第32話 いざ!大掃除!

今日は大晦日だ。仕事はもうない。今日の夕方に用事があるだけなので思う存分寝過ごしてやろうと思って昨日就寝した。

が、朝ドタバタする物音で目が覚めてしまった。


「ふぁ…おはよう…柚子ちゃん。何してるの?」

「あ、蓮お兄さん起きちゃった?ごめんね!」

「大丈夫…」


まだ全然頭が覚醒しない。柚子ちゃんの声がぼやけて聞こえる。


「今ね、お正月に向けておせちの仕込みしてるの!」

「そうなんだ。」


おせちもいつぶりだろうか。柚子ちゃんと一緒にいるだけで今まで何もしてこなかったのが目に見えて分かる。


「蓮お兄さんって何か嫌いなものとかある?」

「特にはないよ。」

「そっか!じゃあいっぱい作るね!」

「今年ももう終わるのか…」


連休におせちに大晦日とようやく今年が終わるんだなと実感させられる。今月はいろんなことがありすぎて濃い1ヶ月になった。来年は今まで通り静かに暮らしていたい。と思うが、そうはいかないだろう。

柚子ちゃんが俺のそばにいる限り多分静かにならない。別に俺にとっては悪くないことだし、むしろこのままでもいいなんて考えている自分がいる。それでもやはり、1つ考えるのはいつかは柚子ちゃんは“いなくなる”かもしれないということだ。このまま柚子ちゃんと一緒でも全然構わない。でも、クリスマスの日に柚子ちゃんが言ったあの場所へ行けば、親戚か誰か見つかるかもしれない。柚子ちゃんにとってはその方がいいし、そうあってほしいけれど…

まぁ、今考えても無駄かな。


「来年はいつも通り静かに暮らしたいな…」

「蓮お兄さんっていつもそんな感じなの?」

「うん。できるだけ静かにこっそり生きていきたいと思ってる。」

「でもその割には厄介ごとによく関わってるよね。」

「なんでだろうね。体質なのかな。」


静かに暮らしたいという割には目立っている気がする。目立ちたいわけではないけど自分の行動がそうさせてしまっている。


「でも、自分がやりたいと思ってやってることだから後悔はないかな。」

「私もそんな人になってみたいな…」

「めんどくさいことばっかりだから今のままでいいと思うよ。」


全部責任を背負った気して切羽詰まっていざ蓋を開けてみれば何も出来なかったなんてことはかなりある。俺の悪い癖だ。柚子ちゃんの件についてはうまく行き過ぎだと思っている。


