第10話 自分だけじゃない

母親の犠牲になっていたのは

自分だけじゃなかった

父親も同じ目にあっていた


父親は力のある人で

体術の心得のある人だった

だから母親が殴って来たのを力で返すんだけど

『火事場の馬鹿力』で母親の方が上回ってた


「出てけ!!早く出てけ!!」

「分かったよ。出てくよ!」

「そうだよ!!早く出てけ!!一生帰ってくるな!!」


そんなやり取りが毎週続くと

「地雷踏んでしまった」みたいなことが

分かってしまうようになっていた


殴り合いもあったけど

家電とかが出た時は

自分も父親も抵抗出来なくて

母親の怒鳴り声を聞く度に

「自分に返って来ませんように……」

なんてことを考えていた


父親は無口で

でも子どものことを思ってくれて

自分が殺られてる時も

庇ってくれて

本当にありがたかった


「お父さん……大丈夫?」

「……寝る」


元々無口だったのが

本当に喋らなくなっていった


きっと父親は

初めて『死にたい』って思ったんじゃないかな


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る