第6話

道すがら真紅郎から話を聞いた。


昨晩、サクヤと美雪さんが『ラ・ペディス』のレジ締めと施錠をしようとした所、数人の男たちが店内に押し入り美雪さんを連れ去ろうとしたそうだ。

その男たちの半数はサクヤにボコられ退散したが、一瞬の隙を狙われさらわれたそうだ。


サクヤがブチのめした男たちから『懇切丁寧ゆびをいっぽんずつおりながら』に事情を聞いた所、どうやら美雪さんのご両親に過去にブチのめされた恨みを実子誘拐監禁という形で晴らそうとする任意団体の犯行のようだ。


「……という訳だ、分かったか?」


真紅郎は淡々と説明した。


「なるほど、そういうことだったのか……。でも、美雪さんって意外と強いんじゃなかったっけ?」

「ああ、美雪ちゃんは合気道の達人だよ。ただ、多勢に無勢…サクヤが手こずる人数だったらしいから、相当送り込んで来たんじゃないか?」

「そんなもんなのか……」


俺は納得しつつ、ふと思った。


「ところで、何で俺も呼ばれたの?」

「そりゃあ、お前は美雪ちゃんの彼氏だろ? 助けるのは当然じゃないか」

「まぁ、確かに……」


そうして俺達は急遽駅前のファストフード店に行く事になった。


『ラ・ペディス』は店長立ち会いで警察が取り調べをしてて当然使えず、事情聴取を終えたサクヤとそこで合流することになったからだ。


「お待たせしました! こちら、ハンバーガーセットになります」

「ありがとうございます」


俺と真紅郎は店員さんに礼を言いつつ、テーブルに着席する。

「とりあえず……腹ごしらえだな」

「そうだな……」


俺はポテトを食べつつ、状況を整理した。


「まず、犯人たちは美雪さんのご両親に恨みがあるんだよね?」

「ああ」

「そして、その人たちは恐らく美雪さんを人質にして身代金を要求しようとしている」

「……そうなるな」

「そして、俺たちはその人たちから美雪さんを助け出さなければならない」

「……そうだな」

「じゃあ、どうやって救出するかを考えよう」


俺はスマホで『緊急連絡先』に電話をかけた。そう、海外で撮影中であろう美雪さんのご両親だ。


「もしもし、タケルです」

『おお、タケルくんかい?』


電話に出たのは美雪さんのお父様だった。


『美雪のことかな? すまない……実は今、撮影中でね』

「はい、そうですね……えっと、結論から言います。美雪さんが…誘拐されました」


美雪さんのお父さんは絶句したのか、しばらく何も話さなかった。

それはそうだ。交際相手から一人娘がいきなり攫われた、と聞かされたのだから。


「それで……どうすればいいですか?」

『……いつかこういう日が来ると思ってた。タケルくん、今からメールを送るからその指示に従って操作して欲しい』

「分かりました」

『本来なら私達が行って直接鉄槌を下すべきなんだが…ともかく一度切る』


電話が切れ、数分後にメールが届いた。

内容は、いくつかの指示とそれに対応したURLが貼られているものだった。

俺はすぐさまメールの文面に従い、URLを順にタップした。

すると『緊急連絡先』から電話がかかってきた。美雪さんのお父さんからだった。


『タケルくん、でかした。これで最低でも美雪の追跡と犯人達の居場所の特定は出来る』

「本当ですか!?」

『ああ…さっそく美雪の靴底に仕込んだ小型GPS発信器を捉える事が出来た。タケルくんにも後で足取りを共有するよ』

「良かった……!」


俺は安堵した。最悪の事態を想定していたが、どうやら一安心のようだ。


『それと……もし君たちが危険に晒されたらすぐに警察に通報してくれ。本当は私達が解決することなんだが…』

「いえ、気にしないでください。美雪さんを助けるためにも、ここは美雪さんのご両親の力を借りたいんです」

『分かった。では、また何かあったら連絡を頼む』


そう言って美雪さんのお父さんとの通話は終わった。


「タケル、真紅郎おまたせ!」


事情聴取を終えたであろうサクヤが店に飛び込んできた。

そして一旦俺達の席に荷物を置きカウンターで注文を取りに行き、しばらくして注文したハンバーガー等を持って俺達の元に来た。


「おう、お疲れ。どうだった?」

「うん、やっぱり犯人グループは任意団体だって。でも…かなり手慣れてるみたい。多分、今まで何度もやってると思うよ」

「マジか……」

サクヤはハンバーガーを食べながら、美雪さん誘拐事件の概要を話してくれた。

それによると真紅郎の話と被るが、昨晩閉店後の店内で数人の男たちが現れて美雪さんを連れ去ろうとしたらしい。

美雪さんが合気道で数人撃退し、その後来た応援部隊をサクヤが叩きのめしてる内に美雪さんが拐われた、との事だった。


「美雪ちゃん、大丈夫かな……」


真紅郎が心配そうにしていると、サクヤは笑顔で言った。


「きっと無事だよ! それより、これからどうする?」

「うーん……」


俺は腕を組んで考えた。


「とりあえず…」


俺はスマホに美雪さんのお父さんから転送してもらったGPSマップを表示させ、美雪さんの居場所と思しき赤い点を指して言った。


「ここに向かってみようぜ」


その赤い点が指し示した場所は…。

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