第31話 今日はご馳走!

「何作ろっかな〜!」


今日は蓮お兄さんのお仕事が今年最後の日みたいだから、お疲れ様と来年も頑張ってねの意味を込めてご馳走を作ろうと思います!


「蓮お兄さんって何が好きなんだろ?いつも何でも食べちゃうからなぁ…」


いつも蓮お兄さんは私の料理を美味い!と一品一品言ってくれる。

美味いとしか言ってくれないけど色々な感想を並べて言ってくれるよりそれが1番嬉しい。

なぜって蓮お兄さんに1つお返しができてる気がするから。


「そうだ!メールで聞いてみよ!」


と思ってズボンのポケットを探したけど、


「あ、解約されちゃったんだっけ…」


蓮お兄さんの家に来てから同じことを繰り返してしまう。無意識に自分の携帯を探してしまう。

少し前も蓮お兄さんの前で


「蓮お兄さん、私の携帯知らない?」


なんて言ってしまったことがある。

数十分蓮お兄さんと探してやっと解約されてもう手元に携帯がないことに気づいた。


「まだこの暮らしに慣れてないのかな…」


最近はだいぶ落ち着いてきたけど、まだ男の人と生活するということに慣れない。

蓮お兄さんの反応を見る限り女の人と一緒に生活したことはないと思う。

私も一緒。当然男の人と一緒に生活するなんてお父さん以外したことない。しかもお父さんは家にいることは少なかったから大人の男の人と生活するのは私にとってはほぼはじめてだ。


