第20話 キツすぎる仕事量

もうすぐ朝礼が始まる。


「よし、準備はできた。」


太田さんにしっかり準備しろと言われたから服装、そして精神面もしっかり準備してきた。


「あ、そうだ。岡山に伝えないと。」


先程太田さんに言われたことを思い出し、岡山を探しに行く。

俺にだけは岡山はすごく目立ってて見つけやすいのですぐ見つかった。


「おーい、岡山!」

「あ、菊月さん!なんすか?」

「さっき太田さんのとこ行ってきたんだよ。そしたら俺の持ち場岡山に掛け持ちでやらせろって言ってたんだけどやれるか?」

「大丈夫っす!任せてくださいっす!」

「よろしく。」

「それより菊月さんこそ頑張ってくださいっす!」

「俺の心配はいいって。」

「絶対キツイっすよ。キツかったら逃げてもいいと思います!」

「逃げねぇよ。」


岡山に心配されたが、しっかり準備してきたからもう大丈夫だ。

間もなくして、朝礼が始まった。

ラジオ体操を済ませ、課長からいつも耳から耳へ通り過ぎる話を聞いて持ち場へとみんな向かって行った。

朝礼が終わった瞬間、遠くで叫び声が聞こえた。

太田さんだ。


「おい!菊月!こっち来い!」

「はい!」


すぐさま返事をし走って太田さんの方へ向かう。

周りからは驚きの目線を向けられていた。当然だろう、あんな叫び声で呼ばれるのだから。

走って太田さんのところに着いたときは少し息が上がっていた。


(もしかして俺って体力ない…?)


