前日譚 君だけの王子様 前編

 この家に引っ越して来てから約三週間がたった。学院や通学路、住んでいる周辺のことはわかって来たけれど、僕の部屋はまだ段ボールだらけ。先週、実家から荷造りしていたものが届いたのだ。平日は学院があるし、家事も分担しているからなかなか荷解きができていなかった。でも今日は土曜日。学院もないし今日の家事は彩葉が担当なので、僕は段ボールに手をかけることが出来た。

 とは言っても僕の荷物なんて大した量ではない。持って来たのは教科書や参考書、小説などの本類と、夏物の服などの着替えぐらいだ。家具はこっちで用意してくれたと聞いていたし、そもそもそんなに物を持つタイプじゃない。だから段ボールは十個程度でまとまった。しかもそのほとんどが本だし。

 僕は早速段ボールに一つ目に手をかけた。中を開くと教科書類が入っていた。教科書は勉強机だ。勉強机はお母さんの趣味全開の、ピンクをモチーフとしたシンプルな物だった。引き出しのとってなどはハートの形になっていて、つくづく僕の趣味には合わないな、と感じた。教科書類を並べ終えて、次の段ボールに手をかけた。今度は洋服だ。洋服はこれまたピンクの扉が印象的なクローゼットに入れる。クローゼットは大きくて助かった。僕の私服はほとんどがワンピースなのだ。本当は白いTシャツにジーパンスタイルが好きなのだが、僕の実家ではそうにもいかなかった。お嬢様らしい、可愛らしい、美しい、がモチーフのワンピースしか着せてもらえなかった。お嬢様らしくあるために。そう見せるために。一歩間違ったらゴスロリと言えそうなフリルの多い服が、僕は本当に嫌だった。スカートはうざったくて好きじゃなかったし。でも、この家でお嬢様を意識する必要はないんだ。僕は好きな服を着れる。そう考えると、少しだけ胸が高鳴った。もうこの服達を着ることが、ありませんように。そう願ってクローゼットを閉めた。そうして僕はどんどん段ボールを開けては、収納していった。本当に家具は揃っていて、僕の持ち物はそれぞれ持ち場を与えられていった。元々少なかった段ボールはどんどん減っていき、気づけば残り二つになっていた。「このぶんじゃお昼には終われるな」そう思いながら、僕は残りの段ボールを開けた。中には本がぎっしり入っている。これは本棚行きだな、と中の本を持ち上げようとした時だった。


「あれ、これって……」


指先に当たったのは、一冊の大きな本だった。いや本というよりは、アルバムか……?持ち上げて表紙を見てみると、そこには⦅〇〇小学校 卒業アルバム⦆と書いてあった。


「あれ、なんで小学生の時のアルバムなんかが……」


僕は不思議に思ってその本をまじまじと見た。アルバムや文集、お稽古事の賞状やトロフィーなどは全部実家に置いてきた……つもりだった。ここには必要な物しか持ってきてなかったつもりだったのに。一体どこから入り込んだんだろうか。けど、本当に久しぶりに見た。僕はカバーを外して、中をパラパラとめくった。中には思い出の写真が散りばめられていて、思わず懐かしくなった。ああ、こんなことあったなとか、今はあの子は何してるかな、とか。そんな事を考えながらページをめくっていると、とあるページで何かがバラバラと落ちてきた。


「うわっ、なんだろこれ……」


落ちてきたのは何枚もの手紙だった。小学生のつたない字で「戸神さんへ」と書かれている。僕は思い出が蘇った。これは確か、告白の手紙だ。小学生の時からよくこういう手紙をもらったのだ。一枚を手に取って封筒を開くと、懐かしい文字が書かれていた。


ゆうりさんへ


わたしはゆうりさんがとても好きです。

ゆうりさんは、頭も良くて、運動もできて、

みんなの人気者で本当にすごいです。

みんな、王子様みたいだって言っています。

女の子どうしだからへんかもしれないけど、

わたしはゆうりさんが大好きです!


