11-1 王子の誕生日はシークレット

 11月。文化祭も終わり、皆また普通の学院生活に戻った。今年もあと2か月。そろそろ年末に向けて準備しないとな、なんて考えながら私も毎日の学院生活を送っている。学校行事なんてもうないし、あとは穏やかに過ごせると思っていた、そんな時だった。それは光の言葉で気づかされた。


「ねー、とがみんの誕生日っていつなの?」


「……へ?」


 ある朝突然にそんなことを聞いてきた光に、私は驚きを隠せなかった。


「え、とがみん誕生日あるよね?あ、もしかしてもう祝った?ああ~、私もお祝いしたかったのになぁ……!」


「あ、いや、そうじゃなくて……」


 私は自分の背中に流れる冷や汗を感じながら、光の言葉を遮った。


「……?いろりん?」


「そ、そう言えば、私、戸神さんの誕生日、知らない……」


「えっ?」


 今まで友達をやってきたのに、こんなに呆けた顔をした光を見たのは初めてのことだった。







  戸神さんが私の家に転がり込んできて、同棲が始まってから約5か月。色々あったけれど、そう言えば戸神さんのことについて詳しく話したことがなかった。いろいろなことがあり過ぎて、バタバタし過ぎて、誕生日すら聞いてなかった。これはまずいぞ……と私は冷や汗を流した。いくら転がり込んできたとはいえ、私と戸神さんはもう家族みたいなものなのに。と、いううかそもそもそう言う誕生日とかは最初に聞いておくべきことだったのに。全く、私の失敗だった……。


 光に促され私はすぐに戸神さんに誕生日を聞く計画を立てた。流石に本人に直接聞くのは野暮かな、と思って、私は周りに聞くことにした。今やファンクラブも設立されそうな戸神さんの人気なら、誰かが誕生日ぐらい知っているだろう。そう言う訳で私は光と一緒に戸神さんのことが好きそうな生徒に声をかけた。だが、私達はここでも戸神さんのまさか過ぎる対応に驚かされる。



「あ、すみません、四條さん。あの少しお尋ねしたいことがあるのですけれどいいですか……?」


「……あら、桜宮さん?ええ、私に答えられることならなんでも答えますよ。それで一体何を?」


「あ、はい!あの四條さん、戸神さんのこと結構気にしてらっしゃるとお聞きして、聞きたいことがあるんです。……戸神さんの誕生日っていつかわかりますか?」


「……ああ、最近話題よね。ごめんなさい、私も存じ上げないの」


「……え?」


 その後にも数人に聞いてわかったことは、戸神さんは誕生日を聞かれると


「僕、誕生日は秘密にしているんだ。ごめんね。だからお祝いとかはいらないよ、君の笑顔が僕へのプレゼントだから、ね?」


 なんていうらしい。誕生日、生まれた日、一年で一番好きな日、自分にとって思い出深い日、色々言葉を変えて聞いても、戸神さんは一貫して誕生日どころか、誕生月や生まれた季節さえも言わないらしい。恐るべき、戸神さん。それと同時に私は肩を落とした。


(じゃあ戸神さん、絶対誕生日教えてくれないよね……)


 まさか戸神さんの誕生日一つ聞くのに、こんな苦労するとは思っていなかった。と、自分の詰めの甘さにげんなりした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る