第17話

「後輩くんにセカンドチャンスをあげよう!」


「セカンドチャンス?」


 時間も時間なのでそろそろ帰ろうかという話になった時のこと。


「最後に後輩くんが選んだゲームで勝負をして、もし勝てたら何でも言うことを聞いてあげよう」


「マジすか」


「まじだよー。最後に燃える勝負をしようぜっ」


 鋭い目つきで先輩は格好つけた。


「何でもいいよ。さあ選ぶがよい」


 何でもいい、か。

 こうなってくると意地でも勝ちたい。


 でも相手は運動神経抜群おばけだ。もうプライドとか捨ててぶっちゃけ言うとスポーツ系で勝てる気がしない。未経験のビリヤードだって結構いい勝負に持ち込まれたわけだし、経験されていたらもう勝ち目ない。


 なら、俺が勝てる勝負はなんだ?

 この施設の中で勝てそうなもの。カラオケはどうだ? 下手かもしれないけれど、そもそも俺が得意じゃないダメだ。


 他になにかないか……。


「よし、じゃあ先輩――」


 俺が最後の勝負に選んだ内容はゲーム対決だ。

 この施設にはゲームセンターもある。そこそこ広く様々なタイプのゲームが置かれている。


 太鼓を叩く音ゲーやゾンビを撃つ射撃ゲーム。おなじみのエアホッケーやら何やらと、これだけあれば俺に有利なゲームもあるだろ。

 そうです、もう勝てればいいので俺に極力有利なゲームで勝負したいんです。


「んー、ゲームかあ……これは盲点だったかなあ」


 やや焦ったように先輩は言う。

 どうやら俺の選択は間違っていなかったようだ。

 だがどうする? エアホッケーは論外だ。あんなの未経験であっても運動神経でゴリ押しされるのがオチだ。レーシングゲーム? ダメだ俺も得意じゃない。俺がそこそこできて、先輩の運動神経が関係してこないゲームは……。


「これにしましょう」


 太鼓の職人。

 リズムアイコンが音楽に合わせて流れてくるのでリズムよく太鼓を叩く子供から大人まで楽しめる人気ゲームだ。

 確かに運動神経は関わってくるが、それ以上にリズム感覚が求められるゲーム。もし先輩がリズム感皆無な人だったら俺に勝機がある。


 何度でも言うが、俺はもう勝てれば何でもいい!


「ううん、まあ、言っちゃったもんは仕方ないよね。乙女に二言はないしね」


 乙女まじ太っ腹だなあ。

 俺達は二つ並べられた太鼓の前にそれぞれスタンバイする。

 曲は公平にお互いが知っているものにした。たまたまだろうけど、音楽の趣味が似ていたため曲選びは悩まなかった。


 そして、戦いが始まった。


「ああ、もう!」


 リズムよく太鼓を叩く俺の横で、ドンドコドンドコと音が暴れている。リズム感がなかったのか、それとも別に理由があるのかは分からないが、ともあれ先輩はこのゲームが苦手なようだ。

 つまり、俺の勝ちだ。


「っしゃあ!」


 俺は思わずガッツポーズを見せる。


「そんなに喜ぶなんて……そうまでして、私にえっちなお願いがしたかったのかな?」


 俺の驚きっぷりに天王寺紗千香は若干引いているようにも見えたが、そんなことは気にしない。


「何でも、お願い一つ聞いてくれるんですよね?」


「……な、何でもとは言ったけどあまりにもえっちなのはダメだよ? あと痛いのとか、あんまりちょっとよくないかも……えっと、だから、ね」


 俺が詰め寄ると、おろおろとしながら後ずさる。いつかの光景とは攻守が逆転している。


「そういうのも捨てがたいですけど、今回は遠慮しときます」


「え、と、じゃあ……なにかな?」


 俺がそっち系のお願いをしないことを聞き安心したのか、緊張した表情が解ける。ただ拍子抜けたような顔になっているが。


「どうしても聞きたかったことがあって」


「……それはあれかな、私の経験人数とかそういう感じ?」


「いや、そういう感じじゃないですけど」


「じゃあなに!?」


「俺に告白した理由、聞いておきたいなと思いまして」


 初めて彼女と会ったのは始業式の日だ。

 廊下で会った俺を校舎裏に連れて行き、告白をしてきた。


 何の接点もなく、特に人気でもない俺に、そんなことをする理由が思い当たらない。一目惚れだと言われても、こればかりは信じることができない。自分で言うのも何だけど容姿は普通、これといって目立つこともない。


「それが、どうしても聞きたいこと?」


「ええ、まあ。先輩と一緒にいると、それがどうしても気になって」


 俺が言うと、先輩はバツが悪そうな顔をする。

 暫し、無言で悩む。


「もし、これからも俺と会ってくれるって言うのなら話してほしい」


「……その結果、会ってくれなくなったりしない?」


「それはまあ、どうでしょうね?」


 そんな感じの理由なのか? それはちょっと聞くのが怖くなってきた。俺の命を狙って俺に近づいたとか、そんな危ない理由だったりするの? いや、それはちょっと水琴的思考が入りすぎているな。


「これからも会うために、これだけは知っておきたいんです」


 俺の真っ直ぐな視線を受けて、悩んでいた天王寺紗千香は決意したように俺の瞳を見つめ返してきた。


「分かった。話すよ、全部。本当のことを――」

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