第4話 夢じゃありませんでした
「陛下!?」
あれ?
疲れすぎて、幻覚見てる?
目の前に、あの王様がいるんだけど?
消えた壁の先にあった階段。
そこから降りてきたのは、アイオライト王国の国民なら知らないはずがない男性。
その男性はアズレリア姫の父であり、アイオライト王国の国王アジュール様だった。
見えている景色が信じられずに、俺は必死に目をこする。
しかし、何度目をこすっても、王様の姿はあった。
「うーん、おかしいな。おかしい。目の前に陛下がいらっしゃる」
「目の前にいるのは私だよ……って、君はカーターのとこの子じゃないか!」
おっと、俺をご存知で。
…………じっちゃんの名前を出すあたり、やはり本当に陛下なのか。
アズレリア姫と同じ菫色の髪だし……うん、間違いないな。
俺は即座に頭を下げた。
「陛下、ご無礼な態度を取り申し訳ございません」
「いいよいいよ。私は急にきたんだし、気にしないでいいさ。さ、君も上に上がろう」
そう言って、宝物庫に繋がる階段を上がっていく陛下。
休憩しにきたって、なぜわざわざ宝物庫にやってきたんだろう。
人目を気にせず休めるからかな?
俺は国王様についていき、一緒に階段を上る。
「お父様、おはようございます」
「おはよう、アズレリア。その様子だと原稿は書けたみたいだね。よかった」
「はい。ちょうどアシスタントがいてくれたので、間に合いました」
「ほほう。アシスタントか……それはイヴァンくんのことかな」
「はい」
「陛下、俺はアシスタントじゃあありません。執事です。姫様も変な紹介しないでください」
すると、国王様は大量のBL本に目をやる。本の表紙を見ているようだった。
ちょっと待て。
もしかして、陛下も……。
「それで、アズレリア。今週入った新刊は?」
「そこの机においてあるもの全部です」
「ありがとう」
陛下は机にあったBL本を取り、ソファに座る。
そして、いつものことかのように、読み始めた。
………………。
「どうしたの、イヴァン。信じられないようなものでも見たかのような顔して」
「いや、今信じられない光景があるなと思いまして……俺の目には陛下がBL本を読んでいるようにしか見えないんですが? これは夢ですか? 幻覚ですか?」
「え、何を言っているの、イヴァン。現実よ」
おい、嘘だろ。
この国の国王が真面目な表情でBL本を読んでいる……嘘だろ。
俺、姫に薬を飲まされたりしていないよな?
「まさかじゃないですけど、国王を腐らせたのってアズレリア様ですか」
「そうじゃないけど……お父様にこの部屋の入室許可を出して気づいたら、腐ってた」
「…………」
「いつの間にかお父様がここに通い詰めるようになって、私はやっぱり血は争えないと思ったわ」
「やっぱりアズレリア様のせいじゃないですか」
陛下が腐道を歩み始めた経緯に、俺の口からため息が漏れる。
だは、陛下は楽しそうに読んでいるので、邪魔はせず、俺は机の後片付けをしていると、鈴がまた鳴った。
「次は誰ですか。もしかして、セレーナ様ですか」
「やだ、イヴァン。あの子を腐らすわけないじゃない。あの子はまだ純粋でいてほしいわ」
「…………まだってことはいつか腐らせるんですね」
「そりゃあ、そうでしょう」
そりゃあそうなのか?
アズレリア姫の言葉に疑問を持ちながらも、俺は地下へと続く階段に目を向ける。
すると、階段から姿を現したのは1人の女性だった。
髪は銀色でアズレリアとは異なるが、瞳は同じ灰色。
この女性は国王様の次に、この国で有名なお方。
国王様が来たのだから、もしやと考えていたけど、まさか本当に来るとは。
「お母様、おはようございます」
「アズレリア、おはよう」
うん。
お妃様が来ても、もう驚きません。現実だと認めますよ、神様。
「あなたは……」
「お初にお目にかかります、妃殿下。
「イヴァン・カーター……ああ! カーターのお孫さんね! よろしくお願いします」
妃殿下は優しい微笑みを浮かべる。
その笑みは表でのアズレリア姫の笑顔にそっくりだった。
俺に丁寧なあいさつをすると、妃殿下は流れるようにソファに座る国王様に視線を向ける。
「あら、アジュールも来ていたのね」
「ああ、少し時間ができてね。ここにあるのが新刊だ。読むかい?」
「ええ、ぜひぜひ」
あのお妃様がウキウキしながら、BL本を開く。
ちらりと見えたページはいかつい男性2人が行為をしているという………かなり濃厚なものだった。
…………ああ。
徹夜で漫画書いてたから、疲れすぎて変な夢を見ているのかもしれない。
「殿下、俺もう活動限界なんで、お暇させていただきます」
「ええ、分かったわ。今日はありがとう。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
国王様とお妃様に一礼し、重い体をなんとか動かして、宝物庫を出ていく。
今日の出来事は全て夢。
いつも勇ましい姿の国王様が腐っているなんて、できれば信じたくない。
女神のような微笑みをなさる妃殿下が腐っているのも、信じたくない。
「あら、イヴァン。おはよう」
「おはようございます、陛下、妃殿下……」
「うむ。おはよう」
でも、次の日に宝物庫に行くと、国王様とお妃様が楽しそうにBL本を読んでいました。
はい。残念ながら、夢じゃありませんでした。
俺は静かに泣きました。
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