「蓮お兄さんには少しでも気楽に過ごしてもらいたいんだけどな…私がこんなんじゃダメだよね…」


何も悪いことはしてないし失敗もしてないけどなぜか落ち込んでくる。

でも、


「私はやるって決めたんだから!」


頬をパンッ!と1回叩いて気合を入れ直した。


「んー、でもお祝いってなんだろう?お祝いって言ったら赤飯のイメージだけど。こんなことするとは思わなかったから前買わなかったし…」


この前行ったデパートでたくさん食材を仕入れたけど赤飯までは考えてなかった。


「とりあえずお肉使った料理いっぱい作ろ!」


蓮お兄さんは特にお肉料理を褒めてくれる。普段からお肉が好きなんだなって感じる。

その時だけその料理を食べてる時の蓮お兄さんの子供みたいな食べ方はすごく可愛い。


「ハンバーグ、唐揚げ、ローストビーフにあとは…」


この他に何作るか考えていた時、昔のお母さんを思い出した。


「肉じゃが…」


いつも肉じゃがを作るたびにお母さんは


「蓮くんに食べて欲しかったな。」


といつも言っていた。あの時もう少し早く私がお母さんに伝えていれば食べてもらえたかもしれなかった。

ガッカリそうなお母さんの顔が思い浮かぶ。


「よし!肉じゃがも作ろう!」


なんとなく使命に感じた。

お母さんの味になるのか不安だけれど。


「肉じゃが作るの久しぶりだな〜!じゃがいも溶けないかな?」


肉じゃがはよく失敗した記憶がある。何度もお母さんに手伝ってもらったっけ。

とか考えながらたくさん料理を作った。


「これだけあるなら大きなお皿に少しずつ乗せてパーティープレートみたいにしよう!」


蓮お兄さんの喜んでる顔を想像しながら夢中で作ったからいつのまにかたくさん料理を作っていた。


「作りすぎちゃったかな…?食べ切れるかな…」


私と蓮お兄さんだけでは量が多すぎると思った。


「まぁ、いっか!蓮お兄さんいっぱい食べてくれるし!」


蓮お兄さんの嬉しそうな顔で頬張るのが想像できてこっちまで嬉しくなる。

結局料理は大きなお皿3枚にたくさん盛りつけた。

不意に時計を見ると今は17:30を指していた。


「まだ、帰ってこないかな〜…」


いつも遅くまでお仕事してるし、早くても18時を過ぎるくらいに蓮お兄さんは帰ってくる。

この待ってる時間が少し憂鬱。

蓮お兄さんに会う前を思い出してしまうから。

まだ1人でいる時間が怖い。病院ではもう大丈夫とか蓮お兄さんに言ってたけど内心蓮お兄さんがずっとそばにいてくれないかななんて思ってた。

怖いと思うけどそれと裏腹に今は安心感もある。

お仕事から帰ってきたら蓮お兄さんは私のそばにいてくれるし、いなくても蓮お兄さんと共有できてるこの空間が大好き。

できればずっと一緒にいたいけどそれは絶対に叶わないことだって分かってる。


「ちゃんとお礼を言ったら私どうなるんだろう…」


その後のことを考えるとすごく怖いけど、まだ今は深く考えなくてもいいかな。


「でも、ほんとはちょっと、ずっと一緒にいられないかな…なんてね…」


そんなこと思ってたらなんか顔が熱くなっちゃった。


「お掃除しよっと!」


今は何もしないより何かしてる方がずっといい。それだけで蓮お兄さんが喜んでくれるから。

朝とお昼にお掃除したけどまたもう1回同じところを掃除してると蓮お兄さんの私物をしまうタンスが少し開いていた。


「あれ?ここ開いてたっけ?」


朝とお昼掃除してた時は気にしてなかったのか全く気づかなかった。閉めようと思って近づいたらたまたま中身が見えてしまった。そこには、


「あ…!これ私の書きかけの手紙…」


借金取りの人が来たあの日蓮お兄さんが持って帰ってしまったあの手紙がタンスの中に入っていた。手紙以外にも何か入ってるみたいだったけど、手紙だけ取り出してタンスを閉めた。


「蓮お兄さんこんなところにしまってたんだ…」


まだあの書きかけの文章を見ると恥ずかしくなる。


「これ、処分したいんだけどな…これがここにあるだけで恥ずかしすぎる…」


一生懸命文章を考えたけどこれ以上書けなかった未完成の手紙を蓮お兄さん本人が持ってるのがとても恥ずかしい。


「ちゃんと文章書けてたらよかったのに…」


あの時は気も動転してたからうまく頭が働かなかった。


「あと、何かもう1個あったような…」


手紙を取り出すときにタンスの奥の方で何かものに当たった気がした。


「えっと…これかな…?」


手探りで引き寄せてみるとそれは小さなタッパーだった。


「あ!このタッパーって!!」


と大きな声を出したと同時に玄関の鍵が開く音が聞こえた。


「ただいま。」


(蓮お兄さん帰ってきちゃった!早く戻さないと!)


慌てて手紙とタッパーをタンスに戻した。

蓮お兄さんがこちらに来る前になんとか戻せた。


「ただいま。どうしたの?そんなに慌てて。」

「な、なんでもないよ!ちょっと躓いちゃって!」


言い訳するのが精一杯だった。多分まだタンスの中に物があって、見られたくなかったものもあったかもしれない。


「大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ!あ!それより見て見て!」


うまく誤魔化せた?のかは置いといて、早く話題を変えたかったから料理を並べてある席に案内した。


「じゃじゃーん!!今日はいっぱい作ったよ!」

「お!どれも美味そう!しかも俺の好きなのばっかり…!」


蓮お兄さんは子供のように目をキラキラさせて料理を眺めてる。


「でしょ!やっぱり蓮お兄さんはお肉好きかなって思って!」

「早速食べたいけど、1個柚子ちゃんに聞きたいことがあってさ。」

「何?」

「初詣行く時振袖着て行きたい?」

「着たいなーって思うよ。でも私持ってないし。」


振袖なんて小さい頃着た以来着てない。

外に出歩くことなんてほとんどなかったからね。

少し遠慮目な顔して言ったら蓮お兄さんがこう言ってきた。


「もし着れるって言ったらどうする?」

「え!?着れるの?」

「うん、管理人さんが貸してくれるって。」

「本当に!?やった!」


素直に嬉しかった。また着れるなんて思ってもなかったから。


「嬉しい!どんなのかな〜!」

「喜んでもらえて良かったよ。」

「うん!ありがとう、蓮お兄さん!」


また蓮お兄さんに嬉しいことしてもらっちゃったけど今回はいいよね。だって嬉しいんだもん!