あいかわ まなみ


「ああ、そういえば、この時から言われ始めたんだったっけ」


手紙を読み返して、とても懐かしい気持ちになった。今でそこ⦅王子様⦆なんて事はよく言われるし、慣れてきてそこそこ自覚もしているけど昔はそうでもなかった。あの時はまだ⦅王子様⦆の意味だってよく理解していなかったのだ。僕は手紙を見ながら、懐かしい幼少期を思い出していた。

____________________

 女の子に囲まれるようになったのは、小学四年生の時からだった。勉強が出来る、運動ができる、人当たりがいい、優しい、とかそんな事を言われて話しかけられる事が急に増えたのだ。朝に学校に来れば「今日も髪が綺麗だね」とかなんとか話しかけられ、休み時間になればいつも机の周りに人がいた。僕は特別仲良くしている友達がいたわけでもなかったので、その子達と仕方なく話していた。体育の授業は走れば「かっこいいね」、バスケのゴールを入れレば「男子顔負けだね」と囃し立てられた。テストが返されれば、「頭がいいね」「賢いんだね」と褒められた。自分で言うのもなんだけれど、とにかく女の子には持て囃された。それでも僕はあんまり色々考えてなかった。別にチヤホヤされたかった訳でもないし、男の子になりたかったわけでもない。ただ、その時にはもう⦅彩葉⦆の事を意識していたから、⦅彩葉⦆にふさわしい人間になりたいと努力しただけだった。今考えると浅はかだけれど、その時の僕はなんでもできれば好きになってもらえると思い込んでいた。だから、なんでも完璧にこなしたかっただけだった。だから女の子に言われる褒め言葉なんて、少しも心に響かなかった。だから本当に、僕は昔から⦅彩葉⦆以外どうでもよかったのだと思う。

 でも、そんな僕にも引っかかることが出来た。それは小学五年生の時だったと思う。その朝も普通に登校して、普通に女の子達と話していた。そのうちの一人が、突然こんな事を言った。


「ねえ、前から思っていたんだけど、ゆうりさんって王子様みたいだよね!」


それを聞いた瞬間、他の女の子達は激しく同意し始めた。


「確かに!」


「わたしもそれ、思ってた!」


女の子達は口々に自分の意見を言い、最終的には


「ゆうりちゃんはこの小学校の王子様だ!」


なんて事になっていた。が、僕は訳がわからなかった。まず、なぜ僕が王子様?どこが似ているんだ?一体何を言っているんだ?しかし女の子達の団結力はすごい。僕の質問に答える間も無く、僕を王子様と呼ぶようになった。僕だけを置いてきぼりにして。そこから僕は学校中で噂される羽目になった。あの女の子達がバラしたのか知らないけれど、歩くたびに「見て、あれが噂の王子様よ」と言う声がしていた。男子からは、なんだか物凄い視線を感じたし。僕もどうでもいい、なんて言ってられなくなってきていた。僕は女だし、王子様でもない。大体なぜ僕を王子様と呼ぶのか。その悩みは僕の頭を占めて、僕はその時いたお手伝いさんに相談したことがあった。その人は何人かいたお手伝いさんの中で一番年上で、旅館の女将さんみたいな人だった。


「ねえ、最近学校のみんなが私を王子様と呼ぶんです。それはなぜだと思いますか?」


その女将さんみたいなお手伝いさんは、しばし考えた後答えた。


「侑李お嬢様は、なんでも器用にこなしますからね。きっとみんな憧れているんですよ」


「でも憧れていることと、王子様に一体なんの関係があるんですかっ?」


お手伝いさんは困ったように笑って、僕の肩に手を置いた。


「侑李お嬢様、女の子はみんな王子様に憧れがあるんですよ。王子様っていうのはきっとカッコよくて、なんでもできる人の事ですから」


僕が黙ったままでいると、お手伝いさんは笑って


「大丈夫です、侑李お嬢様は一人しかいない、大切な方ですから。自分らしくいればいいのです」


その言葉はどこか的を外しているようで、僕の心には響かなかった。僕らしくしていると、王子様と言われる。じゃあ勉強も運動もやめたら、みんなは王子様なんて言わなくなるの?僕はますますわからなくなっていった。やがて時間が経ち、あまりにも言われすぎて次第に僕は受け流すことを覚えて、気にならなくなっていった。好きに言わせておけばいい、と王子様の意味を理解することも諦めた。


