第7話 月と太陽

 月光剣士クロウは迷っていた。イーグル一行の討伐に来たはずなのに、その自分が命を奪った相手から一時休戦と共闘を提案されたからだ。


「信用ならないわね。聞いちゃだめよ。奴らはアタシ達の裏切り者、くっ…。」

「クジャク!」

「どうやらリジェクションが起こったみたいね…。」

「お前は逃げろ。」

「この状況で…できるわけないじゃないのよ。」


 四方からワスプ達がクジャクに突っ込んできた。その時だった。


「真空!飛燕斬!」


 一瞬にしてワスプ達の胴は真っ二つになった。残りのワスプはその刃先を探し出した。


「へっへへ…。」


 わずかに聞こえた調子のいい笑いにワスプ達は怯え、イーグルは安堵した。


「いたぞ!あそこだ!」


 気づいた時にはそのワスプは斬られていた。同時に、藍色の剣士が現れた。


「貴様…。」

「緑森剣士…スワロー!俺の森を荒らす奴ぁ許せねえ。おい、そこのクジャク野郎。逃げるなら今のうちだ。」

「誰があんたなんかに…くっ。」


 クジャクのリジェクションは治まっていなかった。体はある意味正直だ。


「アタシは先に行くわ…。クロウ、あんた死ぬんじゃないわよ。」


 そう言い残すとクジャクはワスプの軍勢が怯んだ隙に急いで飛び去って行った。これでクロウとの共闘を阻む『雑音』がなくなった。


「お前は、どうする?その…仲間が来たから状況は好転したがな。」

「…俺は…。」


 クロウには迷っている暇はなかった。地中からもう一つのアリ型インセクター・アントの群れが現れたちまちに囲んでしまっていた。クロウは背中をイーグルと合わせた。


「行くか…太陽剣!」

「…月光剣。」


 正反対に飛んだ2人は空に、地上にワスプとアントに斬りかかっていった。


「へへ…負けてらんないねえ。行くぜ、緑森剣(りょくしんけん)!」

「俺も…炎凰剣!」

「あんまり派手にやってくれるなよ。山火事になっちまうから。」

「しまった!うかつに炎は出せない。」


 制限を強いられたホークは慣れない剣さばきで一体ずつ倒した。


「緑森剣!燕がえし!」

「ぎゃああああ!」


 スワローは木から木へ移り、慣れた剣さばきで一体ずつ倒した。


「太陽剣!閃光波!」

「月光剣!満月回転斬り!」


 ある者は光にさらされ、またある者は闇に葬られた。赤と黒が青空にとても映えていた。敵の連携の取れた波状攻撃に苦戦しながらもこうして4人のバードマンはワスプとアントの群れをすべて倒した。


「椿、遅くなったな。」

「ホントだぜ。どこで道草食ってると思ったからよ、まさかこんなに蟲どもが引っ付いていたとはね。」

「フッ、それが俺たちの宿命だからな。」

「言うなよ。それにしても…」


と言いながら人数を確認し始めた。戦いが終わったことを確認し、あすかもホークのもとへ駆けつけた。


「ま、女の子を寝かせる別室もあるから大丈夫だな。」

「…。」


 クロウは剣を鞘に収めていなかった。


「ああ、初めましてもいるな。俺は椿森一(つばき・しんいち)。そこのクロウだったか…。あんたには助けてもらった礼をさせてほしい。一緒にうちの『拠点』で飯でもどうだ。」

「ちょっと待ってください。彼は敵ですよ!戦わないならこのまま返したほうが…。」

「そうだ…俺はお前たちの施しは受けん。くっ!」


 クロウは急に右腕を抑えた。先の戦闘でいつの間にかけがをしていたのだ。


「せめて傷の手当ぐらいしろ。」

「…。」


 仕方がないのでクロウは剣を鞘に納めた。その表情は氷のような冷たさを保ちつつも、その風貌は灯夜と同年代と思える少年のそれだった。


「灯夜…。私、今のこの人敵じゃない気がする。」

「あすかまで…わかったよ。」


 ホークもようやく灯夜の姿に戻った。


「名前は?」

「烏丸樹月(からすま・いつき)…。」


 こうして5人は鷲尾と椿の拠点に向かった。空は太陽が沈みかけ、満月が顔を出していた。






 

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