第15話

美雪さんのご両親との合流から、もう30分は経過しただろうか?

美雪さんは真紅郎のファインプレーで救出出来たものの、俺達は早くも入井に追い詰められていた。


「さぁ、どうする? 大人しく捕まるのなら命だけは助けてやるぞ? ま、お前らは人質には使えないけどな」


入井は俺達に降伏を促す。


「くっ……」


俺は歯噛みした。


「入井…強くなったな」


美雪さんのお父さんが感慨深げに言う。

深手こそ負ってはいないが、何となくやりにくそうだ。


「ふん、貴様は相変わらず老けたな……だが、まだまだ現役のようだ」

「当たり前だ。まだ50代なんだからな」


二人は戦闘中にも関わらず憎まれ口を叩き合う。


「まさか、アタシ達の一斉攻撃を回避するとはね…」


サクヤ程の実力者の打突を交わす辺り、入井の身体能力の凄さが伺える。

だが…俺達はここで倒れるわけには行かないんだ。


ちなみに真紅郎にはある策を授け、別の場所に行かせてるのだが…この作戦が上手く行くかどうかで、今後の展開が大きく変わってくるだろう。


「さて……そろそろいいか?」


そう言うと入井は一瞬で美雪さんのお父さんの背後に回り込み、首筋に手刀を当て気絶させた。


「お父さん!」


美雪さんが叫ぶ。


「安心しろ、殺してはいない」


入井は不敵な笑みを浮かべる。


「さて……次は誰だ? 私は誰でも構わないが、出来れば椎名の娘の友人であるお前らを先に潰したいところだな……」


「くっ…」

「まあいい、まずはそこの…グハッ!」


入井が拳を構えようとした瞬間、前に倒れかけ膝をついた。


「どうだい…椎名家特製ブレンドのトリカブトとヘビの神経毒だよ!」


美雪さんのお母さんがサバイバルナイフを入井の脇腹に突き立てて言い放つ。


「ぐぅ……おのれぇ!」


入井は怒りの形相で立ち上がると、今度は昏倒してる美雪さんのお父さんに向かって突進してきた。


「させないよ」


サクヤが入井の足を引っ掛け転ばせる。


「小賢しい真似を……だが、残念だったな。私はあらゆる毒を定期的に摂取し耐性を付けている…ただ、切り傷からの注入は流石に堪えるな…もって一時間程度といった所だが、それくらいあればお前たちを叩きのめす事など造作もな…」


バキッ!


「そうですか」


美雪さんが入井の側頭部に蹴りを食らわせた。


「ガァッ!」


入井は頭を抱えて悶絶している。


「今です! 皆さんで一斉に攻撃して下さい!!」


その隙を突いて美雪さんが叫んだ。

この好機を逃してはいけない。

俺達は入井に一斉に襲いかかった。



数十分後。

「フフフっ、貴様らの実力はそんな物か?」


あれだけ俺達にボコられたはずなのに、入井は涼し気な表情でこちらを見ている。


そして、おもむろに起き上がると奥歯で何かを噛み締めた。


「…非常用の万能解毒アンプルを奥歯に忍ばせてたのを忘れてたわ。神経毒にはそれ程効かないがトリカブトの様な致命的な毒は解毒される仕様でな…私にはそれで充分だ」


「クソっ」


美雪さんのお母さんは歯噛みする。


「ふむ、これで状況は振り出しに戻った訳だ。さあ、ここからが本番だぞ……かかってこい!」


入井はそう言って両手を広げた。


「くそぉ!」


俺は剣を振りかざした。


「遅い!」


しかし、俺の攻撃はあっさりかわされてしまい、逆にカウンターで強烈な一撃を貰ってしまった。


「タケル君!」


美雪さんが俺に駆け寄ってくる。


「大丈夫かい!?」

「はい、何とか……」


入井はそんな様子を見ながら言った。


「余裕だな若造。こんな所で青春ごっこか? あん?」

「うるさいなぁ」


俺は美雪さんに肩を貸してもらい立ち上がった。


「さて、そろそろいいか? お前らはもう詰んでるんだよ」

「くっ……」


入井はそう言うと、俺達の周りをゆっくり歩き出した。


「……何するつもりだい?」


美雪さんのお母さんが怪しげに入井を見ながら言う。


「こうするのだよ」


入井は俺達の目の前まで来ると、いきなりしゃがみ込んだ。


「えっ……」


次の瞬間、俺達は身体の自由を奪われた。


「金縛り?」


サクヤが困惑した様子で呟いた。


「そうだ。入井家の秘伝、呪縛術式・土蜘蛛の糸さ。完全に動けなくなったらじっくり始末してや…」

「オラどけどけどけ〜!!!」


真紅郎がなんと、装甲車を運転しながらこちらに向かってくる。

アイツ、運転免許なんて持ってたか?

ともあれ俺達は退避する。

真紅郎が運転する装甲車は入井に衝突し、跳ね飛ばした。


「うぎゃああ!」


入井は悲鳴を上げながらゴロゴロと転がり、壁に激突するとそのまま動かなくなってしまった。


「やったのか……?」


俺がそう言うと真紅郎は車から降りてきた。


「いやまだだね……でも、今ので少しの間動きを止められると思うよ……僕もまさか無免で運転出来るとは思わなかったんだけどさ……」

「よくやってくれた!」


美雪さんのお母さんが笑顔で言う。


「いえ……それより早く逃げましょう! まだ奴が生きてるか分かりませんし!」

「いや、その必要はない」


美雪さんのお父さんが目を覚ましたようだ。


「良かった無事だったんですか」

「ああ、お陰様でな。それにしても凄まじいな……あんな化け物相手にここまで善戦できるとは…」


美雪さんのお父さんはそう言うと、倒れ込んでる入井の首をサバイバルナイフで切断した。


「入井、安らかに眠れ」


そして、美雪さんのお母さんも同じように入井の頭を潰した。


「これで終わりだな」

「はい」


こうして、俺達は『thee(中略)絶許団』との戦いに勝利した。

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