第11話 無詠唱魔法
唐突ながら『終焉の魔女』攻略には『魔剣士』が有効とされるその根拠について話させて欲しい。
まず、魔術を発動させる際に必要とされる詠唱、これが戦闘において不利に働く事は言うまでもあるまい。
故に、魔術を操る者は通常、敵との距離を置いて戦う。更に言えば、そもそも魔術師は普通、単独では戦わない。
理由は以上で挙げた致命的弱点を補う為で、その弱点を補う者こそが剣士である。
接近戦を得意とし、魔術師の弱点をカバーする事が出来る剣士だが、もちろん弱点もある。
それは長距離攻撃手段が無い事と、シンプルに攻撃手段として有効で無い事。
もちろん人を殺めるだけの殺傷能力はあるが、それは剣が届く範囲での話。
したがって、剣士の基本的役割は魔術師の懐を守る事。
さて、ここまで長々と話したが、要は『魔剣士』とは魔術と剣術の長所を掛け合わせた存在という認識で間違いない。
仮に詠唱を唱えてる最中に敵に懐へ潜られたとしても、剣術で対処出来き、そして、詠唱中でも剣は振れる。
魔剣士にとっての杖は剣にとって代わり、発動させた魔術の力を剣に宿らせる事も可能だ。
魔術師の弱点を見事に消した『魔剣士』という新しい発明。
しかし、この魔術を扱う者の最大の弱点を突いたとして、それが『終焉の魔女』にとってどれ程効果的かは定かでは無い……。
◎
「あなたが、噂の『魔剣士』ですね? 魔法を扱う者の最大の弱点を突く――だとか。」
ヴィルドレットへ背後から語り掛ける『終焉の魔女』。
あまりにも容易く背後を取られた事でようやくヴィルドレットは我に帰る。
「――ッ!!」
ヴィルドレットは振り返ると同時にバックステップで『終焉の魔女』から距離を取り、ようやく腰に携えていた剣を抜くと『終焉の魔女』へ向けてその刃を向ける。
「い……今のは《
『空間魔術』の一つ《
『空間魔術』は超級魔術師でも、限られた者しか出来ない超魔術。
因みにヴィルドレットは出来ない。
「……そうですが、何か? 私が『空間
「――いや、だって……今、お前……」
その通り。 対峙する相手はあの『終焉の魔女』。 《
しかし、……そうじゃない。 ヴィルドレットが戦慄したのはそこじゃなくて――
「……詠唱……したか?」
「いいえ。 申し訳ありませんね。 『魔剣士』さん。 私にはその
ようやく、ヴィルドレットの表情に怯えの皺が浮かんで
「……嘘、だろ? なんで、なんでなんだ……」
ヴィルドレットが、長年信じてきた打倒『終焉の魔女』への道標――『魔剣士』。
確かに、『魔剣士』になったからといって『終焉の魔女』討伐が絶対に叶う。なんて事は思ってなかった。
むしろ、それでも勝算は三割程度だと考えていたのが正直なところだ。
しかし、『終焉の魔女』討伐に対する『魔剣士』の有効性を疑った事は無かった。
「……まぁ、無理もありませんね。 私が無詠唱で魔法を発動出来るだなんて、誰も知り得なかったでしょうから」
これまで魔女討伐に際して送り出された討伐隊は皆、ほぼ瞬間的に漆黒の大魔法に消され、『終焉の魔女』の姿すら目にする者は少なかった。
「……知ってたのか? 『魔剣士』の事。 俺達人間達の考えていた事を」
「えぇ。 私に付き纏う、くだらない
ヴィルドレットは『終焉の魔女』の言葉のほとんどを理解し得なかったが「そうか……」と理解を得た格好だけを示す。
「しかし、残念でしたね。魔剣士さん。 私は今すぐにでも、あなたの命を簡単に奪えます。それ程までにあなたと私とでは力に差があります』
――ヴィルドレットに異論は無かった。
「……なるほど、俺は今お前に
――ヴィルドレットの完敗だった。
ヴィルドレットがどんな攻撃魔術を繰り出そうが、それよりも早く無詠唱魔法で消されるだろう。
では、剣術なら……幾ら高速剣撃でその距離を詰めようとも、それでも無詠唱魔法の前には無力に等しいだろう。
勝算は紛れも無くなくゼロだった。
――ヴィルドレットは剣を鞘に収めた。
「おや、もう諦めるのですか?」
「お前の言う通りだよ。俺の命は今、あんたが握ってる。 いつでもいいぜ? あー、でも、やるならひと思いに頼むよ。 あと――、痛くしないでね?」
ヴィルドレットは負けを認め、己の命を差した出した。
――まさか、あの声の主に殺されるなんて、これについては流石に
しかし、これはこれで悪くない――ヴィルドレットは、そう思ってしまう自分に笑えてきた。
だから、言葉の最後は『終焉の魔女』目掛け、笑顔でウインクを飛ばしてやった。
「でも、まぁ……確かに。 興味深い存在ではありますね。」
そう言葉は発したのは『終焉の魔女』。そして更に紡ぎ出した言葉は、
「……あなた、私と会うのはこれが初めてですか?」
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