1-1 朝のルーティン

 携帯のアラームで目が覚めた。いつも通り、6時ぴったりだ。昨日の夜は色々あったから寝れないかと思ったけれど、案外そんなこともなくすやすやと眠ることが出来た。もう少し眠りたい気持ちを我慢して、私は布団から起き上がる。布団を整えてから、カーテンを開ける。今はもう7月だ。梅雨も明けて、さすがに朝も蒸し暑い。部屋はクーラーがついてるから涼しいけど。私はギラギラと照り付けている太陽に「外に出たくない..。」と憂鬱になりながら、制服に手を伸ばした。制服も夏服になったので、日焼け止めを忘れずに塗る。このベトベトしたかんじが何とも言えないけれど、我慢した。やれやれ、朝から我慢してばかりだ。胸のリボンを綺麗に蝶々結びにしてから、髪を三つ編みにする。私の地毛は元々茶色で、学校では少し目立つ。昔はそれが嫌だったけど、今ではもう慣れてしまった。私は素早く髪を三つ編みにしていく。朝ご飯の準備もあるし、庭のお手入れもあるし、何より今日からは戸神さんがいる。戸神さんに朝から迷惑をかける訳にはいかない。お母さんが帰ってきていたら、起こさなきゃいけないし朝ご飯も食べてもらわなきゃ。朝から沢山する事があるのは、もう何年も前からだから慣れている。朝から動くのは気持ちがいいし。私は鏡で身だしなみを確認した。よし、今日も大丈夫。私は隣の戸神さんを起こさないように、ゆっくりと扉を開いた。


 一階に降りるとリビングはしん、と静まり返っていた。どうやら戸神さんはまだ起きていないようだ。私はホッとして胸を撫で下ろした。昨日、あんな事を言われて正直どんな顔をしたらいいかわからなかった。混乱していてあんまり喋れなかったし。私はキッチンにかけてあるエプロンを着て、ダイニングに立った。冷蔵庫を開けて、メニューを考える。戸神さんはそもそも朝はパン派だろうか。それともご飯派だろうか。昨日聞いておけばよかった。まあでもご飯は炊いてあるし、どちらでもいいようにおかずだけ作ればいいか。パンがいいなら焼けばいいだけだし。そうと決めたら早い。ご飯にもパンにも合うおかずと言えばスクランブルエッグとハムだ。私は卵3個とハムを2パック取り出して、フライパンに油を引き温めた。卵を解いて、フライパンが温まったのを確認してから流し込む。箸で左右にかき混ぜ、バラバラにする。最後に何回か混ぜて火が通ったのを確認したら、スクランブルエッグの出来上がりだ。お皿を3つ並べて、平等に分けていく。それが終わったら次はハム。食べやすい大きさにハムを切ってから、フライパンに入れる。片方に焼き目がつくまで焼いたら、裏返してさらに焼き目をつける。その間にレタスをちぎって洗い、お皿に2枚ずつぐらい乗せていく。ハムに十分火が通ったらフライパンからあげて、お皿に取り分ける。最後にスクランブルエッグにケチャップを添えて、おかずの完成だ。サランラップをかけてからリビングに運んでいく。お箸とコップもセットしたら、朝ごはんの準備は終わりだ。トースターでパンを焼いている間に、洗い物をしてキッチンを綺麗に片付けた。パンは5分ぐらいで焼けるので、そんなに待たなくていい。片付けをしていたら、すぐに焼き上がる。私がエプロンを脱いでキッチンにかけた。そんなこんなしていたらパンが焼きあがったので、それぞれお皿に乗せてダイニングに運んだ。時計は6時40分を指している。いつも通りだ。よし、じゃあ庭の手入れに行くか、と玄関に向かおうとした時、上から物音がした。


「おはよう、桜宮さん。早起きだね。」


そう言って階段から降りてきたのは戸神さんだった。美しさは昨日と全く変わっていない。長いストレートの髪は整えられていて、手には手袋が装着されていた。だけど私は戸神さんの格好に突っ込まざるおえなかった。


「おはようございます、戸神さん……って、どうしてその制服を?!」


戸神さんは私と同じ学校の制服を着ていたのだ。もしかして私が気づかなかっただけで戸神さんも同じ学校だったのだろうか?いや、だけれど戸神さんみたいな美人がいたら、さすがの私でも気づくけどなぁ…。戸神さんは制服を見て、微笑んだ。


「あぁ、そっか。桜宮さんには言ってなかったっけ。僕、今日から桜宮さんと同じ学校に転入する事になったんだ。転入の手続きはお父様がしてくれてるよ。」


「……な、なるほど……。」


まさか、戸神さんと同じ学校に通うことになるとは……。こりゃ荒れるな……と私は今から怒る大惨事を予想して苦笑いしてしまった。こんな美少女が転入してくるなんて、一体どこのアニメだ……。私が今から起こるであろう事態に絶句している間に、戸神さんはテーブルの上を見て驚いていた。


「あれ、もう朝ごはん作ってくれてたの?」


「あ、はい。日課だから慣れっこなんです。戸神さんはパンとご飯、どっちがいいですか?」


「僕はどっちでもいいよ、桜宮さんに任せる。」


そう言って戸神さんはにこり、と笑った。ま、眩しい……!!いやいや、そうじゃなくて……。


「じゃあパンを用意してますから、頂いてください。私はお庭の手入れに行ってきますので。」


そう言って立ち去ろうとすると、戸神さんは慌てて私の腕を掴んだ。


「い、一緒に食べないの?お庭の手入れって?」


「先に食べていていいですよ、?お庭、あったと思うんですけど、ホースで水をあげるんです。私はそれからご飯食べますから。……腕、離して貰ってもいいですか?」


戸神さんは私の腕を掴んだまま、悩む素振りを見せながら言った。


「……それ、僕もついて行っていい?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る