 ついに僕がその意味を理解したのは、それから半年ほど経った、とある女の子との出会いがきっかけだった。

 その子はいつも一人ぼっちで本を読んでいた。あんまり目立つ子でもなくて、クラスの子達は暗いから、地味だから、といった理由で友達にはなりたがらなかった。僕もその子の事はあんまり印象に残っていなくて、本当に時々教室で見かけるぐらいだった。

 その子と言葉を交わす事になったのは、寒さも増して雪が降り始めた小学五年生の冬の事だった。放課後、僕は作文の宿題で使う参考資料を借りに図書室へ行ったのだ。本を探して図書館内をウロウロしていると、ふと本を読むために置かれた大きなテーブルが目に入った。見れば教室で見かけるその子が一人で本を読んでいた。読んでいる本は何やら分厚くて、重そうだ。僕はなんとなくその本が気になって、その子に声をかけてしまった。


「ねえ、何読んでるの?」


肩を叩いて尋ねると、その子は驚いて体を震わせた。何かの怪物が出たかのような驚いた目で、僕を見ている。


「あ、急に声かけちゃってごめんね。隣、座っていい?」


そう尋ねると、その子は渋々頷いた。僕は隣に座って本のタイトルを覗き見た。


「……童話集?面白そうだね。分厚くて重そうだったか何の本だろうって思ったんだよね。童話好きなの?」


その子は静かにこくりと頷いた。


「へえ、そうなんだ。私も昔は読んでたなあ、あんまり詳しくないけどね。童話の中では、何が一番好きなの?」


そう尋ねると女の子はしばらく考えて、小さい声で


「……シンデレラ」


と答えた。僕は確かに、と思った。だってシンデレラは童話の中でも一番有名だ。


「一番王道だよね。でも、シンデレラの何が一番好きなの?」


その子は顔を俯けて、小さな声で答えた。


「……舞踏会。王子様が、かっこいいから。」


「あ、王子様が好きなんだ?」


僕は王子様と言う単語にげんなりしていたけれど、その子は顔を赤らめて嬉しそうに頷いた。


「そっか、いいね。王子様。……読書の邪魔してごめんね、話してくれてありがとっ……!?」


話を終わらせて立ち上がろうとした僕の制服を、その子が思い切り掴んだ。僕が驚いてその子を見ると、その子は顔を赤らめながら本を渡してきた。


「あ、あのっ、これ読んでくださいっ!その、感想待ってますから、私放課後はいつでもここにいるので……!」


その本はその子が読んでいた本とは違う、何かの物語のような本だった。僕は断るわけにもいかず、その本を受け取った。


「……ありがとう。読んでみるね。読み終わったらここにくるから」


そう言うとその子は恥ずかしそうに、こくりと頷いた。


 それから僕とその子は度々図書室で会って本の感想の話をした。僕も本は好きで、その子は本に詳しかったから色々話を聞くのは楽しかった。本の話になると、嬉しそうに話す姿はとても微笑ましかったし。毎日ではなかったけれど、その子と時々話す時間は半年ほど続いた。その子は図書委員にもなっていたので、放課後図書室に行けばすぐに会えた。ただ僕達は自己紹介もしなかったから、僕は名前さえ知らなかった。本とシンデレラが好きな女の子、ずっとそう思っていた。

 しかし、小学六年生になってからは時間がなくなった。中学受験が始まったのだ。僕は勿論父が決めた学校に行かなければならなかったので、受験勉強に励み始め本を読まなくなった。そうすればおのずと図書館へ行く事もなくなる。受験の忙しさと、相変わらず女の子達に囲まれる生活に僕はいつの間にかあの女の子のことを忘れていた。そうしてさらに時間が過ぎ、忘れるどころか記憶の片隅に置かれた頃だった。塾があるので急いで帰ろうと歩いていた、廊下の途中だった。後ろから声をかけられた。


