第25話 ここからはじまる
今日はクリスマスイブだが、終わりの見えない仕事を黙々とやっている。
毎年この時期は何もしてないから別にいいんだけど、仕事を増やしてキツくしてしまったため早く帰りたいとも思う。
特に今はとても寒いので水を使った作業などは本当にしたくない。
「あ〜、寒い。早く終わんないかな…」
少し拭いては手を擦っての繰り返しで全然進まない。
そんなこと繰り返してようやく帰る時間になった。
「太田さん、お疲れ様です。今日はあそこまで進めたんで今日は上がります。」
「おう、お疲れさん。」
もう周りには俺と太田さんしかいない。
そんな毎日が当たり前になっていた。
「早く帰ろう。雪降るかもだし。」
ここから自宅までは30分くらいかかる。雪なんか降られたらなかなか帰られない。
「それにしても寒いなぁ。本当に雪降るかもなぁ…」
ホワイトクリスマスの聞こえはいいが、俺には全く関係ないし、むしろ迷惑だ。
「今日の晩ご飯何にしようかな。あったかいもん食いたいなぁ。」
急いで着替えて帰路につく。もう21時を回っている。途中コンビニに寄って晩ご飯を買って家に帰るともう22時くらいになるだろう。
「うわ、人多いな。」
こんな時間だが、いつも人があまりいないコンビニでもかなり賑わっている。
ここまでくる道のりでもやたら人がいた気がする。
いつも俺が買う弁当が並んでるところへ行った。
「今日は豪勢なのが多いなぁ…」
クリスマスだからかいつもとは違うような弁当が並んでいた。そのかわり値は張るけど。
「どれでもいっか。」
適当にいつも食べてるような弁当を買ってコンビニを出た。
帰る道中も人がチラホラおり、羨ましいのとこんな自分と比べて少し落ち込んだ。
「俺もリア充してぇ…」
それは当分叶うことはないだろう。
「さて、寝るかな。」
晩ご飯を済まし、風呂も済ませてテレビをつけていたが、どこも明日からクリスマスだと騒いでいるだけだった。
「クリスマス…ね…」
プレゼントもらって、家族で豪勢な食事して…というのが一般的だろう。俺の幼少期は父親が仕事の関係で帰ってくることが少なかったからクリスマスはいつも母親と過ごしていた記憶しかない。プレゼントをもらって嬉しかったくらいかな。
いつもと変わらなかったから、いざクリスマスに何かやろうと思ってもあまりピンとこないのだ。
「柚子ちゃんはちゃんともらってたのかな…」
親が借金をしてたのだからもしかしたら我慢していたのかもしれない。俺の憶測でしかないけど。
だからこそ何かしてあげたかった。
でも、現実は何もしてあげられない。
「考えても仕方ない…か…」
虚しくなるだけだった。俺には何もできないんだから。
「寝よう。」
考えてたら眠くなってきた。部屋の明かりを消してベットへ潜り込んだ。だんだんと意識が遠のいていく。
次の日、いつもと同じく仕事をしていると太田さんが俺のところへ寄ってきた。
「菊月!今日は早く帰っていいぞ!」
「えっ…はい?」
なんかどこかで同じようなことがあったような…
「また最近会ってないだろ?女に。」
「だから違いますって!」
「そうかそうか!今日は仕事すぐ片付きそうだから早く帰っていいぞ。」
「そうやって言ってくださいよ…」
そういうことかとまたからかわれたが今日は早く帰れるらしい。
ということは、
「今日、柚子ちゃんのとこへ行こうかな?」
と思ったが、
「いや、やめておこう。」
また病院へ行って会えないで帰らされたらなんかメンタル的にキツイ。もうかなり日にちが経っているから大丈夫だと思うけど。
「今年もボッチクリスマス過ごすか…」
今年もボッチクリスマス確定的だった。
それとなりに仕事をこなして帰る支度をした。
車を走らせるとふと思った。
「ケーキくらいは買って帰るか…」
別にクリスマス気分を味わいたいわけではない。ただ俺が食べたいだけ…
ケーキ屋を見つけて中に入ったが、
「すげぇ行列…」
レジ前にはかなりの人が並んでいた。やはりこのシーズンはすごいんだなと思った。
とりあえずその行列に並んだ。
「なんのケーキが残ってるのかも分からない…」
ショーケースの中にケーキが入ってるはずだが、人だかりで何も見えない。
少しづつ行列を進んでいき、もう少しで俺の番になるところでお客さんが一斉に掃けた。
「え?なんで?」
ゾロゾロその場から帰っていく人たちに流されそうになりながらもなんとか持ちこたえた。
人が帰っていった理由はショーケースの中にあった。
ショーケースの中にはもうショートケーキが2つしか残っていなかった。
「これしか残ってないのか…」
どうしようかなと悩んでいると店員さんが、
「すみません、もうあとこれしか残ってないんですよ。もしこの2つ買っていただいたら値引きしますよ。」
本当は色んな味のケーキを食べたいとは思ったが、仕方がなかった。
「じゃあ、このケーキ2つお願いします。」
このケーキ2つが1個分の値段で買えたから得した気分だ。
「それにしても人すごかったなぁ…毎年こんな感じなのか?」
車に乗り込みクリスマスのケーキ屋さんは大変だなと感心しながら家に帰った。
駐車場に着き、時間を確認すると18時過ぎだった。家へ向かおうとすると目の前に白い雪が降ってきた。
「わぁ!ホワイトクリスマスだ!」
この時間だと周りにまだ人がいて、特にカップルが多かった。降ってきた雪にはしゃいでいた。
「今年は雪降ったなぁ…」
俺の住んでいるところはあまり雪は降らないのだが、こういう日に降るってことは何かいいことあるのかな。
そんなどうでもいいことを思いながら家を目指した。
玄関前にやって来た。
「寒いから早く入りたい。」
雪まで降ってきてもう気温はかなり下がっていた。
「ただいま。」
誰もいないのに言ってしまう。これは癖である。が、家に入った瞬間違和感を感じた。何かいい匂いがする。というか誰か家にいる?
「え?どういうこと?」
恐る恐る入っていき、真っ暗な部屋の明かりをつけると、そこには真っ赤な服を着た誰かがいた。
「あ!蓮お兄さん!メリークリスマス!あれ?どこだっけ?紐…」
と言って遅れながらクラッカーがパンっと鳴る。
「え…」
驚きすぎてそれ以上声が出てこなかった。
目の前に柚子ちゃんがいるのだ。何回目を擦っても頬をつねっても目の前に柚子ちゃんがいる。
「どう…かな?このサンタさん。似合ってる…?ちょっと恥ずかしいけど…」
と言って柚子ちゃんは恥ずかしそうにしながらもサンタのコスプレを回ったり広げたりして俺に見せてくれた。
心のどこかで少し諦めかけていた。もう会えなくなるのかもと。そんな嫌な妄想は今消え去った。これは俺の人生史上最高のクリスマスプレゼントかもしれない。
ここから神様がくれた俺と柚子ちゃんとの1年がはじまる…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます