7−6 君の為に可愛くなりたいんだ
すぐにメッセージアプリを開いて、光からのメッセージを見る。トーク画面には「おはよう」と言っている可愛いクマのスタンプと共に、
「今日のデート、大丈夫そ?」
と言うメッセージが来ていた。私は心配してくれていた光の気遣いに、嬉しくなった。すぐに、
「おはよう、光。今から準備する。アドバイスちょうだい」
と送る。本当に急に決まったデートだったので、私は服もメイクも決めていないのだった。そこで恋愛マスター大先生の光に、ご教授頂こうかと思ったのだ。早速私は光に
「今日何着て行こうかな、どんな色がいい?」
と、送った。1分も待たないで、光から返信が来る。
「夏だし青系のワンピースとかどう?いろりんは爽やかなの似合うしさ!」
と、来た。私はそれに従ってすぐに青系のワンピースを探したが、クローゼットを漁っていてぱっと思い出した。そうしてすぐに光にメッセージを送る。
「ごめん、光。この前のデートで青のワンピースは着ていったんだ。それに、その、」
少し送るのを戸惑うけれど、私は恥ずかしがってはいけないと思い、勢いで送った。
「戸神さん、可愛いのが、好きだって」
その言葉を文字列で見るだけでもう恥ずかしかったが、そんな事をしている場合ではなかった。すぐに光は返信をくれた。
「なるほどね、了解!じゃあ、いろりん。思い切って、ミニスカート、履こうか!赤系のスカートとか持ってない?」
「探してみる!」
そう返信して、私はタンスを開けた。もうしばらく開けていなかったタンスの中には、昔着ていたスカートやトップスがたくさん入っていた。それを見て、少し懐かしい気持ちになる。まだ、お母さんと仲が良かった頃。まだ、家が楽しかった頃。まだ、温かった頃。そんな時に着ていた服。近くのショッピングモールで買ってもらった服達。お母さんとあんなになってからは、どうしても派手な服は着ようと思えなかった。もう着ることはないと捨てようとして、でもお母さんとの思い出があまりにも残りすぎて、捨てれなくて残しておいたこの服達。それを、高校生になって着ることになるとは思わなかった。私はタンスの中から、服を漁った。思い出を取り返すように、なぞるようにして、服達に思いを馳せた。そうしているうちに、トマトレット色のスカートが出てきた。それはフレアスカートで、フリフリとしたフリルが可愛かった。私は直感的に、これだ、と思った。すぐにベットの上に置いて、写真を撮る。
「これとか、どうかな?」
そうして光に送ると、すぐに目を輝かせたクマのスタンプが送られてきた。
「めっちゃいい。可愛い!」
光の同意が得れて、安心する。
「じゃあ、このスカートに合うトップスだね」
と送ると、光は
「上は白が似合うと思うなぁ」
と、またアドバイスをくれた。私はすぐに同意して、白のトップスを探した。
長らく見ていなかったタンスの中は、思いの外服が沢山あった。白のトップスはあったけれど、種類が沢山ある。普通に半袖のTシャツや、ノースリーブのもの、袖にフリルがついているものなど、3着は出てきた。私はそれを写真に撮って、光に送った。
「沢山あるけど……。どれがいいかな?」
光からの返信はすぐには来なかった。きっと一生懸命考えてくれているんだろう。私も、これは合うかな、とかこれは合わないかな、とか色々合わせてみたりした。そうしていると、光からようやく返信が来た。
「その、ノースリーブのやつがいいと思う!きっといろりん似合うよ!いろりんの肌の綺麗さもアピールできるしね!」
と、なんとも意外な返信が来た。私的にこのノースリーブはちょっと勇気がいるなぁ、と思っていたのだ。
「こ、このノースリーブ??似合うかなぁ」
と戸惑いながら送ると、
「ぜっっっっったい大丈夫だから!!!!!!私を信じてよ、いろりん!」
と、光からの熱いメッセージが来た。私はもう一度そのノースリーブに目を向けた。戸神さんの照れたような顔で言った
『可愛いのが好き』
と言う言葉が、脳内で再生される。
戸神さんの為に、可愛くなりたい。その思いに、絶対嘘はないから。そう、私は思っているから。そう思うと、俄然と勇気が出てきた。
「私、着てみる!」
そう光に送り、私は早速決めた服を着てみた。やはり昔の服なので、サイズとか、やっぱり合わないかもとか色々心配する点があったが、ノースリーブはともかく、スカートは案外スッと入ってくれた。鏡で見た私の姿は、少し昔の私を彷彿とさせて、少しだけ気恥ずかしかった。昔、この服を着ていた時は、この服でデートに着て行くだなんて思いもしなかったのに。本当に運命というか、人生は不思議だ。なんの彩もなかった、私の人生に、こんなデートなんていうイベントが発生するとは思っていなかった。私の人生に、恋愛というものはほとんど幻に近かったのに。
「戸神さんが来て、全部変えてくれたんだ」
鏡越しに呟いた言葉に、私はこくりと頷いてしまう。私の生まれ別れた姉妹かと思いきや、私のことが好きだったり、こんなに暗かった家の雰囲気を明るく変えてしまったり、学院の王子様になってみたり、でも家では子供みたいに笑う所が、私は、とても……。
「……好き?なのかな……」
今度は、頷けない。これが、今までみたいに誰かを好きになった気持ちと同じなのかは、わからない。ほんの些細な言葉で嬉しくなってしまったり、私の方を見てくれないと、少しだけ寂しい。これは、恋なんだろうか?それとも、ただの家族愛?だから私は、それが自分の中ではっきりするまでは、
戸神さんの同級生で家族で妹でいるんだ。
鏡に映る私は、いつもの自分じゃないみたいだ。最近、どころか高校に入ってからというもの、私は制服姿以外の自分を見たことをなかった。鏡に映る自分は、いつも暗い顔をしていた。けれど、今日は……。
その時、スマホの通知が鳴った。
「いろりん!着た写真見せて!」
と、光からメッセージが来ていた。そうだ、この服を着てからすっかり返信を忘れていた。私は急いで写真を撮って、光に送った。光は数分も待たずに、
「めっちゃいい!めっちゃ可愛いよ!最高!」
なんて、テンションの高いメッセージが送られてきた。私は、
「流石に褒めすぎ……笑でも似合って良かった」
と、送った。けれど、可愛いと言ってもらえた安心感はあった。もし、似合わなかったら、と思っていたからだ。でも、ちゃんと似合った。うん、光に相談して良かった、と心がホッとした。また、光からメッセージが来る。
「いろりん、時間ないよ!ほらほら、次は、メイク!メイク!」
私はそうだった、と思って時計を見た。時計は9時30分を指していた。もう時間が迫っている。私は光に、
「そうだね!次はメイクね!」
と送って、メイク道具を棚から出した。
光からアドバイスを受けながら、可愛いをコンセプトにメイクを進めていく。
鏡に映る私は、とても笑っていた。楽しそうに、嬉しそうに楽しく笑っていた。そんな顔を、自分ができるんだという事がまた嬉しかった。誰かの為に、可愛くなりたいという思いがここまで自分を変えるとは思いもしなかった。私は久しぶりに、お出かけ前の準備を楽しんでいた。
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