「あ、あのっ!!」


廊下には僕しかいなかったので、きっと僕に声をかけているんだろう。ああ、女の子じゃないといいなと思いながら振り返ると、そこにはあの図書室の女の子が立っていた。


「……あ、えっと、何か用かな?」


そう尋ねると、女の子はモジモジしながら口を開いた。


「あ、あの、覚えてますか……私の事……」


僕はそう言われてその女の子に姿をまじまじと見た。ああ、確かあの図書室の……。


「……うん。あの図書室の子だよね、よく本の話してくれた……」


そう言うと、女の子は顔を上げて僕を見た。僕はギョッとしてしまった。その瞳は泣き出しそうだったのだ。


「あの!なんで……、来てくれなくなったんですか?その、図書室……」


「えっと、……」


僕は受験のこと話してなかったんだと、思い出して気まずい思いをしながら答えた。


「……ごめん、受験の話してなかった。中学受験するんだ、私。ごめん、だからもう行けない」


そう答えると、女の子はさらに泣き出しそうになっていた。そうして胸に抱えていた一冊の本を無言で僕に差し出した。


「……えっと、これは……」


僕が本を見て固まっていると、女の子は勢いよく僕に告げた。


「あのっ、私、戸神さんが好きですっ!!!」


「へっ!!!??」


女の子は顔を赤らめながら、僕にそう告げた。


「勉強も運動もできて、みんなに優しくて、カッコよくて、女の子に優しくて、その、本物のシンデレラの王子様……みたいなんです……」


本を持つ手は震えている。よく見るとその本は初めて出会った時に読んでいた童話の本だった。


「ずっと、追いかけてました。声は、かけれなかったけど。その、図書室に来てくれるって、信じて待ってたんです……」


「王子様みたいだ」と言われることはたくさんあったけれど、こうやって女の子に告白されるのは初めての経験だった。僕はどうしたらいいかわからず、ただ今の気持ちを言葉にしてしまった。


「……ごめん。今は受験もあるし……、その、気持ちは嬉しいけど、気持ちには答えられない、かな」


その言葉に女の子は俯いて、震えた。その姿は泣いているようにも思えた。


「あ、ごめん、だいじょう……」


「私、ずっと好きですから!ずっとあなたの事、好きでいますから、だって……私の王子様だからっ……」


そう言うと、女の子はそのまま背を向けて逃げ出すように走り去っていった。僕は言われた言葉に呆然として、そこに立ち尽くしてしまった。

____________________

 その日の塾は全く集中できなかった。先生の言葉は頭をすり抜けて、落ちていく。僕は全く手につかない自分に嫌気がさした。原因はわかっている。告白だ。あの告白のせいだ。初めてだったからなのもあるけれど、それよりももっとショックだった言葉があったのだ。僕はうんざりしながら、その考えを振り払って先生の声を無理やり頭に入れた。

 

 家に帰るとお手伝いさんが心配そうに僕を見ていた。その人はこの家に入ったばかりの若い人だった。


「お嬢様、気分が悪いのですか?なんだか顔色が優れないように思いますが……」


そう言って僕に触れようとした手を、僕は振り払った。普段そんなことしないので、驚いているのがわかった。


「……ごめんなさい、今日は夕食もお風呂もいりません。明日全部やりますから。今日はもう寝ます」


「あ、お嬢様っ!」


僕はそう言い切ると、お手伝いさんを無視して部屋へ直行した。


 制服も脱がずに僕はベットへと倒れ込んだ。目を閉じて、放課後のことを思い出す。

 ずっと不思議だった。なぜみんなが僕を王子様と呼ぶのかが。僕は別に国の王様の元に生まれたわけでもないのに、みんなと同じただの女の子なのに。なんで僕が、僕だけが王子様と呼ばれるのか。その理由が、わかってしまった。皮肉にも、あの女の子の告白で。


