第24話 今年もボッチクリスマス…?

結局、あの日以来柚子ちゃんのお見舞いには行けずずっと仕事三昧だった。

そしてもう世間一般はクリスマスイブとかやらになっていた。

まぁ、平日で仕事なんだけれど。

天気予報で今日明日くらいに雪が降るとか言ってたっけ。


「寒いなぁ…手が冷たいと仕事やりにくいんだよ…」


駐車場まで冷えた手を擦って車まで向かった。

今日も相変わらず重い荷物を持って走り回って、窓拭いて…最近はまた違う仕事も増えてきた。

未だに体は痛くなるけど。

あれからお見舞いに行かなくなったとはいえ、柚子ちゃんが無事であることはいつでも願っていた。

ただ直接行かないと分からないので病院に行きたいが、仕事に追われて行けないという毎日を繰り返していた。


「柚子ちゃん、元気だといいな…」


また水ようかんを買ってぎこちない話題で笑って話したい。そんな気持ちの一方で叶わない現実がとても虚しい。


「今度いつ会いに行けるかな…」


クリスマスに何かしてあげたいと思ってたあの日を思い出すが叶わないだろう。まだ、何していいか考えてもないんだけど。


「そんなことよりも仕事だ!気合入れないと挫けそうになる。」


1回自分の頬を叩いて気合いを入れ直した。




会社に着いてロッカールームへ行き、着替えていると岡山が来た。


「あ!菊月さん!生きてたっすか!?」

「おいおい、俺を地獄に行ったやつみたいに言うなよ。」

「だってあれ、地獄じゃないっすか!自分とも全然会わなくなりましたし。」

「確かにそうだな…」


太田さんには仕事内容を変更してもらってから岡山とはもちろん今までとは同じような時間は全く過ごせてなかった。岡山と喋るのもこのロッカールームでしかない。


「やっぱ、キツイっすか?」

「運動しとけばよかったって思ってるよ…」

「菊月さん体力なさそうっすからキツイっすよね!自分は絶対やりたくないかな。」

「でも、これくらいしなきゃいけないんだよ。」


キツイのは分かってる。でもやるしかないんだ。俺は黙々と着替えていると、


「そういえば、あの女子高生の話最近聞かないっすけどどうなんすか?」


今はその話題にはあまり触れてほしくなかった。

でも、岡山には悪気は無いし話しているのは岡山しかいないから知りたいのは当然だろう。


「ちょっとな、今大変なんだよ…」

「あ、そうだったんすか…すみません…」

「別に怒ってなんかいないから!大丈夫!まぁ、でも様子は察してくれ。」

「分かったっす。」


岡山は聞いてはいけないことかもしれないと察してすぐ謝ってきた。

でも突然聞いてくるのは不思議だった。


「なんで今更そんなこと聞くんだ?」

「いや、菊月さんいつもこういう時1人じゃないっすか。その子と一緒にクリスマス過ごすのかなって。ほら明日クリスマスじゃないっすか。」


朝全く一緒のことを考えていたところだ。後輩にまで心配されるとは情けない。


「最初はその予定だったんだけどな…ほら、今早い時間に帰れないからさ。」

「ですよね…じゃあ今年もボッチクリスマスっすね!」

「うるせぇ!」


好きで毎年クリスマスは1人でいるんじゃねぇよ。と強い恨みを込めて岡山の脇腹をどついた。


「痛ってぇ…あ!そういえば、杉野さんとはどうなったんすか!あれから進展あったすか?」

「は?なんもねぇよ。」

「つまんないっすねぇ…」

「なんでお前が俺と杉野の関係に面白がるんだよ!」

「だって、お二人お似合いじゃないっすか!あんなに杉野さんと喋ってるのは菊月さんしかいないっすよ!」

「だからなんもないって俺たちには。もしかしたら杉野彼氏いるかもしれないだろ?」

「それもそうっすね…クリスマスとか熱い夜過ごしちゃうんすかね!」


つい妄想してしまった。杉野が男とイチャついてる一部始終を…


「って!何想像させるんだ!このバカやろう!」

「想像したんすか?変態すね、菊月さん!」

「締めるぞお前。」

「ごめんなさいっす!勘弁してくださいっす!」


つい最近あんなことがあったから少し想像してしまった。杉野はモテそうだからそんなこと日常茶飯事なんだろう…


「もうクリスマスかぁ…」


柚子ちゃんは毎年クリスマスはどうやって過ごしているのか…

柚子ちゃんにクリスマス何もしてあげられないのが悔やまれる。


「俺って何もしてあげられないのかな…」


柚子ちゃんのもし万が一の最悪の事態を想像してしまう。考えたくもないけど今の状況1番そうなるかもしれない。


「はぁ…」


今は仕事するだけで精一杯だ。その上病院へ行っても柚子ちゃんに会えない。全く柚子ちゃんと関係のない俺だが、関係ないとは思いたくない。

そんなこと考えていると


「菊月さん!行くっすよ!もうはじまるっす!」

「おう、今行く。」


時間を見るともう仕事が始まる時間。

俺は急ぎ足で岡山が呼ぶ方へ向かった。

今は仕事することで精一杯だが、ずっと柚子ちゃんのことは考えている。忘れたことなんてない。

俺の今の頭には水ようかん食べて笑ってる柚子ちゃんが思い浮かぶ。

またあの笑顔が見たい。俺には何もできないけれど。

何もできないからこそ願わせてくれ。


“絶対に元気になりますように!”


毎年何も起こらないクリスマスだが、今年は何か起こるのかもしれない…

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