第17話 やっぱりヒーロー

今日も早めに仕事を終え直行で銀行のATMに向かった。

ATMに行って確認すると


「本当に振り込まれてる…」


自分の貯金と別に150万円ちゃんと振り込んであった。


「父さん、本当にありがとう…」


本当にありがたかった。父さんが貸してくれなかったら今どうなっているか想像もしたくない。


「でも、やっぱりなぁ…」


150万円という数字を見て昨日の父さんの言葉を思い出す。


「返さなくていいとは言われたけどやっぱり返すべきだよなぁ…明日から仕事増やしてもらえるように頼もうかな…」


うちの会社はやりたいと言えばいろんな仕事を貰える。その分給料が増えるシステムになっていた。

俗に言う頑張れば給料が増えるってやつだ。


「よし、明日から頑張ろうと。でも柚子ちゃんのお見舞いに行けなくなるかもなぁ…」


仕事を増やすと言うことは今まで仕事以外で使っていた時間も仕事に費やすと言うことになる。

柚子ちゃんが心配だけれど、お金を借りようと思った時からそうしようと思っていたので仕方ないと思った。


「太田さんから使いまわされそう…」


太田さんに怒号を浴びあっちこっち走り回ってる自分が安易に想像できた。


「あっ、そういえば…これ気になってたんだよな…」


俺はポケットから手紙を取り出した。


「これってどういう意味なんだろう…?」


この手紙は途中で文が終わっていた。


“蓮お兄さんお見舞い来てくれてありがとうございます。

お見舞いに持ってきてくれた水ようかん美味しかったです。

私本当は”


文はここまでで途切れていた。


「本当は…?うーん、本当は水ようかん以外のがよかったです。とか?」


女の子ってよく分からないなと思いながら、いつも水ようかんを買うお店にやってきた。

水ようかん以外何しようか色々見て回っていたが、


「分かんないや。」


結局水ようかんにしてしまった。


「次は何いいか聞いてみるか。」


水ようかん片手に車に乗り込んだ。





「今日は蓮お兄さんくるのかな?」


最近蓮お兄さんが来てくれないから、ここに来てくれるのは看護師さんくらいしか来ない。

あと、少し怖い。

またあの借金取りの人が来るのかもって思うとすごく怖い。しかも、今日借金を回収に来る日。絶対にあの人が来てしまう。

だから、


「蓮お兄さん来て…」


怖いからこれくらいしかできない。今私を救ってくれるのは蓮お兄さんしかいない。蓮お兄さんにありがとうって言いに来たのに、また蓮お兄さんに助けられてしまう。でも、今の私じゃ何もできないから。そう祈るだけ…


-コンコン


蓮お兄さんが来てくれた!わたしを助けに来てくれた!


「蓮お兄さ…」


違った。あの人だった。怖い、どうしよう体が震えてきた。


「楠木さん、約束の日です。」


ゆっくり近づいてくる借金取りの人。お願いだから来ないで…!

何も言えずただただ目を瞑って震えていた。

乾いた靴の音が近づいてくる。何もできない。助けて!助けて!


「あの、ちょっといいですか?」


扉の方から声が聞こえた。


「蓮お兄さん!!」


今度は本当に蓮お兄さんだった。来てくれたんだ。そう思ったら思わず叫んでいたし、涙がポロポロ落ちてきた。


「あなたは、3日前にそこで会った…」

「これでいいですか?」


すると蓮お兄さんは1つの封筒をその人に突き出した。


「え、えっと、これは?」

「150万円です。」

「えっ…蓮お兄さん?」


私は驚いた。確かに心のどこかでそんなことを願っていたけれど、まさか本当に150万円を持ってきてくれるなんて。


「あ、あの、楠木さんのご親族さんですか?」

「そういうのいいんで、それ持って早く出て行ってください。もう柚子ちゃんの目の前に現れないでください。」


蓮お兄さんはそう言って借金取りの男の人を外まで背中を強引に押した。


「いや、まだ確認を…」

「いいから早く!」


そう言って無理矢理扉を閉めた。何度かノックして何か言っていたが、蓮お兄さんは反応せずいなくなるまで扉の前に立っていた。

やっといなくなって、


「柚子ちゃん、大丈夫?」

「蓮おにい…さぁん…」


近づいてきた蓮お兄さんに泣きながら抱きついてしまった。恥ずかしさとかそんなんじゃなくただただ怖かった。やっと解放された気がした。


「よしよし、よく頑張ったね。」


そう蓮お兄さんが言うと私の頭を優しく撫でてくれた。


「わぁぁぁん!」


優しく撫でられたのなんかいつぶりなんだろう、そのせいで余計涙が溢れてきた。

あぁ、本当に、本当に昔からやっぱり


“蓮お兄さんは私達のヒーロー”

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る