「それに、自分が損することばかりだし俺みたいにならない方がいいと思うよ。」

「そう?」


柚子ちゃんは少し真剣な表情に変えて言った。


「損だと分かってるのに行動できる人はなかなかいないと思うよ。私は蓮お兄さんのそういうところ憧れるな。」


そんなこと他の誰かに言われたこともなかったから少し感激してしまった。


「…褒めても何も出ないよ…」

「別に何か欲しくって言ったわけじゃないよ!」


柚子ちゃんは手振りで笑いながら言った。人に褒められるなんていつぶりだろうか…そんなこと考えていたら、


「ねぇ、蓮お兄さん。大掃除しない?」

「大掃除?」

「うん、色々整理整理して要らないものは捨てたりしようよ!新年は綺麗な状態で迎えたいからね!」

「大掃除かぁ…」


周りを見渡すと、確かに1人で暮らしていた時よりかは物は片付いているが、整理整頓しきれてなかったりそろそろ柚子ちゃんが物を置くスペースも作らなければならない。

でも今までぐちゃぐちゃな部屋で平気だったから大掃除の仕方なんて分からない。


「大掃除してもいいけど、俺は多分足手まといになっちゃうよ?」

「私と一緒に片付けようよ!」


あんまり乗り気ではなかったが、今まで甘ったれた生活を見直すにはいいかもしれないと思った。


「じゃあやろうか。」

「うん!」


早速大掃除に取り掛かった。

今日は夕方に大家さんに振袖を着付けてもらうため夕方前には終わらせなければならない。

まずは整理整頓からはじめた。

部屋の中は柚子ちゃんのおかげで綺麗になっているが、まだ押し入れの中に詰め込んであるものがたくさんある。

ここ半年くらい開けてなかったので要らないものがたくさんあるだろう。

恐る恐る開けてみた。

開けると同時にいろんなものが転がり出てきた。


「私この押し入れ嫌な予感したから開けなかったけどたくさん詰め込んでたね。」


そう柚子ちゃんは言って引き気味の顔をしていたが、すぐお掃除モードの顔になった。


「よーし!やりますか!」


柚子ちゃんは気合十分に大きなビニールのゴミ袋を広げ


「蓮お兄さん、これいる?いらない?」


と1つ1つものを俺に見せているものといらないものを瞬時に分けていた。


「それは使う…それは使わない…」


柚子ちゃんが仕分けているのを見ているかいらないか言うことしかできなかった。


「それは…使うかな…?使わないかも…」


たまにあったら使うけれどなくても大丈夫なものも出てきた。例えば、ちょっといい素材の袋とか箱とか…そういう物は曖昧な返事しか出来なかった。


「じゃあこういうの全部捨てちゃうね。」


柚子ちゃんははっきりと捨てると言った。

内心使うかもなって思ったけれどなかなか捨てることのできない性格の俺だから思い切って捨てるという選択肢をした方がいいのかもしれない。

今までの部屋のことを考えると…

そしてこんなものも出てきた。


「うわぁ…穴空いた靴下だ…もう使わないから捨て…」

「ちょっと待って!」


今度は大きな声で呼び止められた。


「これまだ使えるじゃん!ちょっと借りていい?」

「いいけど…どうするの?」


こんな穴空いた靴下なんて何に使うのか分からなかった。何か変なことに使うんじゃないかと思った。

すると柚子ちゃんは自慢げな顔をして


「私お料理とかお掃除も得意だけど、1番得意なのはお裁縫なんだ!だからこの靴下また履けるようにしてあげる!」

「へぇ、そうだったんだ。じゃあお願いしようかな。」


何か変なことに使われるかと思った俺を殴りたい。今までそんなこと聞かなかったけれど料理や掃除の要領の良さをみて納得した。


「でも、縫い針とか糸持ってないよ?」


裁縫なんか学生以来やってないし、めちゃくちゃ不得意だったから今まで無縁の存在だった。

すると、柚子ちゃんは何やらポケットから


「じゃーん!この前いろんなもの買うときに実は針と糸買っておいたんだ!絶対何かに使えるって思ったんだよね!」

「そうだったんだ。」


あの日はいろんな物を買いすぎて細かいところまでは覚えてなかった。というか記憶にない。

でもとりあえず、裁縫はできるみたいだからよかった。


「裁縫は苦手だったな…」

「やってみると案外楽しいよ?」

「そうなのかな…?」


今までも苦手だから、無理だから、向いてないからとかの理由で自分に合わないことは避けてきた。厄介ごとには首を突っ込むのに…

やりたくないと思ってしまったら無意識に逃げている。


「柚子ちゃんは料理も掃除も上手いから裁縫も器用にこなすんだろうね。」

「そうかな?でも私昔は何にも出来なくて全部お母さんに教えてもらってたよ?」

「そうなんだ、意外。」


女子力高いし、家事は何でもできるから苦労してないと思った。


「昔はすぐお皿割っちゃうし、料理焦がしちゃうし。いつもお母さんに後片付けさせちゃってたなぁ…しかも泣いてしかいなかったし…」


でもその分出来るようになるために必死に努力したんだよね。俺には到底真似できないことだ。何事にもできないと決めつけたらすぐ諦めて逃げてしまう俺には。もちろんその方が楽だし、自分にとっては好都合ばかりだ。でもそのままでいいのかとも思ってしまう…

少し後ろめたく考えていると、


「蓮お兄さん!もうこんな時間!早くしないと夕方までに間に合わないよ!」

「そうだね。さっさと片付けちゃおうか。」


なんだかんだでもう昼過ぎ。ペースを上げてやらないと間に合わない。

ペースを上げてタンスの整理を終わらせた。

整理するだけで大きなゴミ袋3袋分の物を処理しなければならなくなった。どれだけ掃除をサボっていたか目に見えて分かる。

次に普段掃除しにくい場所や掃除しない場所を掃除した。

掃除をしながら他愛のない話をして大掃除を終えた。


「よし!綺麗になったね!」


柚子ちゃんが雑巾を片付けながら言った。

辺り一面見渡すと本当に自分の部屋なのかというくらい綺麗になっていた。

掃除が終わったとこで柚子ちゃんがあるスペースに質問をしてきた。


「ここの空いてるところ何か置くの?」

「ここは柚子ちゃんが使う机とかタンスとか置こうかなって思って空けておいたんだ。」

「本当に!?」


そう、物を整理整頓している間に机と小さなタンスが置けるスペースを確保して置いた。

柚子ちゃんはいつにもなく嬉しそうだった。


「えっとね…私もタンス欲しいなって思ってたの…その…下着とか…」

「そうだったんだ?でもパンツはあの服の下に…」

「なな、なんで知ってるの!?蓮お兄さんのバカっ!!変態っ!!」


パチーンと頬を叩かれた。痛かった。


「たまたまあの服崩しちゃって直してたら見つけちゃった。ごめん。」

「もう…!知ってても言わなくていいの!デリカシーないなぁ…」


一緒に住んでるしたまたま見ちゃったしいいんじゃないかとは思ったけど、女の子はダメみたいだ。また、女心を理解できてなかったみたいだ。


「でも、洗濯物干してるとき柚子ちゃんのパンツ無くない?」

「そんなの!蓮お兄さんが帰ってくる前にドライヤーで乾かしてすぐ隠してますっ!!」


また柚子ちゃんを怒らせてしまった。パンツぐらい気にしなくてもいいのに…とは思う。


「もう!こんなことしてたら時間来ちゃったじゃん!早く準備して行こ!」


時計を見るともう夕方。休みって時間が過ぎるのが早いなとつくづく思う。


「じゃあ準備しようか。」


そう言って各々着替えて持っていく物準備して管理人さんがいる部屋へ向かった。

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