第14話 バカにしちゃいけない
「じゃあこれをあと3日後までによろしくお願いしますね。」
そう言ってスーツの男の人は病室を出て行った。
私は何も言えなかった。もらった紙を見て顔の血の気が引いていくのが分かった。
その紙には
“お客様の返済金額150万円。12/9までに支払いを完了してください”
と書いてあった。お母さんとお父さんが死んでから毎日のようにインターホンを鳴って迷惑していたあの時が蘇る。
1人でずっと泣いていたあの時…
「…どうしよう…」
いくら紙を見つめてもその文字は変わろうとはしなかった。
今日もなんとか定時で終わったので柚子ちゃんのいる病院に行く。
「病院行く前にお見舞い買っていかないと。」
前と一緒の和菓子屋さんに行き、同じ水ようかんを購入した。
しばらくして病院に着いた。
エレベーターに乗ってすぐ曲がり角を曲がると柚子ちゃんの病室だ。
曲がり角を曲がったところで柚子ちゃんの病室から誰かが出てくるのが見えた。
(あれ?今日は珍しくお客さんがいる…)
そこに見えたのはスーツを来た男性だった。
「では、失礼します。」
と言ってこちらへ向かってきた。
「どうも…」
目が合ったので挨拶をするとなぜかガン見された。
ガン見されたまま動かないので、
「なんですか?」
と聞くと
「あ、いえ、失礼します。」
とだけ言って去っていった。
(感じの悪い人だなぁ)
誰しも見知らぬ人にガン見されたら気分は良くない。
少し嫌な気分になったが、気を取り直して柚子ちゃんの病室に向かった。
-コンコン
「柚子ちゃん、入るよ。」
と言ったが応答はなかった。
「入るよ…?」
恐る恐る扉を開き部屋に入って行った。
「柚子ちゃん返事なかったけどどう…」
中に入り柚子ちゃんを確認できたのでそう言ったが、それどころではなさそうだった。
「どうしたの!?柚子ちゃん!」
柚子ちゃんは青ざめた顔で1枚の紙を見ていた。
「あ…蓮お兄さん…」
ようやく気付いたようで俺の顔を見るなり、泣きそうな顔になっていた。
慌てて近づいて紙の内容を見てしまった。
「これは…」
そこには消費者金融からの紙で返済金額150万円と見えた。
さっきのスーツの人はそういうことだったのかと予想がつく。
柚子ちゃんは震える手で俺の服の裾を握り、震える声で
「ど、どうしよう…蓮…お兄さん…」
柚子ちゃんの顔からはポロリと涙がこぼれる。
「まず落ち着こう…えっと、ちょっと待ってて。」
柚子ちゃんはゆっくり頷いた。
一旦俺は病室の外に出た、
自動販売機に行き、水を2本買った。
「借金って…」
あまりにもの多額の金額に驚いた。
まさか、両親が亡くなっただけではなく借金にも悩まされていたとは。
とりあえず水を持って病室に戻った。
「大丈夫?柚子ちゃん。」
まだ下を俯いて元気は無さそうだった。
「飲める?」
「はい…ありがとうございます…」
柚子ちゃんは渡した水をゆっくり飲んでいった。俺も少し落ち着かせるために水を飲んだ。
「落ち着いた?」
「はい。大丈夫です。」
柚子ちゃんを見ると少し顔色は良くなっているように見えた。
しばらくすると柚子ちゃんがこう言った。
「私、両親が交通事故に遭うまで普通に女子高生をしていたんです。少しお金の面では余裕はなくて、周りの子達に着いていけないこともあったんだけど、それでも両親は私に出来るだけいろんなことをやらせてもらえたんです。でも、借金までしてまで…バカですよね…」
柚子ちゃんは苦笑いをしながらそう言った。
確かに、借金をするまでとは思ったが俺は違うと思った。
「柚子ちゃん、それは違うよ。」
「え?」
真剣な顔で話す俺に柚子ちゃんはびっくりしたようだ。
「確かにここまでする必要がなかったのかもしれないけど、お父さんとお母さんのことはそんなふうには言っちゃいけない。柚子ちゃんが他の子達と同じように笑って楽しく過ごせるように一生懸命考えた結果なんだと思う。それをバカだの一言で片付けてはいけない。」
「えっ、はい…」
とても熱く語ってしまった。柚子ちゃんはさらに驚いていた。
「あっ、ごめん。熱くなりすぎた。」
「い、いえ…」
まだ柚子ちゃんは驚いているようだった。
「俺の父親が良く転勤する仕事でさ、学生時代はコロコロいろんなところに住んでたんだ。だから父親とはあんまり遊べてなかったんだ。」
「そう…だったんですね…」
俺はなぜか昔話を話していた。でもこれだけは伝えておきたかった。
「本当にたまに父親が遊んでくれる時、俺が楽しめるようにって色々物を買ってきてくれたり、いろんな遊びを考えたり教えてくれたんだ。まぁ、中には面白くないのもあったんだけど。」
今思い出して少し笑えてきた。
そんな俺の話を柚子ちゃんは真剣に聞いてくれた。
「だけど、そんな父親が大好きだった。今考えると俺のために忙しい間を縫って考えてくれたんだから。」
真剣に聞く柚子ちゃんの肩に手を置いて
「誰しも自分の子供を不幸にしようなんて思ってこんなことしないよ。だから柚子ちゃんのために一生懸命やってくれたご両親をバカにしちゃいけない。」
そう言って俺は
「ごめん、俺今日ちょっと用事あるからこの辺で帰るよ。」
「えっ、まだ来たばっかり…」
柚子ちゃんはあわあわ慌てていた。
「あっ、これまた水ようかんだけど食べて。」
と出ようとした時床に落ちてる手紙を見つけた。
そこには
“蓮お兄さんへ”
と書いてあった。
「これ俺に?ありがとう!」
と言って手紙をしまった。
「ちょっと待って…!」
その声には反応せず、俺は水ようかんを渡して病室を出た。
病室の扉を閉め扉を背もたれにして
「150万か…どうするかな…」
なぜかとんでもないことを考えていた。
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