でもなんでそんな話になったんだろう?

気になったけど嬉しさの方が勝って聞かなかった。


「よし、じゃあいただきます!何から食べようかな〜!」


蓮お兄さんは部屋着に着替えて戻ってきて今から料理を食べるところ。


「好きなのから食べていいよ!」


なんでも好きって言ってくれる蓮お兄さんだからいちいち説明して食べてもらわなくても平気。だって、


「美味い!」


この一言と蓮お兄さんの嬉しそうに頬張る顔を見れば十分だから。

あ、でも肉じゃがは食べて欲しいかな


「ねぇ、蓮お兄さんこの肉じゃが食べてみてよ。」

「うん?肉じゃがか、美味しそうだね!」


ずっと食べて欲しかったって言ってたお母さんの願いだったからお母さんのとは違うのかもしれないけどようやくその願いが叶えられるかもしれないから。


「この肉じゃが私のお母さんの味を再現してみたんだ!じゃがいもも溶けなかったし自信作!」

「へぇ、そうなんだ。じゃあもらうね。」


と言って蓮お兄さんは私の作った肉じゃがを口に入れた。


「どう?」


いつも口に入れた瞬間美味いって言ってくれるけど今回は少し違った。ちょっと考えてるふうに見えた。


「美味いね!」


少し間をあけて蓮お兄さんはそう言った。


「そう?よかった!お母さんの作る肉じゃが美味しかったから作れるようになりたかったんだ!」

「柚子ちゃんはお母さんが大好きなんだね。」

「うん!お父さんも好きだけど1番優しくて、1番私想いのお母さんが大好き!」

「本当にこの肉じゃが美味いね。」

「よかった!」


お母さん、蓮お兄さんに食べさせたかった肉じゃが少し違う形だけど届けたよ。


「そういえば、さっき肉じゃが食べた時何か考えてたみたいだけどどうしたの?」

「いや…なんでもないよ。」

「そう?」


少し歯切れが悪かった。味付け気に入らなかったかな?でも美味しいって言ってくれてるし…


「そういえば、柚子ちゃん聞きたいんだけどさ。女の子って初詣とかそういう時って振袖って着ていきたいものなの?」

「私はどっちでもいいけど、1年で何回着れるか分からないから着れたら着たいなって感じだよ。」

「ふーん、そうなんだ。」

「なんでそんなこと聞いたの?」


別に蓮お兄さんが気にする話ではないと思うし、なんでそんなこと気にしてるのか分からなかった。


「いや、後輩とさしゃべっててさ女の子はみんな振袖とか着たいんですよ!とか言われたからそうなのかなって。」

「そうだったんだね。なんでそんなこと気にするのかなって思っちゃった!」

「少し気になっちゃってね。」


そんなことで気になっちゃうんだと蓮お兄さんは優しいなって思った。でも後輩さんと喋ったってことは…


「ていうか、その人に私のこと話していいの!?」

「大丈夫、大丈夫!そいつ口硬いし俺に生意気な態度は取れないからさ!」

「蓮お兄さんがそういうならいいんだけど…」


少し心配になっちゃった。大事になったら私はもうここにはいられなくなる。そうならなければいいけど。蓮お兄さんを信じてみる。


「でも蓮お兄さんってそんなことで悩んじゃうんだね!可愛い!」

「可愛くないでしょ。」

「蓮お兄さんには分かんないだろうな〜!」

「うん、全然分からない。」


そういう誰かを思って行動する蓮お兄さんが好きなんだよ。私は。あの事故の日、あの病院に借金取りが来た日蓮お兄さんが助けてくれた時余計にそう思うんだ。


「振袖楽しみだな、本当に!ね!蓮お兄さん!」

「そうだね、柚子ちゃんがそこまで喜んでくれるとは思わなかったよ。」


蓮お兄さんとこうやって笑って話してると自然に辛かったことを忘れられる。このままずっと…なんてね。

振袖が着れる日が待ち遠しいです!

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