第9話 流れゆく日々の中で
『続いてのニュースです。政府はここ数日のインセクターの破壊活動に対して「強く非難する」と声明を表しました。総理は定例会見にて、「インセクターの行為は人類の自由を奪う行為。到底、許されることではなく強く非難する。」と発言しました。バードマンによる組織、バードニック戦隊との連携については「不知火氏と会談の場を設け、対応策を練っていきたい。」と述べるだけに至りました。続いては天気予報です。』
「おい、お客さんが来たぞ。ぼさっとしてないで注文をとりな。」
「あ…はい。」
青年の名前は白鳥流水(しらとり・ながれ)。ラーメン屋に住み込みで働いている。彼がここに来たのはバードマンとインセクターの大戦が終わってすぐのことだった。
「そういえば白鳥君、もうここにきて3年だっけ。すっかりここの看板息子になったなあ。ね、ご主人。」
「ああ、今でも思い出すよ。ひどい雨の日だった…。店の前で気を失ってたところを、娘が連れてきたんだ。」
「それが今や深雪ちゃんの夫だもんな。」
「全く、とんだ拾い物だ。」
白鳥はこの店のご主人の一人娘、深雪との結婚を控えていた。先の大戦では人知れず最前線で戦っていた。後に自分たちが人工生命体であることがわかり、それでも自分の生き方を探しに『鳥籠』を出た。バードマンに変身することなく月日がたち、日本はまだ安全とも平和とも言えない中でも白鳥はささやかな幸せを手に入れようとしていた。この日常がずっと続いていく、というより続いてくれ。そう思っていた。
ただ、一人の男の来訪が白鳥に戦いの記憶を引き戻してしまった。
「いらっしゃいま…せ…。」
白鳥が一瞬固まるのも無理はなかった。今カウンター席に座ったのはかつてバードマンとしてともに戦ったイーグル・鷲尾輝星その人だからだ。白鳥は平静を装い注文をとった。一方の鷲尾は呼び戻すわけでもなく、みそ野菜ラーメンを注文し、それを黙々と食べた。
鷲尾が会計をすませ、店を出ると白鳥が追いかけ呼び止めた。
「鷲尾…。」
鷲尾はそっと振り向いた。
「因子とは…無情なものですね。どこいにてもこうして引かれあう。」
「…そうだな。」
「僕を迎え入れないんですか。」
「…そうするつもりだった。」
「…。」
「ただ、今のお前を見て人間の中で生きてほしい。そう思った。」
「でも…僕は…。」
白鳥が何かを言いかけたとたんに店のガラスの割れる音が聞こえ、そこからすぐに女性の悲鳴が聞こえた。白鳥は鷲尾とともに店に戻ると、店長は頭をボウガンの矢のようなもので貫かれた状態で、娘の深雪がそれを見つけた。
「深雪ちゃん!」
「白鳥さん…お父さんが…おとう…さんが…。」
「くっ…誰がこんなことを…。」
白鳥の答えはすぐに出た。
「…ここだったな。以前からバードマンを匿っていたという店は。」
「バードマン…どういうこと?白鳥さん…。」
そう言って出てきたのはトンボ型インセクター、ドラゴンフライの群れだった。彼らは以前からこの地区に白鳥がいると感じ、討伐の命を受けていたのだ。
「バードマン・スワン…貴様がおとなしく出てきたら彼は死なずにすんだものを。頑なに貴様を守ろうとしたからこうなった。」
白鳥は奥歯をギチギチに噛み締めた。
「よくも…店長を…!」
そういうと、白鳥は感情の昂ぶりとともに自らの羽を広げた。
「ここは俺が戦う。白鳥はその人を連れて逃げろ。」
「え…バードマンって、その羽はどういうこと?白鳥さん。」
「後で話す。今は逃げよう。」
鷲尾は剣を抜き、イーグルに変身した。
「太陽剣士、イーグル!」
一方、深雪と逃げた白鳥はすべてを話した。
「深雪ちゃん、僕はね…人間じゃないんだ。」
「え…?」
「僕は、バードマン・スワンなんだ。先の大戦で戦っていた一人なんだ。」
「…」
「君のお父さんは何も知らない。殺されたのは僕のせいだ。」
「でも…それは…。」
「戦いから逃れてずっと…店長や君と穏やかで幸せな日々が続くと思ってた…。でも、僕はそれを望んではいけなかった。この世界では僕たちは人間と触れ合うことは許されない。」
「白鳥さん…!」
「行ってくる。」
「いつか…戻って…。」
「もう流れゆく日々は戻らないんだ。僕が壊してしまった…さようなら。」
決して深雪のほうを振り返ることなく白鳥は飛び去った。
イーグルはドラゴンフライの部隊を1人蹴散らしていた。応援は呼んだがまだ時間がかかるらしい。そのとき、白き鳥人が舞い上がった。
「ぬ…貴様、変身したな。」
イーグルは問うた。
「戦うのか?」
「ああ…もう逃げも隠れもできない。」
そういうと白きバードマンは剣を掲げて叫んだ。
「流水剣士、スワン!」
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