第5話 絶望からの旅立ち
小石は何個も飛んできた。灯夜は小石が飛んできた方向を見ると、町の住民たちがバードマン2人を排斥し始めた。
「出ていけ!今すぐ出ていけ!お前たちバードマンがいるから人が死んだんだぞ!」
「待ってよ。それはインセクターが」
そんな弁解は彼らに通じるはずがなかった。
「お前たちがいなければ来ることはなかったんじゃないのか!」
「そうよ!夫を…返してちょうだい!」
「俺は息子をやられた!」
「結局お前らも上から監視している奴らと同じだ!降りてきたら災厄ばかりもたらす。早く出ていけ!」
「消えろ!」
目の前の光景が受け入れられない灯夜は資仁にすがった。
「じいちゃん…。」
「お前のことは知らん。消えろ。」
「え…。」
「消えろといった。ワシに孫はいない。」
本当の孫のように自分に愛情を注いでくれた彼の面影はもうそこにはなく、非情な視線だけが刺さった。自分の今までの思い出と、これから戦う理由を同時に失った灯夜はすでに翼をつけただけの抜け殻になった。
「…行こう。」
それだけつぶやいた鷲尾に灯夜はトボトボとついていった。
「言っただろう。ベーシックの中には我々をよく思わないものいると。」
「…それにしてもまさかじいちゃんがそうだと思わなかった。」
「…。」
「でも、思い当たることはあるんですよ。じいちゃんからバードマンとか、インセクターとか、以前の戦いの話とかほとんど聞いたことないなって。俺たちがしゃべってもすぐに話題をそらしちゃうんです。きっと本当に嫌いだからですよね。」
「……。」
「…あなたはなぜ俺を『鳥籠』から出したんですか。」
「…お前を兵士にせず、ベーシックと同じように普通の平和な世界を生きてほしいからだ。」
「でも俺は自分の意志で、バードマンになりました。全部なくしちゃいました。本当は俺たちがこうなること、わかってたんじゃないですか。だったら…結局同じじゃないですか。」
納得のできない灯夜に鷲尾は後ろから希望が来たことを告げた。
「お前、全部なくしちゃいないぞ。」
そう言われた灯夜は鷲尾と同じ方向を向いた。そこには息せきかけてくるあすかの姿があった。
「灯夜、私も…連れてって。」
「あすか…来ちゃいけない。俺たちがすべてを敵に回してるんだ。」
「それでも、私は灯夜と一緒にいなきゃいけない…そんな気がしたの。」
「気がしたって…鷲尾さん。」
「彼女の好きにさせてやれ。」
「…わかった。あすかは俺の最後の希望だから、絶対に守る。」
「ありがとう。」
「灯夜…全部なくしてなんかいないじゃないか。」
鷲尾はそうつぶやくと笑顔を隠すように前を向いた。
「鷲尾さん、待ってくださいよ。ほら、あすかも行こう。」
灯夜はそう呼びかけたが、あすかは魂を失くしたかのようにぼーっと立って何かをつぶやいているように見えた。
「ばーどまん…危険因子係数28.3。センソウインシニナルオソレ、アリ…」
「あすかー!」
「え、何?」
呼びかけが聞こえるとあすかは自我を戻した。
「だから行くよって。」
「待ってー。」
こうして、鷲尾、灯夜、あすかの3人の旅路が始まった。インセクター、バードマン、ベーシックヒューマン、すべてを敵に回した今、真の自由と平和を取り戻すため絶望からの旅立ちだった。
-----------
一方、母艦では不知火と近藤がモニターで鷲尾たちの様子を見ていた。
「不知火隊長、鷲尾達が例の町から離れました。」
「颯、報告ありがとう。」
「隊長、『第2世代』が1体現れましたが。」
「ああ。引き続き警戒を怠るな。今はその2人だけか?」
「いえ、ベーシックの少女がいます。」
「どれ。ほほう…クジャク。」
「はっ。」
「奴らの討伐は君と烏丸に任せる」
「ラジャー。ひっひっひ…いくわよ、樹月。」
「…わかった。」
クジャクと烏丸は指令室を後にした。
「あいつらに任せて大丈夫ですか。何をするかわかりませんよ。」
「それでいいんだよ、颯。こんなところに『天使』がいるなんてな。やってくれるよ、人間。」
そういうと不知火は不敵な笑みを浮かべた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます