第21話 コーヒーは無糖派?多糖派?

俺は今疲れ切ってベンチに座っているのだが、なぜか横に杉野がいる。こんな遅い時間まで何してるんだと思っていたが、横に杉野がいることに驚き過ぎてなかなか言葉が出てこなかった。

すると杉野から


「ねぇ、最近なんでそんなに頑張ってるの?」

「え?」

「ちょっと前までは残業なんかしない人だったじゃん。残業してる方が珍しいのに。」


やっぱり、みんなそれが気になるのかな。誰もが同じことを俺に聞いてくる。が、俺は答えない。


「いや、特に何もないよ…」

「菊月君、やっぱり…」


すると杉野は少し残念そうな顔をして、


「彼女でもできたの?」


またそれか。みんななぜそう思うのかよく分からなかった。


「いや、違うけど…」

「隠さなくてもいいじゃん!ねぇ、教えてよ。」


グイッと迫ってくる杉野に少しドキッとしたが、そんなことより勘違いをどうにかしないと…


「いや、そうじゃないんだけど、今お金が欲しいんだよ。」

「絶対に嘘!」

「なんでそんなに否定するんだよ。」


なぜかやけに必死になっている杉野が気になった。こんな必死な杉野は見たことない。いつもすまして仕事こなしてるようなやつだから。あ、俺があんまり見てないから知らないだけか?


「だって、私に女の子が好きそうなお菓子は何かとか聞いてきたり、早く帰ったりと思ったら次はお金が欲しいから残業してるとか言うし…」


完全に勘違いだ。でも、いきなりこうなったら誰でもそう思うか…


「これが彼女のためじゃないんだったらなんだって言うの!?」


杉野は俺を少し照れた表情をしながら睨みつけられた。


「本当に勘違いだって。まず俺に彼女ができると思うか?」


自分で言っててなんか凹んだ。でも事実だから…


「確かに、そうだけど…でもやっぱり、そう思っちゃうじゃん!」


なぜそんなに必死なのか本当によく分からない。だから逆に聞き返してみた。


「もし、俺が彼女のためにって言ったらどうする?」

「えっ…」


杉野は少し遠くを見るような顔をした。


「やっぱり、本当に彼女…?」

「いや、違うけど。なんで、俺に彼女いるかどうか聞いてくるんだよ。」

「え、えーと、それは…ねぇ…」


杉野はドギマギしていた。もしかしてこれは…


「もしかして、杉野さ俺が彼女作ったかもって心配になった?」

「ふぇ…?」


杉野が顔の頬を真っ赤にした。そしてすぐ顔を隠した。


「ち、違うの!そんなこと全然思ってないから!菊月君がそういうことするの珍しいから聞いてみただけ…」

「それで嫉妬しちゃった?」


杉野の頭からプシューという音が聞こえた。これは図星かな?


「杉野って案外そういうとこあるんだな。」

「うるさいっ!!」


少し涙目になっているのが確認できた。が、持っていたファイルか何かで頭を叩かれた。


「痛ってぇ…叩かなくてもいいじゃん…」

「うるさいっ!うるさいっ!!」


何度も叩かれた。結構痛かった。


「悪かった!悪かった!だからやめてくれ!」

「ふんっ!」


顔の頬真っ赤、涙目で俺に顔を合わせずにそっぽを向いてしまった。

少し沈黙していた。


「なんで杉野はこの時間までいるんだ?もしかして俺にそんなこと聞くために待ち伏せしてたわけじゃないよな…?」

「ち、が、い、ま、す!!」


またファイルを握りしめて俺を叩こうとしてくる。


「ごめん!ごめんって!やっぱり仕事?」

「そうだよ…仕事の合間合間に見てたなんて言えない…」


なんかゴニョゴニョ言っててよく分からなかったが、仕事なら仕方ないか。


「杉野も大変だな。俺は残業始めて後悔してる。」

「私はそんなことないよ。パソコンで文字打つだけだし、菊月君の方がよっぽど大変でしょ?私あんなのやりたくないし。」

「なんで俺のやってる仕事知ってるんだ?いたっけ?」

「あっ…」


杉野はしまったと口元を手で隠した。


「もしかして、ずっと俺のこと…」

「それ以上は言うなぁ!!」


俺が言いかけた途中で杉野が口を手で塞いできた。


「分かったから!ごめんって!誰かから聞いたのか?」

「そ、そうだよ…菊月君ってほんとに意地悪だよね。」

「いや、杉野が墓穴掘ってるだけ…」

「また叩かれたい?」


次はもう杉野は照れておらず怖かった。


「残業キツイけどさ、俺やんなきいけないことあるから。決めたことは最後までやらないとな。」

「本当、何のためにやってるよ?」

「それは教えられないかな…特に女性には言えないかな…」

「もしかしてエッチな…」

「違うから!!」


お決まりのツッコミとボケだった。というかそんなこと考えてもなかった。


「言えないもんは言えないんだよ。察してくれ。」

「ふーん。」


杉野は持ってた缶を開けて飲んだ。


「もうこれ以上聞かないけどさ。もし、もし彼女とかできたら絶対に言ってよね!」

「なんでいう必要があるんだよ。」

「うるさい!なんでもはなんでもなの!…私が認めない限り絶対彼女なんて許さない…」

「え?なんて言った?」


なんか最後言った気がしたけどよく聞き取れなかった。


「うるさい!ばーか!まぁ、いいや。元気そうでなによりです。」

「俺が元気そうに見えるか?」

「そんだけ話せる元気あるなら元気でしょ!」


まぁ、確かにそうかもしれない。でもこれは杉野のおかげかもしれない。


「杉野ありがとな。おかげで元気出たわ。」

「そ。ならよかった。じゃあ頑張ってね。」

「おう。ありがとな!」


よいしょと杉野は立ち上がって去り際、


「あっ、相談あったらいつでも聞くから言ってね!」

「ありがとう。でも杉野に相談することはないかな…?」

「バーカ。」


と言って去って行った。


「なんだったんだ本当に。」


杉野からもらった缶コーヒーを開けて飲んだ。


「甘っ!これ多糖じゃん。」


俺はブラックコーヒーしか飲まないからとても甘かった。


「よし、今度仕返ししてやろう。」


やっぱり甘いコーヒーを貰ったら仕返しは苦いコーヒーだろう。そう思いながらいつ仕返ししてやろうか考えながら帰宅した。




「もう、菊月君の意地悪…」


いろいろ恥ずかしいこと言っちゃった気がしたけど、菊月君元気そうでよかったかな。


「でも、彼女じゃないんだったらなんだろう…?」


そこがすごく気になった。まぁ、でも違うって言ってたから違うのかな?


「よし、明日も仕事だから早く帰って寝なきゃ!」


気にしても仕方ないか!と自分に言い聞かせて明日菊月君に会ったらどうしようか考えていた。


「あっ、あのコーヒー多糖だったけど大丈夫だったかな?まぁいっか!」


今日はたくさん菊月君と話せたから少し気分がいい。


(頑張ってね、菊月君。)

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