第16話

 水島さんとの連絡はあっさりついた。俺と彼女とは、カスミで会った。


「水島さんはあのとき、どこにいた?」

「街の西にある、丘の頂上近く。丘の陰に入れば爆発を避けられるんじゃないかと思ったんだけど、みんな考えることは同じなのね。混雑で身動きがとれなくなったところで墜落に巻き込まれた」

「実は俺もあそこにいたんだ。一瞬水島さんの顔が見えたような気がしたが……。墜落の瞬間、何を考えたか憶えてる?」

「SFの話なんかしているから、こんなSFみたいなことが起こるのかと思った。いっそSFのない世界の方がいいと……」

「やっぱりな」

「どういうこと?」


 俺は自分の考えた仮説を話した。墜落の瞬間に考えたことが、意識の転移先に関係しているであろうことも。


「おそらく俺たちが丘の上にいたことも関係していると思う。高い所にいたために俺たちは墜落時に発生したエネルギーをもろに受けることになった。その結果がこれなんだ」

「なるほどね。それなら筋が通りそう……」


「しかし、ここに来てもらったのは転生の仮説を話すためじゃない」俺は思わず強い口調になった。「なんであんな真似をした?」

「だって見ていられないんだもの」

「俺はこの世界にSFという新しいジャンルをもたらし、SFの重要性を世に知らしめたんだ。放っておいてほしい。それに盗作の件なら証明しようもない」

「そういう考え方自体がおかしいのよ。盗作のことなら確かに証拠の持ってきようがないし、はっきり言って些末事だと私もわかっている。ただ、佐野くんの耳目を引き付けるためにあえて大げさに言い立てただけ」

「どういうことだ?」


 水島さんは大きく息を吐いた。

「いい? この世界はSFなしでも私たちが元いた世界とほぼ同じ姿になっている。ということは、この世界にはこの世界なりの整合性があるってこと。SFとかSF的想像力なんかあってもなくっても別に困らない世界だってあるの。まったくあなたはSFは何でも想像できると言いながら、なぜSFのない世界だけは想像できないのかな」

「いや、どんな世界であろうとSFは必要だ」

「そこまで言い張るのなら、百歩譲ってそれでもいい。でもね、佐野くんが自分のものとして発表した作品にだって、それが生み出された時代的背景なり文脈なり、必然性ってものがあると思わない? この世界に整合性があるのと同じように。でも見ていると、発表に順序も統一性もまるっきりないじゃない。まるっきり種類の違う樹木同士を接ぎ木しているようなもの。その結果、佐野くんはこの世界を乱している。自分がよくご存じの時間犯罪者と同じことをしているってどうして気付かないの?」

「しかし――」


 俺は反論しようとして、そこで言葉に詰まった。水島さんの言っていることが正しいとわかってしまったからだ。想像力を信じてきた俺が、なぜSFのない世界だけは想像できず、受け入れることもできなかったのだろう?


 そして脳裏に浮かぶ、やつれきったまさみの横顔。


 しかし、しかし、しかし。3文字だけが頭の中をぐるぐる回る。理性は彼女の言を受け入れても、感情が納得しない。何か言い返さなければ――。


 そのときだった。それまでミュート状態だったカスミのテレビが突然大きな音を出した。マスターがリモコンを手にしたまま呆然と突っ立っている。何か異変に気付いて操作したらしい。


 画面はニュース速報に切り替わっていた。延期に延期を重ねていたあの月観測機搭載のロケットが打ち上げられたものの墜落するというものだった。


 そして墜落予想箇所は――やっぱりこの街。だからなんでこう、つまらないところばっかり元いた世界と一致するのさ?

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