5−2 shall we date?
そんな夏休みを過ごしていた、とある日の事だった。土曜日で部活もなく、折角の休日という事で私はゆっくりとテレビを見ていた。平日は家事や部活に追われてなかなかテレビを見れない。折角の大きなテレビもこれじゃあ仕事のしようがないと言うものだ。お母さんもテレビはほとんど見ないし、戸神さんに至ってはテレビを見るのかどうかさえ怪しい。こんなんじゃ使えるテレビも使えなくなると思い、私は時々テレビをつける事にしているのである。とは言っても私もテレビユーザーではない為、チャンネルをひっかえとっかえすることしか出来ない。まだ時間は午前十時。テレビはやっと盛り始めた所だろうか。でも、普段テレビを見ない私に刺さる番組は無い。人気のカフェのインタビュー番組、韓国アイドルの密着番組、芸人のグルメ番組、子供向け番組、うーん、どれもいまいち。そうしてたどり着いた先は、ニュース番組。凶悪事件からほんわかした事まで幅広く報道している。私はその画面をぼーっと見ていた。
「今日、〇〇県で行方不明だった〇〇さんが……」
最近の世の中は、本当に物騒だ。例えば通り魔に出会ったとしても、こんな殺伐とした世の中では助かる見込みの方がないような気がする。果たして、「助けてー」と叫んで、何人の人がその声に振り向いてくれるだろうか。特に私はそういうのに巻き込まれやすい気がする。それも『白草女学院』の肩書きのせいだ。全寮制で基本制服で外に出ることのない生徒達。そんな世の中からしたら存在しているのかどうかわからないのが白草女学院の生徒なのだ。帰宅組である私が今まで何回、街の好奇の目に晒されたかはわからない。そりゃあ、制服で歩いていたら珍しいと思うだろう。そんな訳で私は色々と狙われやすい気がしているのだ。そんな事を言ってしまえば、戸神さんなんかはもう危なすぎるだろう。あんな綺麗な人が、白草女学院の制服を着て街を歩く。誰でも二度見してしまうに違いない。ああ、どうして戸神さんのお父様は、戸神さんを寮に入れなかったのだろうか。私に遠慮してくれているのかもしれないが、そんな事より戸神さんの安全を考えてほしい。
「今からでも、寮を薦めてみようかな……」
なんて、現実味のないことをぼやいてみる。実際、今さらあの戸神さんが寮に入るとは思えない。折角引っ越してきて、街にも学院にも慣れてきた所なのに。それに学院はokかもしれないけれど、戸神さんならきっと断るだろう。そんな気がする。
「では、どうして〇〇さんが行方不明になってのか、詳細はcmの後で」
気づけばテレビは、ニュースからcmに入っていた。ぼんやりしていたせいで、何を話していたのかも聞いていなかった。いや、折角の休日。テレビぐらい楽しんでみなければ。そう、気持ちを仕切り直してテレビに集中する。
「女子高生が選ぶ見たい映画、No. 1!」
そんなキャッチフレーズと共に流れてきたのは、とある恋愛映画のcmだった。地味な女子高生が、有名なアイドルとひょんな事から付き合う事に……!なんていう超ありきたりなストーリーだが、私はそのストーリーに聞き覚えがあった。
「あれ、もしかしてこれって……」
そう思いテレビに食いつくと、
「あの大人気少女漫画を実写映画化!!」
と、ナレーションが入る。その時画面に映った漫画の表紙を見て、私は思い出した。それは私が中学生の時にハマって読んでいた少女漫画だった。当時の大流行で私も例に紛れずハマって読んでいたのだ。高校受験ですっかり忘れていた。久しぶりに見た漫画の絵に、私は懐かしさが込み上げてきた。
「へえ、これ、映画化するんだ」
当時この漫画のヒーロー、黒橋君がとてもかっこく見えていたのだ。アイドルで、イケメンで、少し意地悪なのに超王子様。そんなキャラクターにどハマりした。この漫画は私が『王子様』というものに憧れ始めるきっかけとなったものでもある。それが実写で映画化。しかもキャストは今人気の俳優さんと女優さんばかり。
