11-3 一年で一番好きではない日

「11月23日って……、今月、だったんですね……」


「ん?ああ、そうだね。ごめん、僕もあんまり気にしてなかったから。てっきり彩葉には言ってるつもりだったよ」


 そう言って軽やかに笑う戸神さんは、まるで誕生日のことなんてなんて思ってないような感じに思われた。ただ聞かれたから答えただけで、例えば、こう、友達に自分の誕生日を話すような、そういうテンション感ではないのだ。誕生日があたかも戸神さんにとっては、ありふれた365日の一つみたいな、そんな感じ。私はそんな戸神さんの雰囲気に思わず学院でのことを聞いてしまった。


「で、でも、戸神さん……学院では誰に聞かれても「秘密」って答えてました、よね?あ、その、戸神さんの誕生日知りたくて何人か戸神さんが親しそうな人に聞いたんですけど、皆知らないって言ってて……」


 私がそう言うと戸神さんはダイニングのチェアから立ち上がった。そうして高い目線から私を見下ろした。


「……うん、そう。実は転校前の学校でいろいろあったから誕生日は人に言わないようにしてるんだ」


「い、色々……?」


「大したことじゃないんだ。だけど、これから僕について何か聞きたいことがあったら直接僕に聞いて?彩葉になら秘密にしない。何でも答えるから。……だから、他の子に聞くのは無し、ね?」


「……はい、わかりまし、た……」


 戸神さんはそう言うと「じゃあ早いけど、僕先に寝るね。お休み、彩葉。また明日」と言って、二階に上がっていった。私はその背中をぼんやりと目で追った。



 多分だけど、予想だけど、戸神さんはきっと誕生日にいい思い出がない気がする。前の学校で誕生日に関する何か嫌なことがあって、こっちに転校捨して来てからは誕生日を誰にも言っていない。……こんなに近い私にも、言っていない。もしかしたら戸神さんは、皆が当たり前にする誕生日のお祝いが、好きではないのかもしれない、なんてことを思った。







 なんて言っているが、かくいう私も誕生日はあまり好きではない方だ。誕生日は昔の思い出を思い出してしまうから。昔はお父さんがいつもより早く仕事から帰ってきて、お母さんが張り切って作った料理をみんなで食べて、お母さんと私で作ったケーキをみんなで食べるのが恒例だった。でも、いつの間にか誕生日の日にお母さんがお出かけするようになって、お父さんとも離れ離れになって、気が付いたら私は、暗い部屋の中で市販のケーキの前で一人座っていた。市販の冷たいケーキを見る度に、私はあの暖かな思い出を思い出してしまって苦しくなるのだ。だから、私も誕生日はあまり好きではない。私も好きではないよ、戸神さん。

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