第23話 嫌な予感
今日は太田さんの好意で仕事を早く終わらせてくれたので急いで病院に向かっている。
あの日柚子ちゃんと別れた時かすかに感じた嫌な予感を確かめに。
「俺の考えすぎかな?大丈夫だよな…」
病院に近づくにつれてだんだんその予感は強くなっていく。
嫌な予感とは裏腹に柚子ちゃんを待たせてしまっていると思ってしまい、早く会いたいなどと思ってもいた。特に恋愛感情とかじゃなくて、単純に心配だから。
「気になるだけ…別に恋愛感情なんか…」
周りにくどく彼女だろうとみんなに言われて気になるのか気にしないようにしようとすると逆に気にしてしまう。まさか俺って…
「ないない。」
相手は高校生。もしそんなことがあったら警察沙汰になってしまう。でも同意の上なら?
「やめよう。いくら彼女が欲しいって思ってもこれはダメだ。」
そんな煩悩は振り払わなければ…
「体痛いのは隠さないとな…」
そんなカッコ悪いところなんて見せれない。
痛い体をさすりながら柚子ちゃんのいる病室へ向かった。
いつも通りエレベーターを上がって少し歩いて角曲がるとすぐ柚子ちゃんの病室だ。
もうすぐ柚子ちゃんの病室だ。と思い、角を曲がると柚子ちゃんの病室の前に1人看護師が立っていた。
なんだろうと思いその看護師に話しかけてみた。
「あの、何かあったんですか?」
すると、看護師はこちらは気づいたようで俺の顔を見てハッとした顔でこっちに近づいてきた。
「あの!菊月蓮さんですか?」
「あっはい、そうですけど。」
なんで俺の名前を知ってるんだ?そんな事はなりふり構わず、看護師は話し続けた。
「よかった…本当に来てくれた…」
なぜか安心したようだった。
「どうしたんですか?」
「あの楠木さんのことなんですけど…聞いてくださいね。」
やっぱり、何かあったんだ…何もないよな…何事もなくあってくれ…
看護師は少し暗い顔をして話を続けた。
「楠木さん、12/9の日急に容体が悪化しまして…」
「えっ…」
やっぱり、何かあったんだ…
嫌な予感がどんどん強くなる。
「だ、大丈夫なんですよね?柚子ちゃんは…」
「今は一命は取り留めていますが、未だに昏睡状態で…」
「そ、そうなんですか…よく…なりますよね…」
「まだ分からないです…」
看護師は俯いた。さすがにこれ以上は分からないだろう。俺だって分からない。でも、無事であって欲しい、早く目覚めて欲しい今はそれしか考えられなかった。
「1回顔見てもいいですか…?」
「あっ、えっと…」
看護師が少し慌ててた。
「どうしたんですか?」
「えーと、そのですね、今面会はできないんですよ…」
「なんでです?」
「それは…すみません言えません…」
チラッチラッと柚子ちゃんの病室を見て言った。
「そ、そうなんですか…明日もし来れたら来てもいいですか?」
「いいですけど…楠木さんが目覚めるとは保証できません。その場合は面会はできません…」
「そうですか…」
「今日は来てもらって申し訳ないんですけど…」
「はい…分かりました…」
何か合わせたくない理由でもあるのだろうか、なかなか柚子ちゃんの病室へ行かせてくれなかった。
今日のところは帰ることにした。
「明日なら、明日なら柚子ちゃんは元気になってるはず…!」
そんな淡い期待をしながら次の日を迎えた。
次の日会社に着いてすぐ太田さんに頼み込んだ。
「すみません、太田さん。今日も定時で上がらせてもらってもいいですか…?」
「お、やっぱり女だったか…そうかそうか。いいぞ!」
「いや、違うんですけど…」
太田さんは俺の背中を叩いて嬉しそうだった。勘違いなんだけどなぁ…
「菊月、今日も定時で上がっていいけど明日からたんまり仕事溜まってるからよろしくな!」
「うぇ…あ、はい…」
また太田さんは嬉しそうだった。俺はダブルで全然嬉しくないんだけど。
仕事量を想像しただけで嫌気が差してくる。
(明日から絶対キツイよなぁ…いやでも今は柚子ちゃんのことを優先!)
とりあえず今日は、柚子ちゃんのとこへ行けることに一安心した。
定時になり、急ぎ足で病院へ向かった。
「何事もありませんように…今日は起きててくれますように…」
そう口にも心でも願うことしかできなかった。
病院に着き、走って病室に向かった。走ってはいけないが、そんな事は今はどうでもよかった。看護師何人かに
「走らないでください!」
と言われたが、無視して柚子ちゃんのいる病室に向かった。
「はぁ…はぁ…」
エレベーターに乗り込んだ時にはもうすでに息は上がっていた。でもすぐに柚子ちゃんに会いたいからこんな事はどうでもいい。早く着いてくれと思うだけだった。
エレベーターが空きすぐ飛び出して角を曲がった。
すると、昨日と変わらず1人看護師が立っていた。
「あ、あの…柚子ちゃんは…?」
「すみません、今日もまだ昏睡状態です…」
やっぱりダメか…看護師からその一言を聞くとどっと疲れが出た。
「そうです…か…あり…がとう…ございます…」
完全なる息切れで言葉が繋がらなかった。
そのまま帰ろうとすると看護師が、
「あ、あの!菊月蓮さんですよね?」
「はい、そうです…けど…」
「楠木さんが蓮お兄さんありがとうって寝言かもしれないですけど言ってましたよ!必ず目は覚ますと思いますので、その時はまた来てください。」
少し安心したというか、柚子ちゃんが昏睡状態なのにそんなことを言ってくれたことにすごく嬉しかった。
助けてよかったなって。
「ありがとうございます。また来ます。」
次会いに来る時は元気な柚子ちゃんが見たい。いや見るんだと柚子ちゃんが元気になってくれるのを祈りながら病院を後にした。
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