「うう、これは見に行きたい……」
折角の夏休み。思い出の少女漫画が実写映画化。折角なんだから映画館で見たい。でも絶対人が多いし、絶対混んでる。夜遅くには見に行けないし、光を誘えればいいのだが、白草女学院の寮は基本外出禁止だ。気軽に誘えない。と、なったら……。
「一人で見に行くしか……」
テレビでは、「大好評上映中!」と高く謳っている。きっと人気なのだろう。ああ、見に行きたいけど、一人で映画館に見にいく勇気が出ない。
「うう、私に勇気があれば……」
そう言って項垂れた(うなだれた)時だった。
「へえ、彩葉。これが好きなんだ!」
後ろから聞き覚えのある声がして、私は嫌な予感と共に勢いよく振り返った。そこには予想通り、ソファーの背もたれにもたれている戸神さんがいた。
「と、戸神さん……いつの間に……」
苦笑いしながらそう呟くと、戸神さんはニコリと笑って見せた。
「彩葉が珍しくテレビに食いついてたから、なんだろうなあと思って!」
「あ、ああ……」
全く、戸神さんの神出鬼没さには参ってしまう。
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「で、これ。見に行きたいの?」
「え……!」
戸神さんは相変わらずニコニコしながら、テレビの画面を指差した。cmかと思っていたのは、特集番組だったらしい。映画の予告が淡々と流れていた。これでは誤魔化しようもない。でも今さら戸神さん相手に隠す必要もないだろう。私は素直に頷いた。
「へえ、彩葉も漫画とか読むんだね。意外だな」
そう言って戸神さんはうんうんと頷いている。
「……中学生の時にハマってて、よく読んでいたんです。だから懐かしいなあと思って……」
「ああ、この漫画流行っていたよね。僕も覚えてるよ」
そう言った戸神さんを、私は凝視した。
「え、戸神さん、流行りに詳しいんですね」
そう言うと戸神さんは、ぶんぶんと首を振った。
「いいや、あ、ほら、学校で流行ってたからさ。僕自身は流行りには疎(うと)いし」
そう言って戸神さんは苦笑いした。確かに戸神さんは、あんまり流行りに左右されなさそうな感じがある。なんというか、自分流を持っているというか、そんな感じ。だなんて、そんな事を考えていると、戸神さんはソファーから身を乗り出した。
「そんなことより、彩葉、この映画見たいんでしょ?」
「え、あ、はい!」
そう答えると戸神さんは、またニコリと笑った。
「夏休みに入っても、彩葉は部活に家事にで全然休まないし。遊びにも行かないよね。彩葉は遊びに行こう〜、とか思わないの?」
そう言われて私はうーん、と考えた。確かに私はあまり遊びには行かない。そもそも学院が全寮制だから、みんなを差し置いて遊びに出かけるのもなんだか後ろめたい。それに、そもそも遊ぶのが下手だからどこに行っていいのか、何をしていいのかもわからない。そんなことより、部活と勉強の方が楽しかったし。
「私は遊ぶの下手だし、それにほら、人混みもに苦手ですから……」
なんて言うと戸神さんは、そうかあと言って頷いた。
「じゃあ彩葉はあんまり遊びに行かないんだ」
「うーん、そうですね……」
「そうか、そうか、なら……」
そう言うと戸神さんは私に近づいて言った。
「じゃあさ、彩葉。僕と出かけない?」
私はその言葉を一瞬、理解できなかった。戸神さんと、遊びに行く????
「あ、こんなんじゃいけないね、えーっと、こほん」
戸神さんはそう言って私の目を真剣に見つめた。
「彩葉、僕とデートしてくれない?」
その言葉は、私を混乱させるのには容易かった。
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