11-5 ハッピーバースデー、君へ

 11月23日。雪もそろそろ本降りに代わってきそうな寒い日に、戸神さんの誕生日がやってきた。でも学院はいつも通り静かで、私も、戸神さんも何も変わらずに不通に登校し、普通に学院で授業を受けた。私は朝はいつもより早く起きたから、少し眠かったけれど、戸神さんにばれるといけないので極力いつも通りに過ごした。そうして学院も無事に終わり、私と戸神さんは普通に下校して、普通に夜ご飯を食べ、普通に、いつも通りに夜の時間を過ごしていた。


 そうして過ごしていた夜の9時。私は落ち着かない胸を押さえながら、キッチンに向かった。戸神さんはもうお風呂も済ませて今は部屋で静かにしているだろう。私はそれを狙って、冷蔵庫からを取り出し、戸神さんの部屋へと向かった。戸神さんの部屋のドアをノックする前に、数回深呼吸をする。戸神さんが喜んででくれるかどうかはわからないけれど、でも、喜んでくれたら嬉しいと思う。そう思いながら、私は勢いを込めて、ドアをノックした。


「戸神さん、ごめんなさい。今、いいですか?」


「……彩葉?うん、いいよ。入って」


 私はゆっくりと扉を開いて、戸神さんの部屋の中に入った。


「お誕生日、おめでとうございます。戸神さん」


 そう言って私は手作りの小さなケーキを戸神さんの前に差し出した。戸神さんは一瞬何が起こったのかわからない、と言った顔をしていたが、ケーキを見て状況を察したようだった。


「……ありがとう、彩葉。ごめんね、ケーキまで用意してもらって」


 瞬時にそう言った戸神さんの近くに私は寄り、断りもなく隣に腰かけた。


「戸神さん、気を使わないでください。これは私の手作りなので気負わなくていいですよ」


「……え」


 戸神さんはあっけらかんとした顔で私の顔を見た。私は戸神さんが言葉を続ける前に、先に言葉を話した。


「戸神さんが誕生日を人に教えない理由を色々考えてみたんですけれど、盛大に祝われてしまうのが嫌なのかなって思ったので、あえて静かに祝ってみることにしたんです。戸神さんが気を使わないように、と思って、手作りのケーキだけ用意しました。……あの、ご迷惑だったでしょうか?」


 戸神さんはしばらくあっけにとられた顔をしていたが、すぐにふっと笑って私を見た。そうしてケーキを受け取った。持ってきたフォークでケーキを掬って、パクっと一口食べて見せた。


「……うん、美味しい。ありがとう、僕の為にこんなことまでしてくれて。すごく、れしいよ」


 戸神さんの朗らかな顔を見て、私は少し安心した。


「誕生日は、好きじゃないんだ。勿論気を遣うからっているのもあるけど、それより自分が言い生まれ方をしてないっているのがあるから。時々思うんだ、生まれてこない方が彩葉が幸せになれたんじゃないかって。でもそれをいまさら覆すことは出来ない。だから、僕は彩葉の幸せを作る人間になろうって、ずっと……」


「戸神さん……」


「でも、彩葉にこんな風に祝ってもらえるなら誕生日も悪くないと思えたよ。……ありがとう、彩葉」


「……こちらこそ、生まれてきてくれてありがとうございます。戸神さん」


 雪の降る寒い夜にも、小さな幸せはここにあるよ。


 


ハッピーバースデー、戸神さん。

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美少女な学校の王子様兼義理のお姉ちゃんに恋愛関係を迫られている件 藤樫 かすみ @aynm7080

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