11-2 努力は泡か宝石か

 さて、平穏な日常から突然、私は戸神さんの誕生日を聞くという使命を背負ってしまった。しかも戸神さんに誕生日を聞いた先人たちは皆敗北しているという事実。これはまずい、非常にまずい。何がまずいって戸神さんが多分私の誕生日を知っていると言うことだ。戸神さんは自分の誕生日はどうでもいいくせに、人の誕生日は大切にしそうな、そんな気がするのだ。しかも何らかの手を使って、私に直接聞かなくとも自分で調べ上げて、それでナチュラルに祝うのだ。絶対に。それだけは私は避けたいのだ。だって私達、家族なんだから。どちらかが不平等なんてそんなの、家族じゃないから。


 行き止まりにばったり当たった私は、光に助けを求めることにした。


「光。どうしよう……戸神さんの誕生日、全くわからない」


「まず学院にとがみんの誕生日を知る人がいないってことがわかったね。うーん、だとしたら超大きな秘密じゃん!なんかわくわくするね~!」


「のんきなこと言ってないで光も一緒に考えてよ~!」


「ごめんごめん!メッセージアプリのプロフィールとかは?書いてそうじゃない?」


「それも試したけど書いてなかった。誕生日どころか何も書いてなかったよ」


「うおー、それは……とがみんらしいね。んー、じゃあ、先生に聞くとか?」


「他の人がやってる。でも先生は「生徒の個人情報だから」の一点張りで教えてくれなかったって」


「そこまで来ると、もはや信念も感じる徹底ぶりだね」


 私は再度頭を悩ました。何か、何か戸神さんの誕生日が分かるものは……。


 その時、光がはぁ、とため息をついたかと思うと、私の方を見た。


「いろりん」


「ん?何?あ、もしかして、何か案が出た?」


「いや、もう諦めて、本人に直接聞こう!」


「……いや、絶対教えてくれないでしょ……」


「いやいや、それが案外かもよ?だって親戚だよ?しかもいろりんが聞いてるんだよ?あのとがみんが答えないなんてことないんじゃない?」


「うう、それは……」


 捨てきれない可能性だった。と、言ううか正直思ってはいた。どこから湧き出てくる自信なのかはわからないけれど、でも、なんとなく、戸神さんだったら私の質問に絶対に答えてくれるような、そんな気がしていた。


「……挑戦、してもいいのか……」


 そうだ。もし断られたら今回は潔く諦めて、また次のチャンスを探せばいい。当たって砕けろ。うん、たまにはいいかもしれない。


 




「え?そう言えば言ってなかったっけ。11月23日生まれだよ、僕」


 これは神様もびっくりの返答の早さだった。戸神さんの誕生日を知るために奮闘した女の子たちの努力はどこへやら。戸神さんは私が誕生日を聞くと、いとも簡単に、あっさりと教えてくれた。

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