第13話 今度は絶対に
「何もすることがねぇ…」
携帯片手にそう呟く。
連日柚子ちゃんのお見舞いに行ってたので、予定を考えることも入れることもなく、しかもやるべき日課も終わってしまって、退屈そのものを過ごしている。
ふと、柚子ちゃんの髪の変化に気づかず怒らせてしまったことを思い出す。
「女心の理解をしないとなぁ…」
電源を消していた携帯を付け直し、インターネットを起動した。
女心 男が理解する方法
と検索をかけてみた。
なんとなく1番上に出てきた
“女心とはなにか!”
というタイトルに惹かれたのでそのページを開いてみた。
「えっと、なになに…」
そこにはいかにも女性らしい文面でたくさんのことが書いてあった。
まずはじめに、
“女心が分からないそこのあなた!“
という出だしは柚子ちゃんに指を刺されて言われてるみたいだった。
“女心を理解するということは、相手の女の子の見て欲しいところを理解すること!女の子は直接なんて言ってきません!小さな変化にいかに気づけるかが大切です!例えば、髪型やネイル、化粧など少しの変化があればその変化点と褒めることをすると例え間違っていても、女の子からしたら嬉しいし、私を見ていてくれてるんだと思わせることができます!“
「やっぱ、そういうことなのか…」
昨日は見つけられず、柚子ちゃんを怒らせてしまったが、苦し紛れに言った髪型がなんとか命を繋いだ。
またさらに、
“女の子は何か自分の変化を見て欲しい時、あなたを見つめたり、何か雰囲気で接してくることがあります!そういう時はすかさず見つけましょう!“
「って、言われてもなぁ…分からないもんは分からないって…」
でも、そういう細かいところに気づける人間は好かれると思う。
「女の子と接するには必要なことか…」
そのあともネットを漁って記事を読んでいた。
(今度は絶対ヘマしないようにしないと…)
もうあんな顔されてたまるか!と決心した。
「こうじゃないしなぁ…こうでもない…」
書いては紙を丸めて捨てるのを繰り返していた。
蓮お兄さんに手紙を書きたくなったので、看護師さんに便箋を用意してもらった。
実は昨日蓮お兄さんが来た時、咄嗟に後ろに隠してたのは鏡だけじゃなくて手紙も隠してた。
“毎日お見舞いに来てくれてありがとうございます。”
や、実は本当は昔会ってたなんてことも書いてみようとしたんだけど、なかなか文がまとまらなかった。
「本当に私のこと覚えてなさそうだったし、びっくりさせちゃったら嫌だしなぁ…」
なんかもう、知らないなら知らないままの方がいいのかな…なんて思ったりもしてきた。
でもお母さんとの約束も守れないし…
「はぁ…どうしたらいいんだろう…」
本当のことを伝えて蓮お兄さんがますます私に気を遣ってしまうのは申し訳ない気持ちだった。
今日は手紙の事を1日中考えて、検査とかしたらあっという間に終わってしまった。
結局手紙は何も書かなかったけど…
-翌日
今日はもしかしたら蓮お兄さんがくるかもしれないと思いながらまた手紙とにらめっこしていた。
「何書かばいいか分かんない…」
手紙は
“いつもお見舞いに来てくれてありがとうございます。水ようかんおいしかったです。私本当は…”
から全く進んでいなかった。
昔会ってたこと、家族全員が蓮お兄さんにお礼を言いたいことを書きたいんだけれど、書いたらそこで蓮お兄さんとはお別れな気がして…
なぜかもっと一緒にいたいなんて思ってたりもした。
「はぁ…私なに考えてるんだろ…」
今度は絶対に伝えなきゃいけないという考えともしかしたら来てくれなくなるかもという2つの考えが頭をよぎる。
「本当のことを伝えないといけないのに…」
叶うはずもないのに現実に起こってくれないかと願ってる自分がよく分からなくなっていた。
ふいに時計を見ると、もうお昼を回っていた。
「もうこんな時間…」
程なくして病室に昼食が届き、お昼ご飯の時間になった。
「とりあえず、手紙は後にしよ。」
手紙を片付けて昼食を取った。
昼食を食べて、色々検査を受けてまた手紙と葛藤する。
「……」
ペンは動かない。
もうすでに16時を回っている。
「今日もダメかな…」
書くのを諦めた。
-コンコン
病室をノックする音が聞こえた。
まだ16時手前蓮お兄さんが来るにはまだ早い気がするけど…
「どうぞ。」
ドアが開きコツコツと高い靴音を鳴らしてスーツを来た男性が入ってくる。
もう金輪際見たくないと思った男の人だった。
「探すのに苦労しました。楠木さん。」
その男の言葉にゾッとする。
(まさか、ここまで調べてくるの…?)
言葉も出ない私に遠慮なくズカズカと近寄ってきて数枚の紙を渡された。
「まだ払いきれてないんですよ。もう期限近いんでどうにかしてくれないと。」
まさに仕事だからという言い方で配慮も何にもなく私に言ってきた。
「早くしてくれませんかね。もう待てませんから。」
私は言葉も出ず、ただただ目の前が遠くなっていくだけだった。
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