プロローグ 新学期と新生徒会長

 夏の暑さがまだまだ照り付ける中、カレンダーは8月からめくられて9月を迎えた。それは同時に夏休みの終わりを告げる。9月1日。白草女学院の大会議室では、生徒たちが姿勢正しく椅子に座っていた。


「皆様、ごきげんよう。それぞれ、充実した夏休みを過ごすことが出来たでしょうか?今年は例年と比べて部活に励んでいる生徒が多かったように……」


 校長先生が登壇して、始業式らしく挨拶を始める。私はその話を気持ち半分で聞いていた。今日は確かに始業式。新しく二学期が始まるということで緊張もしているのだが、それとは別に今日はもう一つイベントがある。多分、皆もそれが気になって校長先生の話は耳に入ってこないと思う。


 私達の学院、白草女学院では生徒会選挙が7月に行われる。そうして生徒からの票と旧生徒会での話し合いと先生達による会議で、新しい生徒会が厳密に決められるのだ。特に生徒会長に関しては生徒からの票と旧生徒会長からの推薦がないとなれない、と言う決まりがある。その為、生徒会選挙は倍率が高いのもあり毎回熾烈な争いが繰り広げられるのだ。白草女学院で生徒会長をしていた、と言う実績は大学入試に大いに役立つし、実際生徒会長になった先輩方はみんな有名な大学に推薦で進学している。それぐらい、ここで生徒会長になるというのはすごいことなのだ。また、白草女学院の生徒会長は絶対的な決定権が与えられる。例えば校則の改定などは生徒会長がイエスと言えばそれが校則になる、みたいな絶対的決定権が与えられるのだ。sれだからこそ、生徒会長は慎重に決めるのだ。


 そうして、その生徒会選挙の結果、つまり、生徒会新メンバーが発表されるのが今日なのだ。一体だれが選ばれたのか、誰がこの一年間生徒会長として活動するのか、皆が注目しているところである。


「これで校長先生からのお話を終わります。これで始業式を終わります。次に生徒会選挙の結果発表、新メンバーからの挨拶を行います。では新生徒会メンバーの皆さんは舞台の前に並んでください」


 そうアナウンスがかかると、一斉に横から一列になって新生徒会メンバーが歩いてきた。そうして並び終えると「では右側の方から一言お願いします」とアナウンスが流れた。マイクを持った一年生らしき若々しい女の子が、こくりと頷いて前を向いた。


「皆様、ごきげんよう。この度生徒会一般会員になりました。一年A組の松野春香です。これから一年間頑張りますので、どうぞよろしくお願いします!」


 そう言って一年生の女の子は頭を下げた。ぱちぱちと拍手をすると、その女の子は嬉しそうに笑った。女の子が隣の人にマイクを渡し、また挨拶をする。今回の生徒会もどうやら安定なメンバーのようだった。みんな真面目そうだし、皆意欲がある。「今年も安泰だな」と私は思いながら、挨拶を聞いていた。そうして会計、書記

と回ってきて、副会長の所まで回ってきた。私はその顔を見て「あ、」と思い出した。あの顔って……。


「皆様、ごきげんよう。この度生徒会副会長になりました。二年A組の三池田優子みいけだ ゆうこです。皆様の力になれるよう、生徒会長の補佐に努めてまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします」


 間違いない、三池田さん。ダンスパーティーの授業で戸神さんとペアだった人だ。あの人、生徒会に入っていたんだ。しかも副会長だなんて、すごいなぁ、と私は少し感激してしまった。自分の知っている人が生徒会とかにいると、少し嬉しい、と言ううか誇らしい。親戚に有名人がいる、みたいな?感じかもしれない。そうして一番最後まで回ってきた。長い三つ編みに赤い眼鏡をかけた女の子が、おどおどとしながら隣の人からマイクを受け取った。しかし、一向に話し出さない。視線をうろうろとさせている。みんなも少しざわつきはじめる。女の子はしばらく目を彷徨わせた後、はぁ、と息を吐いてから大きく顔を上げた。


「み、皆様、おはようございます!えっ、と、この度、生徒会長に、なりました!2年A組の、神楽坂名野かぐらざか なのと申します。あの、一生懸命頑張りますので、よろしくお願いいたします」


 そう言って女の子は大きく頭を下げた。みんな変わらず拍手をしたが、ひそひそと声が聞こえてきた。


「神楽坂さんって、生徒会だったっけ」


「さぁ、でもなんだかおどおどしてますね」


「あの子で大丈夫なのかしら」


「どうしてまたあの子が選ばれたのかしら……」


 みんながひそひそ話している内容は置いておいて、神楽坂さんが生徒会長になったのは私も驚きだった。まず、生徒会選挙にいたっけ?と言うぐらい印象が薄い。確か、いたような気がしなくもない。ただ、本当に印象が薄い。いつも生徒会長になる人は、はっきりとした性格の人が多いので、なんだかあんな子が選ばれるなんて巣こそ意外だ。そう思いながら見てると「では、新生徒会長から挨拶です」と言う言葉と共に、神楽坂さんが壇上に上がった。規定通りのスカートの長さに、二つに束ねられた長い黒い髪の毛は、いかにも優等生を思わせる風貌だった。神楽坂さんはそのまま、マイクの前に立つとまた大きく息を吐いてから、正面を真っ直ぐに見た。その顔は、さっきの雰囲気とは違う何かを感じた。


「皆様、改めましてごきげんよう。この度、新生徒会長になりました。神楽坂名野かぐらざか なのです。皆様の票があって、私は今ここに立っています。皆様の期待を裏切らないように、生徒会活動に正面から向き合っていこうと思っていますので、どうか皆さま、よろしくお願いいたします」


 そう言って神楽坂さんは深く頭を下げた。さっきとは打って変わって違う神楽坂さんの姿にみんなびっくりしていた。勿論、私もだ。神楽坂さんは堂々と顔を上げて、更に話を続けた。


「この場で皆様に1つ、お約束をします。私が生徒会長になった暁には、この白草女学院は皆様がありのままでいられる場所にします。勿論規律を守り、常に白草女学院の生徒であるという自覚を持つことは大事ですが、それ以上に皆様が過ごしやすい学院づくりを目指していきますので、どうぞよろしくお願いたします」


 神楽坂さんはみんなの顔を見渡して、こくりと頷くと


「どうぞ、よろしくお願いいたします」


 と、もう一度告げてから頭を下げた。


 今までの生徒会長のあいさつと言えば、頑張りますとかそんなものなのに、神楽坂さんのはめずらしいなぁ、と思った。今までも気が強そうな、いかにもお嬢様~な人が多かったのに、神楽坂さんはそんな雰囲気がなくて、むしろ優しい感じだ。接しやすそうな生徒会長って感じ。なんだか、今まで変わらなかった白草女学院に新しい風が吹きそうな、そんな予感がした。

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