10ー8 ファーストキスは舞台の上で
10分間の休憩を挟んで、いよいよ劇の後半が始まった。後半からはロミオの出番が多く、私は結構忙しかった。バタバタしながらも舞台は進んでいき、物語はついに山場を迎えた。
ジュリエットは神父に仮死状態になる薬を貰い、そのま間お母さんや乳母とお休みを告げて、1人で部屋に入った。ジュリエットは小瓶を目の前に、ためらうが、これもロミオとの愛のためだと自分に言い聞かせ、小瓶の蓋を開けると、そのまま一気にごくりと飲み込んだ。すると、ジュリエットはそのまま意識を失い、安らかに眠りについた。
場面は変わり朝、乳母によって起こされるはずだったジュリエットは、ベットの上で安らかに死んでいた。結婚式は葬式に変わり、皆が悲しみ、ジュリエットは協会へと運ばれた。その知らせがロミオのもとへやって来る。ロミオはその知らせを受けてすぐに、追放された故郷に戻る。そこでロミオは、ジュリエットの婚約者・バリスと自分の従者・バルザザーを殺し、ジュリエットの亡骸へと向かう。
私は戸神さんが眠る棺へと、足を運んだ。そこには死んだように眠る戸神さんがいた。私は棺の前に屈むと、そのまま戸神さんに声をかけた。台本にかかれた通りに、美しく眠る戸神さんの顔をくまなく見る。
「目よ、これが見納めだ」
そうして戸神さんの顔を見る。
「腕よ、これが最後の抱擁だ」
そう言って私は戸神さんの体を抱き、胸に顔を埋め、涙を流した。その時、ふと、私は思った。
(もし、本当にこのまま戸神さんが死んでいたら、どうしよう)
死んだように眠る戸神さんは、呼吸さえも止めているみたいに見えて、抱き締めたらだも冷たくて、なんだか、本当に、そう。死んでいるみたいなのだ。私は戸神さんの顔をもう一度、しっかりと見た。そうして胸に決めたことを、思い出した。
「唇よ、愛しい妻との最後の口づけを」
(戸神さん、ごめんなさい)
私はそう台詞を言うと、そのまま戸神さんの唇に自分の唇を重ねた。その瞬間、戸神さんが驚いたようにぱっちりと目を開いた。だけど、私はそれを無視して、そのまま唇を重ね続けた。私のファーストキスは、舞台の上で果たされた。そうしてしばらく唇を重ねたあと、私はゆっくりと顔を離した。そうし手小瓶のなかに入っている毒薬を飲むと、私はもう一度戸神さんにキスをして、
そのままジュリエットの上に倒れこんだ。
そのまま神父と従者の会話が行われたあと、協会に神父がやって来た。
「ああ、ジュリエット。目を覚ましたのか!?」
ジュリエットはすべての記憶を取り戻す。
「ああ、神父様。ロミオが私を助けに.....ロミオはどこ?まだ来ていないの?」
そう言ってジュリエットが起き上がろうとしたとき、自分の胸にロミオが倒れていることに気がつく。
「ロミオ、ロミオ、どうしたの?」
そこでジュリエットはロミオが死んでいることに気がつく。神父は人の声を聞いて、すぐにジュリエットに声をかける。
「ジュリエット、話はあとだ。ここを出ないと、人が来る。ロミオは死んでしまった。パリスもだ。あとで説明するから、とにかく早く」
そう言って先を立つが、ジュリエットは動こうともしない。
「いい子だから早く!」
だが、ジュリエットはそのままロミオを見ていた。ジュリエットはロミオが毒薬で死んだことに気がつく。ジュリエットは小瓶のなかを見たが、空であることに気づき「意地悪ね、」とこぼす。その時、戸神さんは私の唇にキスをした。さっきのお返しのようだった。私はそれを甘んじて、受け入れた。そのあと、ジュリエットはロミオの腰の短剣を手に取った。
「さあ、短剣。ここがあなたの鞘よ」
そのままジュリエットは自分の胸を刺し、ロミオの上に倒れた。
神父様は今までのことを話し、大人のつまらないいさかいのせいでロミオとジュリエットが死んだことを話す。お互いの家は、反省し、せめて天国でロミオとジュリエットが幸せになることを、祈るのだった。
「以上、2年B組のロミオとジュリエットでした」
観客席からはこれ以上ない拍手が上がり、歓声が上がっていた。役者全員で挨拶をし、舞台の幕が閉じる。最後の最後まで失敗もせず、しっかりとやりとげることができた。私は胸一杯の満足感に包まれていた。そして、それはきっと戸神さんも一緒だと思っていた。私は舞台裏でようやく重い衣装を脱いで、制服に着替えた。
(はぁ、なんとか終わった.......)
そうして着替えを終わらせて帰ろうとしたとき、後ろから声をかけられた。
「彩葉!」
「あ、戸神さん」
戸神さんはまだドレスの衣装のまま、私に駆け寄ってきた。
「戸神さん、劇、お疲れさまでした!なんとか成功してよかったですね!」
戸神さんは軽くうなずいたあと、ようやく顔を上げて私を見た。
「彩葉。どうして、キス、してくれたの?」
戸神さんのまっすぐな目は、私の胸を貫いたような気がした。
「どうしてって......」
「だって、僕のこと、まだ好きじゃないでしょ......?」
そういう戸神さんの顔は赤かった。私ははっとして、意を決して口を開いた。
「戸神さんが眠っているのを見たとき、なんか、本当に死んじゃった気がして、だから、私、キスしなきゃってすごく思って......!」
そういうと、戸神さんは驚いた顔をしたあと、ふっ、と笑った。
「なんだ、そっか。そういうことか」
そういうと戸神さんは私に近づいた。
「と、戸神さ....」
「彩葉のファーストキス、ちゃんと貰ったよ」
戸神さんはそう言って、優しく私の唇を撫でた。
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