第19話 借金を返すために
-ピピピッピピピッ
今日もいつも通り朝6時に起きる。そしていつも通り菓子パンを食べて支度して自宅を出る。
いつも通りの仕事…じゃなくて、今日から少し違った生活が始まる。
今日から給料を増やすために仕事量を増やす。
なぜ増やすかって?
俺は借金をしたからだ。
借金をしたと言っても親から借りた。返さなくてもいいとは言われているけれど返すべきだと思った。
「今日帰ったら動けないんだろうなぁ…」
俺の仕事の上司太田さんにあれこれやれと振り回されると分かって昨日は柚子ちゃんのお見舞いを早く済ませ、家に帰って寝た。
「でも、俺が決めたことだからしっかりやらないと!」
自分で決めたことだからやらなきゃいけない。こういう時って空回りするから気をつけなきゃいけない。
とりあえず、会社に着いたら太田さんに直接話に行かなきゃいけない。
緊張する。何か違うことをするってだけで周りから浮いている気分になる。でもやるんだ。
いつもより会社に早く着き、ロッカーで着替えていた。
「あ!菊月さん!おはようございますっす!」
「岡山か、おはよう。」
岡山は俺のロッカーの隣を使っている。
「あれ?今日珍しく早いっすね。」
「あぁ、ちょっと…な。」
「なんかあったすか?もしかして、借金のことすか?」
「声がデケェって!」
慌てて岡山の口を塞ぐ。
「すいません…」
「まぁ、いいけど。」
岡山は口が軽そうだから最初に借金の相談をしたのは間違っていたかもしれない。
「具体的に何するっすか?」
「今日なら仕事増やしてもらう。」
「マジっすか!?」
また岡山はデカい声を出した。
「だからうるさいって!」
次は岡山の頭をチョップした。
「いやいや、驚くっすよ。あの菊月さんが決められた仕事以外を自分からやるなんて!例え借金のことでもそこまでするとは思わなかったす。」
「俺ってそんな人間に見えていたのか…」
変なイメージが付きつつある事に少し残念に思った。
「俺はやるときはやる男なんだよ。」
「菊月さんかっけぇす!」
「お前バカにしてるだろ。」
岡山の素早いの合いの手がどうもバカにしてるにしか聞こえなかった。だから岡山をどつき回した。
「やめてください!菊月さん!謝りますから!」
「分かった、分かった。」
俺は岡山より早く来ていたから着替えや準備は終わっていた。
「じゃあ、行ってくるわ。」
「死なないでくださいっす。」
「死なない程度に頑張るよ。」
と言ってロッカールームから出た。
「ええと、太田さんはどこにいるかな…」
太田さんはいつの間にか職場にいることが多い。まぁ、俺がいつもギリギリまで職場に現れないからかもしれないけど。
が、誰も太田さんより早く来たことがないという噂だった。
しばらく探していると、人影が見えたのでそちらへ向かった。
「あっ、太田さんおはようございます。」
「お?菊月じゃねぇか!おはよう。珍しいなお前が早くここにいるとは。」
やはり太田さんからも珍しいと思われてるらしい。
太田さんはいくつかのファイルを持って職場のあらゆるものの点検をやっていたみたいだ。
よく見ると自分の持ち場や周りの作業台を見ると整理整頓がされていて、綺麗になっていた。
「これって太田さんが毎日やってるんですか?」
「これか?あぁ、そうだな。やりやすい方がいいだろ?」
と笑って言った。
毎朝これを全てやっているのか…
ここに就職してから今まで何も考えずにやってきたから気にしてもいなかったけれど、確かに毎朝やりやすさは感じていた。
太田さんはただ怒鳴るだけの人かと思っていたけれど、新たな一面を発見できた気分だった。
「おし、これで最後だな…で、菊月なんだ?」
ちょうど準備が終わったみたいで太田さんはこっちを向いて聞いてきた。
「あの、今日から自分の仕事量増やしてもらえませんか?」
「どうしたんだ?いきなり。今日は珍しいことばかり起こるなぁ。」
さすがの太田さんも驚いた様子だった。別に2度も驚かせるつもりはなかったんだけど。
すると太田さんの方からこう言ってきた。
「もしかして女か?最近杉野と仲良いもんなぁ。」
「いやっ!!違います!!」
驚きすぎて即反応してしまった。反応したら負けだと思った。
「隠さなくてもいいじゃないか。で、杉野のどこがいいんだ?」
とニマニマしながら太田さんは聞いてきた。
「いやっ!ほっんとに違いますから!」
最近はやたらと杉野の名前がよく出る。なぜだ?そんなに仲良くしてるように見えるのか?
「まぁ、聞かないでやるよ。仕事を増やしたいんだっけ?」
「あっ、はい。そうなんですけど…」
「覚悟はあるか?」
「えっ!?」
いきなりそんなこと言われたら構えてしまう。でも俺は俺なりに覚悟を決めてきたつもりだ。
「やります!やらせてください!」
「そうか…」
太田さんはそう言うと俺の肩を叩いて、
「分かった、まだ仕事始まる時間じゃないから準備しとけ。」
「あっ、はい!」
「それと、お前の持ち場は他にできるやついたか?」
「多分岡山ができるはずです…」
仕事を教えたのなんか岡山くらいしかいない。
「そうか、じゃあ岡山に今日から菊月の持ち場と掛け持ちでやるよう伝えておけ。」
「はい、分かりました。」
そう言ってどこかへ去っていった。
いつもの怖い感じの太田さんじゃなく少し嬉しそうな気がした。
「これから始まるんだな…」
少し不安もあるがいつもより気合を入れて仕事に臨むことにした。
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