落とし穴

第11話 記憶

昔から父親の記憶だけ無かった


自分が生まれる前に父親は単身赴任していたらしく

『父親がいた』という記憶さえ無い


小さい頃に何かしてくれたかと言われても

父親のことさえは何も無かった


「この人がお父さん?」


父親と気づいたのが小学校入る前の話で

それまで『何故か家にいる男の人』って感覚だった


「お父さんおかえり」

「ただいま」

「興味仕事大変だった?」

「あぁ」


父親は無口でいつも遅くまで仕事をしていた

ちゃんと会話出来てたのかも覚えていない


「ただいまー。あれ?お父さんどうしたの?」

「仕事で怪我をしちゃって」


父親は建設関係で

どこかしらに怪我を作ってくる人だった

1番記憶に残っている怪我は

頭に包帯がグルグル巻きになっていた父だった

他にも手なり足なりに怪我を作ってきた

今思えば自分のドジも父親似かもしれない


「痛そう……」

「だから少し仕事お休みなんだって」

「へぇー」


そんな父親がある時を境に

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