第27話 本当の目的

「私ね、もう1つここにきた理由があるの。」


もう1つの理由?やっぱり何か悪いところでも…


「蓮お兄さん、携帯貸して。」


柚子ちゃんは俺の携帯を取り、地図のアプリを開いた。


「ここ、昔1回だけ親戚か分からないけれど、誰かと遊んだ記憶があるの。小さい頃だから上手く思い出せないけど…」


と、携帯に表示された地図に指さした。


「ここは…」


柚子ちゃんが差した地図の場所は学生時代ほんの少しだが俺も過ごしたことがある場所だった。少しの中でも思い入れのある場所だった。


「蓮お兄さんにもう1個お願い。ここに連れて行ってほしいな。」


今度は可愛い顔ではなく真剣な顔でのお願いだった。


「いいけど…すぐには行けないな…」


土曜に仕事とかあるからとりあえず色々落ち着くまで行けない。しかもその場所は軽く3時間くらいはかかりそうな場所だった。

すぐに連れて行ってあげたいけれど、まだいつ行けるか分からない。


「すぐにじゃなくていいよ。私も体とかもう少し良くなってからの方がいいかな。」


少し焦りすぎた。俺自身も何も準備できていないのによくすぐ行こうだと思いついたもんだ。


「そうだね。柚子ちゃんの体はいつくらいに良くなりそうか分かる?」

「えーと、退院するときにリハビリをちゃんとやって夏くらいには良くなるかなって言ってたよ!」

「そっか。じゃあここに行くのは夏に行こう。」


勢いで決めてしまった。それまでに何も起こらなければいいけれど。

また、夏までに俺の方は仕事を、柚子ちゃんは体の方を整えなければならない。


「…覚えてくれているかな…?」

「何か言った?」

「ううん!なんでもないよ!それより…」


何か言った気がしたけど、気のせいみたいだ。

何やら柚子ちゃんは近くに置いてあったビニール袋を持ってきて、


「蓮お兄さんってこういうの好きなんだね…やっぱり男の子だから…?」


ビニール袋から出てきたのは俺の隠してあったエロ本だった。


「ちょっ…!それどこで見つけたの!?」

「…ベットの下…」


素早く柚子ちゃんから取り上げて近くのビニール袋も回収した。何冊かのエロ本とベット周辺に転がっていたマンガだった。

人が来るなんて思ってもなかったし、男はそういうもんなんです!


「柚子ちゃんこういうのは見つけたらそっとしておくのが…」

「ごめんなさい、でもちょっと掃除したくって。」


見つけてしまったものはしょうがない。早急に隠し場所を探さなければ…

柚子ちゃんが言った掃除という言葉に少し反応し、周りを見渡すると


「あれ?ここ俺の部屋?」


と思うぐらいとても綺麗になってた。床に散乱してた服や家具もゴミも無くなっていた。


「もしかして、柚子ちゃんがやってくれたの?」

「勝手に掃除しちゃってごめんなさい!でも掃除しないと2人分この部屋にいられなかったから…」


それくらい汚かったのか…ろくに掃除とかもせず毎日気にせず過ごしていたから気づきもしなかった。


「そうなんだ。ありがとう柚子ちゃん。」

「どう…いたしまして…」


柚子ちゃんは少し照れくさそうにしていた。

にしてもとことん綺麗にされている。

散らばっていた服はちゃんと畳んであるし、漫画もきちんと並べてあるし、家具は取りやすいところに置いてある。


「やっぱ、女子ってすごいなぁ…女子力ってこういうことかぁ…」

「私全然女子力ないですよ!ただ家で日常的にやってただけで…」


そんなこと言われても説得力がない。

それこそが女子力というのではないだろうか。


「私男性の部屋入ったのはじめてで、お掃除するの楽しかったです!」

「はじめてでここまでする柚子ちゃん凄すぎだよ…」


綺麗になった部屋を見て感心していると、


「なんか甘いもの食べたくなっちゃった。」


と、柚子ちゃんが言った。

そういえばと思い出し、玄関に置いたままのケーキを持ってきた。


「さっき、ケーキ屋さん行ってきて買ってきたんだけどちょうど2つあるから一緒に食べよう。」

「なんで2つあるの?蓮お兄さんだけだったら1つでいいんじゃないの?」

「それには事情があってね…」


ケーキ屋さんで売れ残った最後の2つだったこととこの2つ買えば割引になったことを伝えた。


「俺自身も1つじゃ足りなかったから2つくらいは買うつもりだったんだけどね。」

「ふーん。」


柚子ちゃんは何か意味深な返答をした。


「どうしたの?」

「蓮お兄さん、私と一緒にケーキ食べたいから2つ買ってきたのかと思ったのに。」

「えっ!?」


確かにそんなこと考えたけど、ここでそうと言ったら一生バカにされる気がする。


「いや、違うよ。本当にこの2つが売れ残りだったんだ。」

「ふーん。そうなんだ〜。」


柚子ちゃんは俺の顔を見ながらニマニマしていた。

一緒に食べれるかもって思ったことはなんとしてでも隠し通さないと!


「女子高生と一緒に食べれるなんて滅多にないから喜んでるのかなって思っちゃった。」

「そういうことか…」


よかった。一緒に食べたいと思われたことは気付かれてなさそうだった。


「私もお父さん以外男の人と食べたことないけどね!」


柚子ちゃんはこんなキャラじゃなかった気がする。めちゃくちゃにからかわれる。


「と、とにかく食べよう。」

「はーい。」


2人揃ってケーキを口に入れた。


「美味い!」

「おいしい!」


揃って声が出た。

こんなにも息ぴったりで声が出るとは思わなかったから2人顔見合わせて笑った。

久しぶりにケーキなんて甘いものを食べた。

最近というか、1人暮らしして仕事を始めてから全く甘いものなんて食べなかった。


「今度は私が作っちゃおうかな〜?」

「柚子ちゃん作れるの?」

「蓮お兄さん、女子高生舐めないほうがいいよ!」


とか言って、柚子ちゃんは胸を張っていた。

最近の女子はすごいなと感心した。


「でも、食材とか足りないし買いに行かないとね。」

「それは、確かに…」


男の家だ、何も食材なんてないし冷蔵庫の中もほぼ空っぽだ。


「また今度作るからお楽しみに!」


そう言って思いっきりはじけるようなとびっきりの笑顔を柚子ちゃんは俺に見せた。


(これから一緒の生活がはじまるんだな…)


そう思いながら柚子ちゃんの笑顔に見惚れていた。

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