第43話 杉野あかりの過去 #2 みんな私なんか見ない
「よ、よろしくお願いしま〜す……」
校庭の一角にスペースを取り、通り過ぎる生徒にそう呼びかけたけど誰もこっちを見向きもしなかった。
あたしを見ずにみんなの視線が集まっているのは、
「生徒会長には、金山修斗に投票よろしくお願いします!!」
はきはきとみんなに聞こえやすい通る声で金山くんがそう言った。
その声を聞くなりみんなは、
「金山がんばれ〜!!」
「絶対投票するからー!!」
と声をかけられていた。
その歓声に手を振り応える金山くんはいかにも生徒会長らしかった。
そして、もう一つみんなの視線が集まる理由として金山くんの応援演説者なのか、一緒に呼びかけしている女の子がいた。
その子の名前は立花(たちばな)あこちゃん。
あこちゃんは立花製薬の社長の娘で容姿も優れていてモデルさんもやっている。
そして、金山くんと昔ながら交流があると聞いた。
「どうか、生徒会長には金山修斗をよろしくお願いします!!」
金山くんの後に続いてあこちゃんもそう言っていた。
「今回はもう決まりみたいなもんだろ。」
「金山と立花さんのペアに敵うやつなんているのか?」
あたしや金山くんの呼びかけを横目に通り過ぎる生徒はそんなことを言っていた。
「……関係ない!!私は私のできることを!!」
しかし、どう頑張ってもあたしに注目が集まらなかった。
みんなが常に見ているのは金山くん。
誰が見ても、金山くんには欠点がなかった。
学校の人気者、注目を集めるやり方、応援演説者、みんなからの信頼……あたしには何一つ勝てる気がしなかった。
こんな時、あたしの人望の無さを恨んだ。
「応援演説者決めなきゃ行けないのに、なってくれそうな人がいない……」
前にも言った通り、みんなはあたしのことを冷めた目で見ている。
そして、金山くんと比べて人望は皆無。
そんなあたしの応援演説者になんてなってくれる人なんて誰一人いなかった。
応援演説者の件の方が問題だったけど、小さな問題もこの時くらいからあった。
まず、やっぱりあたしの話を聞こうとする人がいなかった。
これは仕方ないと思いどうにか人を引きつける何かをしなきゃいけないと思っていた。
それとは別に、掲示板に貼っていたあたしの自作のポスターが気づいたら剥がれていることだった。
なぜか掲示板前を通り過ぎるとあたしやあたしの他の立候補者のポスターが地面に落ちていた。
そしてその掲示板にはでかでかと他の掲示物が貼れないくらい大きい金山くんのポスターが貼ってあった。
「落ちてたら拾ってくれたらいいのに……」
落ちたポスターを拾い、金山くんのポスターでもうほぼ貼るスペースのない掲示板の隅にもう一度あたしと別の立候補者のポスターを貼り付けた。
他の立候補者のポスターも落ちていたし、最初はただ剥がれて落ちてしまったと思っていた。しかし、ポスターはただ剥がれて落ちていたのではなかった。
次の日もその次の日も絶対に貼ったと思っていてもなぜかポスターは剥がれていた。
あたしはなぜだろうと思いながらも剥がれてるポスターを拾ってまた貼り付けるのを繰り返していた。
そんなある日授業の合間の休憩時間にたまたまポスターの貼ってある掲示板前を通りかかる時だった。
掲示板前にあたしは顔も名前もよく知らない女子2人がいた。
そして、その2人は掲示板の前でこんな話をしていた。
「また懲りずにポスター貼ってあるよ。」
「本当だ。藤田さんだっけ?懲りないね。金山くんに勝てるわけないのに。」
そう言うと、その子はあたしの貼ってあったポスターを剥がして新しい金山くんのポスターを貼り付けていた。
「この子クラスじゃすごく浮いてるって話だよ。」
「そうなんだ。なんで生徒会長に立候補したんだろうね?自分の立場分かってないのかな?」
と言ってその子たちは立ち去った。
裏でこんなことが起きていたのは予想できなかったわけではないけれど、実際目の当たりにしてしまうと随分心のダメージが大きかった。
確認はしてなかったけれど、他の場所も同じことが起きているんだろうなと思った。
2人が立ち去った後、床に落ちたポスターを拾い見つめてあたしはこう思っていた。
「もう生徒会長辞めようかな……」
あたしはあたしなりに頑張ると決めたけれど、どうやっても金山くんに勝てそうにないこと、そしてあたしに対してのみんなの反応がすごく辛かった。
ならもういっそ辞めてしまえばいいと思った。
あたしには最初から母親の真似事なんて無理なんだとあたしにはみんなの前に立って引っ張っていく資格がないんだと思い知らされた。
こんな状況で続けていられる方がおかしいと思ってしまった。
「葉山先生のところへ行こう……」
“生徒会長立候補するのを辞めたいです。“と言えば今のこの状況からすぐ解き放たれると思った。
今まで頑張ってきたのはなんだったんだろうと思うくらいあっけない目標だった。
こんなあたしが出来るわけなかったんだと卑屈になりながら葉山先生がいるであろう化学室へ向かった。
ーコンコン
「どうぞ。」
化学室のドアをノックするとドアの向こうから葉山先生の声が聞こえた。
「失礼します……」
葉山先生の声を聞いてあたしは化学室へ入って行った。
「……藤田、どうした?」
葉山先生のその問いかけにはすぐには答えれなかった。