と思ったのも束の間、太田さんは床に転がっている荷物を1つ1つ指差し


「菊月、これはあっちの倉庫、この荷物は向こうの部屋、この荷物はお前がいつもいる持ち場に持ってけ。5分以内でな。」

「えっ…はい!」


東西南北あらゆる方向へ持っていくように指示されたので5分で間に合うか微妙なラインだったが、早くしなければと思い荷物を持ち上げると


「おっもた!」


何キロあるんだこれ?ってぐらいの荷物だった


「これを5分…?」


試しに他の荷物を持ち上げてみようとしたが、案の定どれも同じくらいの重さだった。


「早くしろ、菊月!まだ他にもあるんだぞ!」


って、言われてもこの重さはキツすぎる。しかし、やらなきゃいけないないのでなんとか5分以内で運ぶことができた。


「おーし、次これをあそこに持ってけ。」


休んでいられなかった。俺の両手には次々に書類やらなんやらが高積みにされた。

予想していた通り太田さんに怒号を浴びながらの仕事だった。

周りの視線が可哀想な人だと見られていたが今は気にしてなんかいられない。

がむしゃらに太田さんに言われる通りに動いた。



そこら中を走り回りやっと少し休憩時間をもらえた。

もう立っていられなかったので自販機近くにあったベンチに一目散に座り込んだ。


「やばいって…あれ…」


もう心の声を心の中では抑え込めずダダ漏れにしていた。

通り過ぎる人からは変な目で見られたり、哀れな目で見られたり、近づかないように俺から離れていく人ばっかだった。


「キッツいなぁ…でもやんないとなぁ…」


天を仰ぎながら辛さを噛み締めながらそう思った。

そんなのも束の間もう休憩時間が終わったのか遠くから


「菊月!どこだ!」


また叫び声が聞こえる。

ベンチから飛び起き、


「今行きます!」


俺は軍隊にでも入隊したかのような感覚だった。

またいろんなところを走り回って太田さんの言われるがままに動きやっと昼休みの時間になった。

が、いつもと違う時間の昼休みで1人で昼食を取らなきゃいけなかった。


「寂しいなぁ…」


大きな食堂で1人スプーンと皿が当たる音が響き渡っていた。


「もう体が痛いんだけど…」


運動を今まであまりしてこなかった自分を呪った。

そして、なぜか昼休みが過ぎるのもあっという間だった。

皿と睨めっこしてただけな気がするんだけど…

職場へ戻ると太田さんが待っていたかのように俺を見つけるとすぐ近寄ってきた。


「よし、今度はあの作業するぞ。」


と言ってホコリやよく分からない汚れで汚れている窓ガラスを指差した。


「これから毎日昼からはあの窓ガラスをピカピカにしような!」


と言って俺に洗剤みたいなやつとスポンジを渡してきた。


「えーと、どこからどこまでなんでしょうか?」

「そりゃあ会社全部の窓ガラスだろ?」


声も出なかった。この会社にどんだけ窓ガラスあるんだと思ってるんだよって


「じゃあ任せたからな。」


と言ってスタスタ太田さんは歩いてどこかへ行ってしまった。


「え…」


太田さんはやんないのかよ…と思った。

試しにスポンジに洗剤をつけて擦ってみた。


「全然落ちねぇ…」


全く落ちなかった。いくら擦っても擦ってもまだ黒いままだった。


「これ全部かよ…」


絶望しながらも磨き続けた。


何時間だろうか、もう定時間際だった。擦り続けても汚れが落ちない窓ガラスを未だに1枚も綺麗に仕上がっていない。

その間太田さんは一度もこちらへ来なかったから怒鳴られなかったのが唯一の救いだが、ここまで落ちない汚れははじめてだった。

それにみんなからの視線が痛すぎた。

そして、定時の時間になりみんなが帰り支度をしていたが、俺は帰っていいのかも分からないしこの状態で帰ったら太田さんに何されるか分からないと思い、必死に擦り続けた。


夜19時を過ぎた。

もう外は真っ暗で何も見えない。

俺はただひたすら窓ガラスを擦り続けている。


「いつまでやればいいんだろう…」


と言っても未だに1枚も綺麗になってないんだけれど。

すると誰かが俺の肩を叩いた。


「あっ!はい!」


振り返ると太田さんがいた。


「おーし、今日はここまでだ。少し綺麗になってるな。明日も頼むぞ。」


バンバン俺の肩を叩いて太田さんはそう言った。


「次行くぞ、菊月。」


まだあんのかよ…ともうクタクタになった重い全身を頑張って動かして太田さんに着いていった。

すると、いつも俺や岡山が作業している持ち場へと移動した。


「菊月、これをこうするんだ。」


太田さんは作業台に乗ってる道具を1つ1つ同じ向きに丁寧に整頓していた。


「もしかして、これ毎日やってるんですか?」

「朝だけじゃ間に合わないからな。ほら早くそこを揃えろ。それ終わったら今日は終わりだ。」

「はい!」



太田さんに道具をどこに置けばいいのか、どうやって整頓したらいいのか聞きながらようやく今日の仕事か終わった。


「よーし、今日は終わっていいぞ。お疲れさん!」

「お疲れ様でした。」


と言って着替えがあるロッカールームへ向かった。


「しんどすぎだろ…これを毎日か…?」


もう足腰がガクガクしていた。立っているのも辛かった。


「早く家帰らないと…」


もうその場で寝てしまいそうだった。眠気を気合いで押し込めてようやく家に着いた。

もう22時を過ぎていた。


「もうダメだ…」


ベッドに飛び込んだ。風呂とか晩ご飯とか色々やらなきゃいけないことがあるけれどもう何も考えられなかった。かろうじてアラームだけ入れてベッドに入った。

ベッドに飛び込んだ瞬間もう記憶がなくなった。


-ピピピッ


アラームの音で飛び起きる。


「もう朝か…」


全然寝た気にならなかった。

体がそこら中痛かった。


「仕事行かなきゃ…」


準備はと思ったけれど昨日何もせず寝てしまったから仕事に行く格好そのまんまだった。


「やばいな…こんなの毎日やってたら死ぬぞ…?」


だけど、決めたことだからと自分に言い聞かせて痛い体を頑張って動かした。

仕事場に着くと朝一番から太田さんに呼び出された。


「よし、あそことここ整理してこい。朝礼始まる前までにな。」

「はい…」


昨日みたいな元気はでなかった。


「今日の午前中はまた書類とかいろんなもの運んで、午後からはまた窓ガラス拭くぞ!」


なぜか太田さんは上機嫌だった。俺はそんな元気ないのに…


そんな太田さんから怒号が飛び交いながら走り回って窓ガラスを磨く日々がようやく3日が経った。

ちなみに風呂と食事はちゃんと取ってます。ほぼ寝てるけれど。


「おーし、今日は終わり!お疲れさん!」


今日もボロボロになったけれどなんとか仕事を終えることができた。

太田さんはこのあと何してるか見てないから分かんないけれど何してるか気になった。けれど今はそんなこと考えてる場合じゃない。

とにかく今は座りたかった。

近くにあったベンチに座り込んだ。タオルも一応持ってきたので目元をタオルで隠し、抜け殻みたいに何も見えない天を見上げていた。


「疲れた…」


こうやって天を見上げてる時が1番楽というか、落ち着く。このまま眠ってしまいそうだったが、首元に何やら冷たい感覚を感じた。


「つめたっ!」


すぐタオルを外し、確認すると横に杉野が座っていた。


「うわっ!杉野!?」

「そんな驚かないでもいいじゃん。」


なんと杉野が缶コーヒーを俺の首元に当てて座っていたのだ。


「なんでまだ会社にいるんだよ。」

「それはこっちのセリフだって。」


はいと缶コーヒーを渡されたのでありがとうと言って受け取った。

なんで杉野がいるのかよく分からなかったし、なぜ隣に座っているのかもよく分からなかった。

すると杉野が俺に話しかけてきた。


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