第29話 遠慮してる理由

「わぁ〜人いっぱい!」


俺の隣で柚子ちゃんが目をキラキラさせてはしゃいでいる。

俺と柚子ちゃんは今柚子ちゃんの身の回りの必需品やらいろんなものを調達するためにデパートへやってきている。

柚子ちゃんのこの反応を見る限りあまり家族でこういうところへ来たことがないのだろうか。

そんな今は目をキラキラさせてはしゃいでいるが、昨日の夜から今日の朝ここに来るまで、


「ねぇ、本当に行くの?私大丈夫だから!」


と露骨に行きたがらなかった。

やっぱり遠慮しているような気がする。


「気にしなくていいよ。ていうか、色々揃えてもらわないとこっちが困るんだ。」


一昨日みたいなことはもうごめんだ。高校生相手に欲情なんかしてはいけない。


「何を気にするの?あっ、やっぱりエッチなこと想像してたの…?」

「ち、違うから!早く準備して!行くよ!」


天然で言ってるのか狙って言ってるのか本当によく分からない。頭がごちゃごちゃになりながらも考えようとはせずに無理矢理柚子ちゃんを連れ出して今に至る。


「さてと、まず何から見に行こうか…」


俺もあまりこういうとこに来ないので周りの店を1つ1つ確認しながら歩いていた。

すると、ちょうど高校生でも着れそうな女の子の服屋が目に入ったのでまずはそこから行こうと思った。


「柚子ちゃん、まずあそこに行こう。」

「はーい。」


あまり本意ではなさそうな返事だった。それでもなりふり構わず連れて行った。


「好きな服選んでいいよ。」

「本当に買うの?大丈夫だよ…本当に…今の服でやりくりするから…」

「1枚でやりくりできるとは思わないし、俺が良いって言ってるんだからいいの!ほら選んできな!」


柚子ちゃんの背中を押して店内に入れた。


「うぅぅ…蓮お兄さんの意地悪ぅ…」


柚子ちゃんはとぼとぼと店内に入って行った。


「無理矢理来たけど、いまいち俺こういうの分かんないだよね…」


遠目で柚子ちゃんが服を選んでいるのを確認して、俺はどんなのが柚子ちゃんに似合うのか服を手に取って広げたりして見ていた。


どんなのが似合うのか探していたところ、マネキンで全身コーディネートしているのを発見した。


「これ、柚子ちゃんに似合いそう。」


派手過ぎず、可愛めの服装だった。こんな寒い時期でもあるのでマフラーを付けてるのがよく似合っていた。

柚子ちゃんがこれを着ているのを想像して、


「うん、完璧に似合う。」


すぐに柚子ちゃんに見せたくて店内で服を選んでる柚子ちゃんを呼びに行った。


「柚子ちゃん、こっちにある服似合うと思うだけど…」


と言いかけたところで柚子ちゃんの手元を見ると何着か服を持っていた。


「どれ〜?見に行く〜!」


柚子ちゃんは俺がさっきいた方向へ歩いて行った。

その時俺は見逃さなかった。柚子ちゃんが持っている服がどれも○○%OFFや半額という値札が貼ってあった。


(やっぱり、遠慮してるな…)


俺に気を遣わせないようにしているのか、安そうな地味な服ばかり持っていた。


「蓮お兄さんどれ〜?」


遠目から柚子ちゃんの呼ぶ声がする。


「ごめん、ごめん。今行く。」


それに反応して走って柚子ちゃんのとこに向かった。


「柚子ちゃん、このマネキン見て。」

「うん。」


俺は柚子ちゃんが来たら似合うだろう服を着たマネキンを指差した。


「この服、柚子ちゃんにすごく似合うと思うんだけどどう?」

「うーん、私には可愛すぎて着れないよ。」


俺に苦笑いしながらやはり遠慮しがちにそう答えた。


「そうかな…?似合うと思うんだけど…」


俺は納得いかなくてマネキンが来てる服を触ったりしていた。


「ね!蓮お兄さん、もう私服決めたから買おう!」


柚子ちゃんは俺の袖を引っ張ってきた。

そのまま会計に行こうと思ったが、やっぱり納得できなくて、


「柚子ちゃん、あの服着てみてよ。」


と柚子ちゃんに言った。


「本当に大丈夫だから!早く行こうよ!」

「ダメ。遠慮してるでしょ?絶対に。」

「してないよ…ほら、私いっぱい服選んだし…」

「そんな地味な服しか着ないの?」

「そ、それは…」


柚子ちゃんはしゅんとして、顔を俯かせた。


「俺は柚子ちゃんにもっと女子高校生らしくいてほしい。それに今はもう我慢しなくていいんだよ。俺がいいって言ってるんだからもっと甘えていいんだよ。」

「でも、甘えたら蓮お兄さんが困っちゃう…それにこれ以上蓮お兄さんによくしてもらったら私どうしたらいいか…」


そうか、柚子ちゃんは我慢してるだけではなく俺に貰った分何か返そうと思って我慢しているのか。

そんなこと今は気にしないでほしい。だって今までそうやってずっと我慢してきたんだと思うから。


「柚子ちゃん、俺はもう大人だ。お金のことくらい稼いでなんとかする。柚子ちゃんのことだってなんとかしてみせる。だから今は気にせず甘えてほしい。」

「いいのかな…?私…甘えちゃって…」

「いいんだよ。今までずっと我慢した分甘えて。」

「うん…うん…」


今までどれだけ我慢してきたんだろう。考え切らないくらい我慢してきたんだよね。周りに置いていかれても嫌な顔ひとつせずずっと我慢してたんだよね。柚子ちゃん、だから今だけは俺の前だけはうんと甘えてほしい。


