第26話 信じられない事実
「なんで…ここに…?」
俺は今とても不可思議な現象を目の前にしている。昏睡状態と言われた柚子ちゃんがサンタのコスプレをして目の前にいるのだ。
俺が驚いていることに柚子ちゃんは不思議そうな顔をしていた。
「もう怪我とか大丈夫なの…?」
「まだ普段通りに動けないところ多いけどもう大丈夫だよ!」
「そうなのか…よかった…」
まだ治り切ってないみたいだけれど、よくなっているみたいだった。
すると、柚子ちゃんが俺に顔を近づけてきた。
「ね、ねぇ、蓮お兄さん。これ似合ってる…かな?」
「あ、うん。似合ってるよ。」
「そう?よかった…」
柚子ちゃんは嬉しそうにしながら照れていた。
いや、今はそれどころじゃない。情報が処理しきれない。なんで柚子ちゃんが俺の家にいるんだ?
「あっ、そうだ!蓮お兄さん!これさっきおばあさんに貰ったんだ!これ食べよ!」
俺が使う1人用のテーブルにたくさんのパーティー料理が置いてあった。
「えっ、ちょっと待って、おばあさんって誰?」
「このお家の周りをお掃除してた人だよ?」
「あっ、管理人さんか…」
どういうわけか、柚子ちゃんが管理人さんにこの豪勢な料理をもらったみたいだ。管理人さんに会ったなら俺の家の中にいるのも納得できる…訳なかった。
「ねぇ!ねぇ!早く食べよ!」
というか、柚子ちゃんってこんな子だったっけ?なんか変わったような…
とりあえず、柚子ちゃんが俺の袖を引っ張って嬉しそうな顔しているので考えるのは後にしてその豪勢な料理を食べることにした。
料理を食べながら、俺の中で大渋滞している疑問を1つ1つ柚子ちゃんに聞いてみた。
「あのさ、柚子ちゃん…」
「なぁに?」
「俺、1週間くらい前に2回お見舞いに行ったんだけど、その時柚子ちゃんは昏睡状態で会えませんって言われたんだけど本当に大丈夫なの?」
もう会えないと心の片隅でどこか思っていた。だからこそ今目の前の現実が受け止めきれていない。
すると、柚子ちゃんはニコッと笑って
「うん、私ずっと寝てたよ。」
それから柚子ちゃんは笑顔から少し苦笑いの顔に変えて
「私もうこのまま死んでしまってもいいかなって思ったよ。でもね…」
「でも…?」
「私もう2回も命を救ってもらってるんです。もう死んでてもおかしくないんですよ?それなのに生きてる。」
「うん…」
「これってまだ死んではダメ。まだやることがあるって神様が言ってるんじゃないかなって。」
柚子ちゃんは俺と顔を合わせてまたニコッと笑った。
「だから、生きようって思ったんです。それに蓮お兄さんに借金まで返してもらって何もせずにはいられなかったんです。」
「俺のことはいいのに…」
「ダメなんです!私のお母さんにも口酸っぱく言われました!お礼はしっかりしなさいって!」
「そうなんだ…」
ここにいる時点で気づいていたが、柚子ちゃんが後ろ向きに考えず、前向きに今を生きようと思ってくれていることはいいことだと思った。勝手にもう会えないかもしれないと思ってた俺がちょっと恥ずかしい。
「もうこの話やめませんか?私はもう元気です!」
「そうだね、やめようか。」
もう暗い話してても仕方ない。ここに柚子ちゃんが元気でいるという事実だけでいいじゃないか。
そして俺はまた渋滞してる疑問を柚子ちゃんに聞いた。
「いつ退院したの?ここがなんで俺の家って分かったの?」
俺はお見舞いに行ってる間ここが俺の家だということは柚子ちゃんには伝えていない。なぜ分かったのか疑問だった。それにいつ退院したのかも気になった。
「退院は今日の午前中にしました。まず自分の家へ向かったんですけど、差し押さえになってました。まだおうちに荷物残ってないかなって思ったんですけど中にすら入れませんでした。」
そんなことがあったのか…まさか柚子ちゃんの家がもうそこまでの状態になっているなんて思っていなかった。
「行く当てがなくなった私はここの近くの横断歩道を思い出したんです。」
「よくここだって分かったね。」
「私一応記憶力いいんですよ?」
記憶力がいいって言ってもあんな周りが暗かったのによく覚えてるな…
「もしかしたらこの近くに蓮お兄さんがいるかもって思ったんです。それに私の家から少し歩けばここ近いですし。」
「そうだったんだ。」
柚子ちゃんの家が近所だったという事実も驚いたが、俺に会えるかもという一縷の望みにかけてここまできたことにも驚いた。
「この辺りキョロキョロしてたらお掃除してたおばあさんが私に話しかけてくれたんです。どうしたの?って。」
ナイスです!管理人さん!そう心の中で叫んだ。管理人さんが見つけなかったら柚子ちゃんは今どうなってたか…
「夕方くらいまでそのおばあさんとお話ししてました。」
「そうだったんだ…」
そうか、それならよかった…ん?待てよ、なぜ俺の家の中にいるという疑問が真っ先に浮かんだ。
「柚子ちゃん、もう1個聞きたいんだけど…」
「なんですか?」
「どうやって俺の家の中に入ったの?」
「それは…」
柚子ちゃんは少し言いづらそうに、
「あの…本当にごめんなさい!あのおばあさんに蓮お兄さんのいとこですって言っちゃいました!」
「あっ、そういうことか…」
「おばあさんも蓮お兄さんに会ったらごめんなさいって言っておいてねって言われました…」
確かに親族とかだったら家にあげてしまうかもしれない…ダメですよ!管理人さん!そんなセキュリティガバガバじゃ!
「本当にごめんなさい!!」
「もういいよ。事情は分かったしね。でもこれって色々まずいんじゃないのかな…」
「だ、大丈夫です!私はいとこですって言い切りますっ!」
そういう問題じゃないんだよなぁ…色々とアウトなんだよ…
「で、ここに来たってことは寝泊まりできるところがないってことだよね…?」
「…はい…蓮お兄さんいいですか…?」
てへっと舌を出してウインクをしていた。可愛いから許したくなるけど…どうしようか…
「お願い…蓮お兄さん…」
そんな子猫みたいな目されて頼まれたら…
「…しょうがないか…」
さすがに断れなかった。
「やった!」
柚子ちゃんは嬉しそうに喜んでいた。最初からこれを狙っていたかのように。
「これからどうなるんだ…」
いろんな危険なことが頭をよぎる。もし見つかったら…一緒に住むってことは…
「はい、蓮お兄さんあーん。」
考え込んでたところに柚子ちゃんが俺の口に料理を押し込んできた。
「なんか、暗いこと考えてそうだったから。大丈夫だよ!なんとかなるよ!」
私に任せてって顔をしてたが頼りない。
だけど今は考えても仕方ないか。
「よし、食べようか!これうまいな!」
「蓮お兄さんこっちも美味しいよ!」
今考え込んでると嫌なことしか思い浮かばない。確かに危ない橋だけど、こんな子を1人にしてはいけない。俺が助けなくちゃ。借金を払った時にも決めたんだ。俺はこの子を助ける。
「食べた食べた。美味かったなぁ…」
「ごちそうさまでした。」
あらかた食事を終えて一息ついたところに柚子ちゃんが、
「私ね、ここに来た理由がもう1個あるの。」
いきなり柚子ちゃんは真剣な顔で俺に言ってきた。
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