11-4 逆バースデー

「戸神さんは答えてくれたんだけど、あんまり誕生日が好きじゃないみたい」


 成果報告を光に告げると、光は「そっか!」と言って、軽く受け流してくれた。今の私には光のその態度がすごく楽に感じた。


「まぁ、誕生日なんてさ、感じ方人によって違うんだから。嬉しい人もいれば、嬉しくない人もいるよ」


 そう言って光は、私をたしなめるような目で見た。


「いろりんだって、そうでしょ?」


「……うん、そうだね」


 私は暖房の効いた教室の中で、机にうつぶせて窓の外を見た。外にはちらちらと雪が降っていた。だからこんなに寒いのか、と納得する。私はそれを見ながら、光に言い放った。


「なにかお祝いを、と思ったけれど、しない方がいいね」


「……それはいろりんが自分で決めることだよ」


「……うん、でも、お祝いしたかった。私みたいな思いを戸神さんには……」


「なら、すればいいじゃん。いろりんが自分でそう決めた事なら、すれば相手だってそれなりに返してくれると思うよ」


「……うん。でも、私は戸神さんが嫌がることはしたくない。多分私が祝ったら、戸神さんは嬉しくなくても、嬉しいふりをするのが分かってるから」


「……うん。でも、あー、これは私の考えだけど、とがみんはいろりんに祝われたら嬉しいと思うよ。いろりんは他の子とは違う気がする。……その様子じゃ、誕生日までまだ時間あるんでしょ?もう少しよく考えてみたら?」


 私は光にそう言われて、こくり、と頷いた。そうだ、まだ戸神さんの誕生日までは時間がある。それまでにもう少しよく考えて、考えてから、戸神さんを祝うのかどうか、決めようと思った。






 戸神さんが嫌にならない、気を使わない祝い方って何だろう。


 妄想してみる。


 例えば、戸神さんは前の学校ですごくすごく人気者で、きっとファンクラブもあった。そんな11月のある日、戸神さんは誕生日を迎えるのだけれど、朝からいろんな人におめでとうと言われて、プレゼントも貰って、戸神さんはそれに笑顔で返す。ありがとう、を何度も繰り返す。何度も、何度も。大量のプレゼントを持って家に帰った戸神さんは、家でも盛大に祝われてまた嬉しいふりをする。みんなが気を使わないように、ありがとうを繰り返す。そうして部屋に帰ってからは、プレゼントをくれた人にお礼の手紙を書いて、お返し作業をして寝る時間も惜しむ。例えばそんな誕生日だったとしたら……?


 私は嬉しくないな、と思う。楽しくないな、と思う。人に気を使ってばっかりで、帰ってもお返しに寝る時間も取られて、何も、何一つ楽しくない誕生日だと思う。戸神さんはそれを避けるために、誰にも誕生日を言わず、ただ一人で粛々と一日を過ごす。



……そんなの、そんなのは嫌だな、と思う。

なら、例えば戸神さんの今までの誕生日がそうだったなら、私は全部、真逆のことをしてやろうと思った。

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