」
灯夜がこういうのも無理はなかった。鷲尾がかつての仲間に会いに行くと行ったきり戻らなかったため、迎えに行ったそのラーメン屋の目の当たりにしたのだから。
「悪者みたいな言い方したくないが、ずらかるぞ。多分鷲尾は戦っている。」
「わかってますよ…。椿さん。」
現場を出た灯夜は椿とともに空を見上げ、そっと剣を抜いた。それぞれホークとスワローの姿になり、戦場に向かった。
「そういえば烏丸はどうしたんです?」
「あいつなら先に向かったよ。」
「…協調性のないやつ。」
「そう言うな。あいつなりに『体が動いた』のさ。」
2人が戦場についた時にはすでにイーグル、クロウ、そしてスワンがいた。ホーク以外は一人一人が一騎当千の剣士であるものの、物量で攻めるトンボ型インセクター、ドラゴンフライに対して多勢に無勢だった。
ただ、そんな状況でもスワンは目の前の敵を一人、また一人と舞うように切り倒していった。その優雅な剣技に秘めた悲しみと怒りを胸に。
「お前たちの隊長格はどこだ。」
「い…言えるか…。」
「言え!」
そう遠くないところにいたのだろう。居場所がわかるとすぐにそのインセクターを切り捨てこの部隊の総本山へ向かった。
「単独で行ったのか…まずい!」
イーグルたちは急いで追いかけた。
「ここか…。」
スワンがたどり着いた場所は大きな川をに沿って家屋が点在していた。
「どこだ…どこだ…!」
剣を持ち降りたった地は当然インセクターの拠点。住民は声を上げ一斉に逃げ出した。スワンはたちまちドラゴンフライの群れに囲まれた。正面に1人、色の違う戦士がいた。
「俺はインセクター第7番隊・蜻蛉(せいれい)部隊隊長、秋津飛龍(あきつ・ひりゅう)。ようこそ、わが部隊の拠点へ。」
「貴様が…。」
「わかるぞ、お前の憎しみが。俺の首を、獲りに来たんだろう。できるかな。お前に。」
「やってみせるさ…今、ここで。」
「この町を戦場にできるか?」
「何…?」
「ここには多くの非戦闘要員がいる。それを巻き込むことになるぞ。」
「貴様たちはすでに無関係な人間を殺した!」
「お前がいるからだよ。お前が人間の世界にいなければあのようなことにはならなかった。」
「そんな屁理屈!」
「そもそもお前たちバードマンが我々インセクターを追いやったことがすべての始まりだ…。そのうえお前たちが内乱をきっかけに人間界に潜伏している。お前たちが戦禍を広げているんだ。いや、禍そのものなんだよ…。」
「それは…わかっているさ。」
「ならば…ここで死ね。」
ドラゴンフライの隊長機がボウガンをスワンに向けた。矢が放たれたその時、黒い影が剣で矢を弾いた。
「黒い…バードマン…近藤、じゃない?」
「…。」
クロウがスワンの前に、そしてイーグル、ホーク、スワローがスワンの四方を囲んだ。
「バードマンそろい踏みか。」
「とにかく逃げるぞ!太陽剣、乱反射!」
5人の剣士は光で惑わす間に戦線を離脱した。
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「すみません。僕の無茶でみんなを巻き込んでしまいました。でも、許せなかったんです。親父さんを殺したあいつらが…。そしてそれに巻き込んだ自分自身を…。」
鷲尾はそっと白鳥に寄り添った。
「わかるさ。でも…自分の命を投げ出すな。」
「すみません…。」
椿も寄り添った。
「もう謝るんじゃねえよ。お前さん、これからどうするんだ。」
「もう戻る所なんてありませんよ。君たちと一緒に行きますよ。」
「その、なんだ。深雪さんは独りにして大丈夫かよ。」
「少なくとも僕といるよりは安全ですよ…。」
鷲尾が最後に尋ねた。
「俺たちは殺すためじゃない。守るために戦う。お前は、この空の下に守りたいものがあるか。」
「ええ。だから離れるんですよ。彼女と。」
「そうか…。行こう。」
翌日、白鳥は深雪に書いた手紙をポストにそっと入れた。白鳥は最後の1行をこうしたためた。
『さようなら。あなたはこの世界で唯一僕の愛した人でした。』
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