やっぱり、逃げちゃいけないのかもと思った。でも、もうどうしようもないという感情の方が勝っていた。
「葉山先生、私生徒会長に立候補するの辞めよう……かなと……」
あたしが生徒会長を立候補する上で1番言いたくなかった言葉。絶対に言ってはいけないと思ってた言葉を今葉山先生に話していた。
「……本当に辞めたいのか?」
「……はい……」
なぜか葉山先生に辞めたいと伝えるだけなのに悪いことを自分から報告する気がしていた。
「私には……無理かなって……」
これまで生徒会長になるために頑張ってきたことを思い返すと涙が出てきた。
でも、これでいいんだ今目の前にある大きな壁を乗り越えられる気がしなかった。
あたしがそう言って少し沈黙があった後、葉山先生がこう言った。
「……この学校昔ほぼ男子校だったんだよ。」
「えっ……?はい、知ってます……」
急にそんなこと葉山先生が言うから驚いた。
しかもそれを変えたのはあたしの母がやったことだったから。
「そしてその数少ない女子の中から1人だけ歴代生徒会長になった人がいる。」
「それって、私の……」
完全にあたしの母のことを言っていることが分かった。
でもなぜ葉山先生がそんな話をするのかよく分からなかった。
「藤田の母親だろ?親子顔がそっくりだ。」
「先生知ってたんですか?」
「そう思ったのはつい最近だけどな。俺と藤田の母親同級生なんだよ。」
「……!!」
驚きすぎて全く声にならなかった。
まさか葉山先生とあたしの母が同級生なんて思いもしなかった。
「そして、藤田は母親のようになりたいと思ってる。そうだろ?」
「……はい。」
葉山先生にあたしのほとんど全てを知られているようで怖かった。
でも、葉山先生はあたしのことをよく見てると言うことにも気づけた。
そのことにすごく嬉しくも思った。
「あの人が生徒会長に立候補すると言った時、最初は誰も見てくれていなかった。まず生徒会長に当選なんかしないとまで周りに思われていた。」
「そうだったんですか……」
さらに葉山先生は続けて、
「周りから冷たい態度ばかり向けられて、本当に当選なんかしないと俺もだし、周りもそう思っていた。でも……」
「でも?」
「あの人は絶対に諦めようとしなかった。周りにどんなことをされても諦めなかった。」
「……母親らしいです。」
昔の母を思い出して、あたしの前で見せてくれたあのかっこいい姿はもうこの時から存在したんだなと思った。
「……俺が言えた義理はないし、アドバイスはできないって言ってしまったけれど、本当に辞めたいのか?」
「そ、それは……」
「辞めたくない、諦めたくないからさっき涙を流したんじゃないのか?そして、今また頑張りたいって思ってるんじゃないのか?」
葉山先生の言う通りだった。
さっきまで辞めてしまいたいと思ってた自分がどこかへ行って、また母のようなそんな自分になりたいと思った。
「もう一度聞くが……立候補辞めるか?」
「……いえ!!やります!!絶対に生徒会長になります!!」
やっぱりあたしは生徒会長になりたいんだと思った。
「……やっぱりあの杉野ひかりと瓜二つだな。」
葉山先生は少し笑ってそう言った。
「先生、なんで私のことを後押ししてくれるんですか?」
あたしは気になった。
葉山先生なら立候補を辞めると言ったら分かったの一つ返事で終わると思っていた。
「それはな……いや、なんでもない。」
一瞬教えてくれそうだったけどすぐに訂正された。
でも、聞かなくてもいいと思った。
だって、葉山先生のおかげでまた生徒会長になりたい、頑張ろうって思えた。
「葉山先生、ありがとうございます。もう一回頑張ってみます!!」
「あぁ、頑張れ。」
あたしはやる気を取り戻してもう一度生徒会長になるために色々と練り直さないといけないと思い、すぐ化学室を出た。
「やっぱり、そっくりだな……俺が憧れた杉野に……」
「何か言いました?」
「あ、いや……なんでもない。さぁ、さっさと帰った。」
何か葉山先生は言った気がしたけど、葉山先生は喋ってくれなかった。
「あ、そうだ。金山のポスターの件は一応本人とその周りのやつには注意しておく。」
「葉山先生やっぱり知ってたんですか。」
「他の生徒からも言われてたからな。こういうのは公平じゃないといけない……だろ?」
「そうですね!!ありがとうございます!!」
と言って、あたしはまた生徒会長を立候補した時の気分で化学室を出た。
つい嬉しくなって化学室を飛び出たのはいいものの、やっぱり具体的に何をしていいのか分からなかった。
「うーん……まずはやっぱり私に注目を集めることだよね……」
まずみんなにはあたしの話を聞いてもらわなきゃいけなかった。
でも、そのいい方法が思いつかなかった。
「何かいい方法ないかな……どうしたら私に注目してくれるかな……?」
掲示板に貼ってある自分のポスターを回収するために各箇所ポスターの貼ってある掲示板へ行ってみたけれどやはり地面に落ちていた。
「やっぱり落ちてるなぁ……」
ポスターだけじゃ宣伝力が弱いし、どうしたら金山くんのようなインパクトのある宣伝ができるかなと考えていると、
「あっ、やっぱりいた。」
あたしの後ろから見知らぬ男の子の声が聞こえた。
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