8-1 私が輝く表舞台!
来た。遂にこの時が来た。私は配られた紙で口元を隠して、こっそりにやり、と笑った。騒がしい教室に先生が声を上げる。
「はい、皆さん!勉強は学生の本業です。賢く聡明な女性になる為には、沢山の知識が必要です。それを図れるのがテストです。大切な機会だと思ってしっかり励んでください。夏休み明けですから、決して低い点を取らないように」
そう言って先生が「号令」と言うと、今日の日直が「起立、礼」と言って朝のホームルームが終わった。みんなが口々に「テストだって、嫌ですね」と話している中、私は笑いがこらえられずただニヤニヤとしていた。
「いろりん、白草女学院生にあるまじき顔してますよぉ」
「いでっ!」
と、そんな声と共にぱさ、と配られた紙を丸めたもので頭を叩かれる。上を見上げると、苦笑いした光が正面に立っていた。
「ひかりぃ、なにも叩かなくても……」
「あのねぇ、テストで喜んでいるのなんていろりんしかいないの!もう、全然勉強してないよぉ、いろりん、救いの手を……!」
「嫌だね!テストは努力が90%。あと運が5%だから」
「何それ、あとの5%は?」
「神頼み」
「うわーん、勝算ないじゃん!」
私はまたにやりと笑って光を見た。
「夏休み明けはみんな勉強してないから少々手を抜いても大丈夫、なんて思うと一気に順位は下がるから」
「それを見据えて生物部は勉強期間ですか?」
「そ!」
光はそれを聞くと私の机にうなだれた。私は自慢げにその姿を眺めた。
来た。遂にこの時が来た。私が唯一輝ける場所。表舞台。そう、テストだ。私みたいな庶民がこの超お嬢様女学院に通えているのは『成績が良い』からだ。この学校に通う条件は『上位成績維持』。そうして私はこの学校に一位の成績で入学した。それを維持することが、私が白草女学院に通える唯一の条件なのだ。成績維持による莫大な学費の免除。それが目的で私は一年生から一位の座を誰にも譲らずにここまで来た。それは今回も変わらない。今回も最高得点をたたき出し、何とかこのお嬢様学校に通学できるようにすること。そうして少しでもお母さんに認めてもらう事。それが私の目的だ。
私が唯一出来ること、人より優れていることだからこそ、私は毎回のテストを楽しみにしている。勉強なら誰にも負けずに勝てる。一位をもぎ取れる。そんな私が部長の生物部は、私のポリシーにのっとり、始業式の二週間前からテスト勉強期間を設けたのだ。
「ああ、今から楽しみだなぁ」
苦笑いしている光をよそ目に私がわくわくとして手を合わせた時だった。
「へぇ、もしかして彩葉って勉強得意なの?」
横からよく聞きなれた声がして、思い切り振り返るとそこには戸神さんは端正な笑みを浮かべて立っていた。
「え、あ、、と、戸神さん……」
私はまずい、と思った。私が成績維持を条件にこの学校に通っていることは光しか知らない私のトップシークレットなのだ。それを知られてはまずい。非常にまずい。私のこの学院での名誉にかかわる。ただでさえ帰宅組だということで目立っているのに。私は苦笑いを浮かべて戸神さんにへたくそな笑顔を向けた。
「い、いや、ほどほどですよぉ……皆にはかなわないからなぁ……」
どうか光さん、余計なことを言わないで。そう願う。机にへたり込んだままの光が口を開く。
「学年一位が何言ってるんだか!」
ああ、終わった……。
「え、彩葉って学年一位なの?」
驚いたように戸神さんがその言葉に食いつく。私は冷や汗が止まらなかった。
「え、いや、まぁ、とったことあるよぉって話……」
「そうだよ、戸神さん。いろりんは学年一位を入学からキープ中。ずっと連勝中なの!」
もう何も言わないでくれ光ー!!!
これじゃあもう隠すも何もないな、と私はいよいよ腹をくくってしまった。最悪、私が成績維持を条件に通っていることすらばれなければもういい。それだけで。添えれ以外ならどうぞ何でも話していいから光さん!と、心の中で願う。戸神さんはさらに興味深そうに私を覗き込んだ。
「へぇ、彩葉学年一位なの?すごいねぇ、じゃあ僕も頑張らないとなぁ」
その言葉に、私の意識は一気に冷めた。
「……え?」
戸神さんはにこにことしたまま私の方を見ていた。
「僕、前の学校でも結構成績良かったから自信あるんだよ。でも、まさかライバルがこんなに近くにいるとは思わなかったなぁ」
それは、つまり……。
「僕にとっては初めてのテストだから気合は入れていたけれど、彩葉がライバルならもっと頑張らないとだね!あ、一応編入テスト受けてるから二回目か」
やばい、戸神さんの競争心に火をつけてしまった。冷や汗が止まらない私に、戸神さんは優しく笑いかけた。
「彩葉、負けないよ?」
「そうだそうだ!打倒いろりんだ、とがみん!」
光はもう何も言わないでくれ……。
戸神さんからの真正面からの宣戦布告とかどうするのって話だ。でも学年一位の座は譲れない!たとえ戸神さんでも、絶対に!本当に競争心を燃やされていたのは紛れもなく、私だった。
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