「ほら!早く試着室行こう!」

「う、うん…」


その服を早く着て欲しくて、そればっかりが先行してすぐに店員さんを呼び同じ服を出してもらい柚子ちゃんの背中を押して試着室へ向かった。


数分後。


「蓮お兄さん、着替えたよ…」


試着室のカーテンから顔だけ出して柚子ちゃんは言う。


「早く見せてよ。」


俺はどんなふうに柚子ちゃんが着こなすか早く見たかった。柚子ちゃんは照れた顔で、


「やっぱりこの服可愛すぎるからダメだよ!」


意地でも試着室から出てこようとしなかった。


「いいから!いいから!」

「ダメだって…!」


そんな柚子ちゃんをお構いなしにカーテンを開けた。


「おぉ…やっぱり似合ってる…」


そこには予想通りというか予想以上の着こなしで立っている柚子ちゃんがいた。


「やっぱり俺の予想通り柚子ちゃんにこの服合ってると思ったんだよね!」

「うぅ…恥ずかしい…」


金銭面のことで困ったが、これが見れただけで今日来た甲斐があった。


「蓮お兄さんのバカ…」

「すごい似合ってるからいいじゃん!」

「こんな可愛い服着たことなかったからすごく恥ずかしい…」

「よし!その服は購入決定ね!」

「もう…知らない!」


柚子ちゃんはそう言ってスタスタ歩いて行くとしばらくして俺のところへ戻ってきた。


「蓮お兄さん、これも買って!」


柚子ちゃんの両手には大量に服を抱えて俺に押し付けてきた。


「急にたくさん持ってきたね…」

「だって、蓮お兄さんが我慢しなくていいって言ったもん!このお店入った時からたくさん欲しい服あったんだ〜!ちゃんと責任とってよね!」


服を俺に押し付けたあとビシッと人差し指立てて俺にそう言った。


「それは勘違いさせる言い方だからやめなさい…」

「何か言った〜?」

「いえ、何も言ってません…」


柚子ちゃんは嬉しそうな顔をしていた。

この顔を見たら俺も何故か嬉しくなった。


「早く次行こうよ!蓮お兄さん!」


俺の裾を引っ張って柚子ちゃんははしゃいでいる。


「分かったから!これ会計に出してくるから!ちょっと待ってて!」


そう言って急いでレジに商品を持っていった。


「商品は以上でしょうか?」

「あ、はい。」


レジの定員さんはテキパキ服をレジに通してくれた。

会計を見ると


「5万…」


一桁多いのかと思い何回も見直したが数字は変わらなかった。まだ予算以内だが、初手からここまで大きく出るとは思わなかった。


「まぁ、いっか…」


柚子ちゃんの嬉しそうな顔を思い出したら買わないわけにはいかない。

俺は何食わぬ顔で会計を済ませた。


店から出ると柚子ちゃんが待っていた。


「あ!蓮お兄さん!次どこ行く?」

「とりあえずそうだな…」


周りを見渡したがここら辺一帯は服屋しかなさそうだった。


「少し歩こうか。」

「うん!」


歩きながら買いたいものを探すことにした。

少し歩くとおしゃれなカフェを見つけた。特に時間が押してる訳ではなかったので休憩がてらそこに入ろうと思った。


「柚子ちゃん、あそこのカフェ行こう。」

「うん!いいよ!」


そのカフェは結構な人がいて、座れるかどうか分からなかったけれどなんとか席に案内してもらった。

席に案内してもらってメニューを開いた。

メニューには飲み物からがっつり食べれるもの、スイーツなどいろいろなメニューが載っていた。


「うーん、どうしようかな…」


まだお腹が空いている訳ではないし、飲み物だけで済ませようと思った。


「ねぇ!ねぇ!蓮お兄さん!私パフェ食べたい!」


柚子ちゃんはメニューを広げてイチゴのパフェを指差していた。


「いいよ、じゃあ俺はコーヒーかな。すいませーん!」


2人とも決まったので早速店員さんを呼んで注文をした。


「蓮お兄さんコーヒーだけでよかったの?」

「あんまりお腹空いてないからね。」

「そうなんだ。」


コーヒーとパフェを待っている間次どこの店を行こうかとか何を買おうかと話をしていた。

しばらくするとコーヒーとパフェが同時に来た。


「わ〜!すごーい!」

「美味しそうだね。」

「いただきます!」


柚子ちゃんは口いっぱいにパフェを頬張った。


「ん〜!おいしい!」

「よかったね!」


その美味しそうに食べる顔が何より可愛かった。

俺も次どこ行こうか考えながらコーヒーを啜っていた。


「蓮お兄さんこっち向いて!」

「え?」

「はい!あーん!」


無理矢理口の中にスプーンを押し込まれた。


「…別に俺はいいのに。」

「いいの!ね、おいしい?」

「うん、おいしいよ。」

「だよね!おいしいよねこれ!」


急に押し込まれたものだから驚いて味どころじゃなかったけど。

柚子ちゃんの小さな子供みたいに嬉しそうに頬張るのを見てなぜかほっとした。

しばらくして柚子ちゃんはパフェを食べ終わり、俺もコーヒーを飲み干したところで


「早く次行こうよ!蓮お兄さん!」

「そんなに急がなくても…」


今この瞬間が楽しくて仕方ないのだろう。

その柚子ちゃんを見てるとなぜかあの日のことを思い出した。最初はあまり心開かなかった女の子。だんだん慣れていくにつれてとびっきりの笑顔で笑う女の子。


「もう何年前のことかな…」


そんなこと考えていると、


「蓮お兄さん!こっちこっち!これよくない!?」


大声で俺を呼ぶ柚子ちゃん。


「今行くよ。」


そのあと思いつくだけ買い揃えたいものを買い揃えた。

俺の財布はほぼすっからかんになってしまったけれど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る