『勉強も運動もできて、みんなに優しくて、カッコよくて、女の子に優しくて、その、本物のシンデレラの王子様……みたいなんです……』


答えは、もう出ていたじゃないか。王子様はなんでもできる。それは僕も同じだったんだ。勉強ができる、運動ができる、みんなに優しい、見た目も、まあ女の子らしくはない、どちらかといえばかっこいいと言われる方だ。僕はみんなが完璧だと言う、⦅王子様⦆だったんだ。いや、そう思わせていたのは僕だったんだ。僕は完璧主義なところがあった。完璧でないとお父様の顔に泥を塗ると思ったし、何より⦅彩葉⦆の事を思えば当たり前の努力だった。いつか会う⦅彩葉⦆の為に僕は完璧でいなければ、誰にでも好きになってもらえる自分でなければならなかった。それが、その努力が僕を⦅王子様⦆にしていたんだ。僕にはそんな自覚はなかったのに。みんなが僕を⦅王子様⦆と呼んだんじゃない。僕がみんなにそう呼ばせていたんだ。それに、あの子は恋をしたんだ。完璧な僕に、シンデレラの⦅王子様⦆に。

 僕はため息が出た。事の重大さに今更気付いてしまったのだ。もう降りられない、この⦅立ち位置⦆からは。僕が上がってしまった舞台は、二度と降りられない舞台なんだ。僕は気づかないうち、みんなの⦅王子様⦆になってしまった。完璧で、カッコよくて、みんなに優しい、女の子の憧れに。そこに⦅僕⦆という存在はもうない。そこに⦅戸神 侑李⦆という個人はいない。僕は完璧な王子様を、知らず知らずのうちに演じて、そのものになってしまっていたのだ。今更、僕が⦅王子様⦆をやめたらきっとみんなこう言うんだ。


「あなたらしくないよ」


と。僕はみんなの⦅王子様⦆だ。

もう不完全では、いられない。

僕はもう、誰もが憧れる⦅王子様⦆をやめられない。カッコよくて、なんでもできる⦅僕⦆をやめられない。もう誰も⦅戸神 侑李⦆を見ていない。

____________________

 次の日はいつもより早く起きた。お風呂に入らなければならなかったからだ。僕はいつもより、入念に体を洗った。汚いところが、一個もないように。そうしてお手伝いさんに頼んで、髪をよりじっくり丁寧に乾かしてもらった。いつもは面倒臭くてつけないオイルも、丁寧に塗ってもらった。お手伝いさんが嬉しそうに言う。


「お嬢様、今日は気合が入っていますね!何か、特別な用事があるのですか?」


僕は首を横に振った。


「いや、何もないよ」


朝食を食べて、いつも通りの時間に家を出る。僕は覚悟を決めて、学校へ登校した。

 僕は教室に入った瞬間、いつもより過剰に笑って見せた。そうして女の子達に声をかける。


「おはよう、みんな」


そう言うと女の子達の目が変わったのがわかった。教室中のみんなが僕を見ている。僕は自分の席について、一人の女の子の手を取った。


「あれ、今日は挨拶してくれないの?寂しいな」


それは演技だった。わざと声を低くして、寂しいように装った。本当はそんなこと、一ミリも思っていない。だけどそれで女の子がどうなるのか、見てみたかった。手を取った女の子は僕の顔を見て、赤面していた。他の女の子にも、そうやって呼びかけた。


「みんな、様子がおかしいよ?大丈夫?」


その瞬間、女の子達は一斉に歓声を上げた。そうして僕に詰め寄った。


「ゆうりさん、今日は一段とかっこいいね」


「ゆうりちゃんがあんなことしたら、本当の王子様みたいになっちゃうよ!」


僕はみんなに優しく笑いかけるよう、頬を思いっきり吊り上げて、笑った。


「当たり前じゃない、僕はみんなの⦅王子様⦆なんだから」




前編 戸神侑李が王子様になった理由

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