第7話

「なんとまぁ……」


真紅郎が呆れたように呟いた。


「まさか、こんな所とはな」


俺は目の前にある建物を見上げた。

そこは打ち捨てられた廃ビルだった。

錆び付いたシャッターにはスプレーアートが施されており、ドラム缶には焚き火の形跡があった。

足元には何か白濁した液体が入っている萎びたゴム風船が転がっており、何となく嗅ぎ覚えのある『栗の花』的な臭いもほのかに漂っていた。


普段は地元の不良が夜な夜なパーティーを開いてるのだろう。

だが今はそんな事は関係ない。

問題は、ここに美雪さんがいるかどうかだ。


俺はスマホを操作し、電話帳から『緊急連絡先』を選択し、電話をかけた。


数コールの後、美雪さんのお父さんが出た。


『タケルくんかい? 今、帰国便に乗っててね』

「あ、そうなんですね。実は、美雪さんの行方についてなんですけど……」

『おお! 見つけたのか!?』

「はい。ただ、その場所が問題でして……」


俺は美雪さんのお父さんに美雪さんがどこにいるのかを説明した。



『うーむ、あいつらのたまり場だな…』


美雪さんのお父さんは苦虫を噛み潰したような声を出した。


「あいつらって、『任意団体』ですか?」


『そうだ、もっと言うと…かつて俺が女房と付きあう前に作ったサークルの残党だ』


「え、じゃあそいつらが美雪さんを?」


『ああ、美雪を誘拐したのは間違いない。それに、その場所は元々俺達が作った拠点の一つだからね』


それから美雪さんのお父さんは少し話してくれた。


かつては仲間数人と『交番Ingress』と称して全国各地の交番を爆破したり、自衛隊駐屯地や米軍基地に侵入して兵士を射殺しながら宴会をするなど悪さを働いてたが、ある日突然解散宣言をしてそれっきりだったらしい。


「その人達が今になって美雪さんを?」

『いや、少し違う』


美雪さんのお父さんはきっぱりと言い切った。


『俺達が解散した理由は…ノリが合わない不良警官どもが加入するようになって、人の道に外れた事をし始めたからだ。民家に押し入って女物の下着を家探ししたり、通りすがりの女学生を拉致してクスリ漬けにしたり…酷いモンだった』


その不良警官の所業と、交番爆破や基地で兵士を射殺する事の軽重や線引が分からなかったが、口には出さなかった。


『俺はその不良警官を呼び出してボコボコにし、郊外の山に棄てて来た。それからみそぎとしてグループを解散したのさ…どうやら最近人里に降りて来たらしいな』


ヒグマかなんかか?と思ったが、口には出さなかった。


「それで、どうします?」


『ああ、この電話の後にたまり場の地図を送る。それなりに阻止装置もあるからそれは気を付けてくれ…おっと、噂をすれば『任意団体』の奴から連絡が来た様だ。また後で』


通話はそれで終わり、メールで廃ビルの地図が送られてきた。


「…よし、行くぞ」

「うん!」


俺は真紅郎とサクヤの先頭に立ち、廃ビルに踏み込んだ。

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